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アートピクニック ON THE WEB 1 中山ダイスケ

..――中山さんの作品は痛いのに優しいというか、一見ソフトなのにメチャ危険というものが多いですが。これらは人間の感性を刺激してる訳だけど、感覚のずれによって見えてくるものが大事なの?

大事です。きっと映画も音楽もズレを楽しんでるんだと思う。逆にズレがないもので面 白いと感じるものに出会ったことがないです。

――作品のなかにスポーツが素材として出てくるものがあるんだけど、スポーツって結構ストレート勝負ですよね。中山さんのアプローチってそういう点では、スポ魂とはずれてる?? スポーツを作品に使っているのは何故??
身体のエネルギーって信じてるんですか?


スポーツも一見ストレートに見えて、実はすべてがハプニングの連続なんだと思いま す。ただ、ほとんどのスポーツはきちんとした数字による勝敗が決まった時点で、い ったんブツッと終わるでしょ。それが原因でストレートに映りやすいのだと思いま す。そこだけを期待してる人も多い訳だし。僕の作品も噛めば噛むほどの「味わい」 というよりは、強くてなかなか取れない味の方を優先することが多いから、似てるか も知れないけれど、ほんとうはプロセスを想像してもらえると嬉しい。「ストレート ねー」と、美術関係者にちょっとイヤミも込めて言われることも多いのですが、僕に とってはオッケーです。一回どこかで見た人が、絶対覚えていてくれるっていうの は、大事なことで、とても難しいことだと思っています。それに基本的に「味わい」 は作家が用意するべき質のものではないと思ってますし。

――中山さんの作品のなかで2人以上が関わって見えてくる作品、コミュニケーションが重要なポイントのものが多いと思いますが、人間の感性自体はやっぱり個人より他者からの刺激によって変化していくって考えますか??

100%そう思います。自分を相対化できるのは(特に僕のような無信仰の人間には) 他者しかいないと考えます。僕は漠然と、夢のような世界平和も世界中の人がそれに 気付けば実現するんじゃないかって楽観的に思ってます。なにかのアイコンに向かっ て自分を供えようとするよりも、隣の人と話をすることの方がよっぽど大事。生存し 続けたいというベクトルはコミュニティーのなかで培われていくものだと思うし。コ ミュニティーから切り離されちゃったり、そう感じてしまうと、人間って簡単に死ぬでしょ。ちょっと質問とずれたけど「感性」なんていうのも当然その一部です。

――最近は、ファッション・ショーのアート・ディレクションとかしてるとのことですが、具体的にはどんなことしてるの?? 楽しいですか??


季節ものなんで、毎日やってるわけではないけれど、ファッション・デザイナーっ て、数少ない「うらやましい」職業なので、手伝ってるだけでも楽しいです。 アー トディレクションは、CLAUDIAのショウに限っては100%僕の考えで基本構成をやらせ てもらえるので、やりがいもあります(アイデアだけくれ!!っていう人もいて、そ れも面 白いけど)。実際には少し前からスタジオに行って、壁に貼ってるコンセプ トのメモや、制作段階の服を見たり、彼女の抽象的なイメージを、どうやって視覚化 させていくかという組み立てから始めます。ほんとに彼女は言葉で説明するのが下手 なので、小さな発言も聞き逃さないようにしてキーワードを拾っていきます。彼女は 普通のウォーキング・ショウが嫌いで、いつも変わった場所で、変わった演出を好 みます。なので、場所選びから始めて、その間に、ショウの基本アイデアを考えま す。
モデル選びや、スタイリストやヘアデザイナーがやろうとしているイメージもよく見 ながら、テクニカルのチームとショウの演出方法の基本を考え、日程(大物デザイナ ーと重ならないようにとか)までのすべてを設定します。ショウは20分程度なのです が、今回のようにライブ映像とのからみ、振り付け師によるモデルの特殊な動きと音 楽との決めごとなどが多い場合は、リハーサルも何度もやりながら、時間をかけてタ イミングを決めていきます。 いっぱいアイデアを詰め込んでおいてから、最後はや っぱり主役の服が見えやすいように、少しずつアイデアを削って、きれいに整えたこ ろには本番です。そのあたりは、自分のショウのプロセスと同じです。
本番中は、ずっと後ろでトランシーバを付けて指示を出します。やっぱりちょっと着 替えが遅れたり、照明や音楽のタイミングがずれると、いろいろと本番中に変更しな いといけないので、ぎゃーぎゃー叫んでました。結局、カメラマンがカメラ並べて狙 ってるのは服だし、記者がメモってるのも服のディテールなんだけど、だったら、マ ネキンに服着せて並べとけばいいかっていうとそうでもない。なんか演出しないと、 服が服らしく見えないんです。 服はたしかに服でしかないけれど、ショウの時点で はすべて世界にひとつしかないオリジナル作品なので、それぞれストーリーがあるわ けです。それに、ブランドやデザインものの服って、確実にプラスアルファのイメー ジとともに買われていく商品でしょ。ファッションショーって、そのプラスアルファ の一例なんでしょうね。

――このままNYに永住するの??


それはわかりません。だけど、できれば次は東京でもNYでもないところに住みたいです。
日本人に生まれて心から良かったって思ってるけど。あの場所に生まれたことはただの偶然で、僕は選択していないことなので、せっかくだから、この先は住みたいところに住みたいです。



[かとう えみこ 美術批評・キュレーター]

  


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