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アートピクニック ON THE WEB 4 鳥光桃代

.. ――ニューヨークにいったのはいつから? きっかけは?

96年の秋、PS1のスタジオプログラムに参加することになり1年の予定でNYに来て、ずるずると今に至る。

――そのまま居着いてしまうんだから、やっぱり日本より住み心地いいのかな?

うーん、タフなところなので頭がはげそうなくらいストレスのたまる日もあるけれど、いちいちみんな細かいことにこだわらないので私には向いてるかも。日本で我の強い人のようにいわれることがあるけれど、もっと我の強い人がいっぱいいるので楽。

――今後もニューヨークを拠点にしていくの?

しばらくはそうだと思う。NYってアメリカじゃないでしょう? 比較的世界のどこともアクセスしやすい場所だと思う。


――世界中で展覧会を経験してますが、もっとも気に入った(印象的だった)展覧会はどこだった?

うーん、これってひとつ【には?】選べない。97年、オーストリアのグラーツであった私にとって初めてだった国際展。特に意識的にそうしたわけではないんだろうけど7割が女性作家で、にもかかわらず、女性性とは関係ない強い作品がほとんどで、作家もアクの強い人が多くて、特にアクの強かったボスニアとポーランドの作家2人とはいまだに個人的な友だち。
その当時、戦争が終わって3カ月ぐらいしかたっていなかったので、ボスニアの作家は「当時国連軍の指揮系統だった明石康さんのせいでボスニア人が大量に死んだ」と思っていた。だから日本人の私と、敵国だったユーゴスラビア人の作家をあからさまに憎んでいて……。ここで全部書くと長いから飛ばすけど、最後は3人とも仲良くなったしそのボスニアの作家と私は大の友だちになった。もちろん戦争の話にもなったけれど、お互いの作品に対する尊敬があって作家としてお互いを認めたからで、アートってすごいと思った。
会場となったグラーツは、町ぐるみで展覧会をサポートしていて、レストランやバーに行くと灰皿やビールグラスやビール瓶に展覧会のロゴが入っているのをたくさん見かけたのは驚いた。
もうひとつは99年のロンドンで、展覧会の2年前から展示やカタログについて準備をした。ポンピドゥのキュレーターがテート・ギャラリーで国際展をつくるという権威と権威のカップリングみたいな展覧会。
展覧会のためのオープニングレセプション以外にもコレクターが開くパーティーだとかキュレーターが開くパーティーだとかテート友の会(要はテートの小口パトロン)だとかなんだかんだと延々と毎夜社交パーティーが……。でも彼らのカタログに注ぐエネルギーってすごいと思った。
もうひとつ、制作を受けたのは去年だけどオープニングが今年の夏にあるイタリアの海沿いの小さな町アルビゾーラのセラミックの展覧会。これって、すごく手作りっぽい展覧会。 
若かりしころのルーチョ・フォンターナがセラミックの作品を作っていた陶器の町。去年の夏の間、ふだん作品のなかでセラミックを使わない作家ばかりをよんで制作してもらうというプロジェクトで、予算はそんなにないからミラノまでたどりついた作家を自分たちで車でそこまで運んで、山の上にいくつも部屋のある大きな屋敷の人が作家を泊めてくれて、協賛してる海に面した食堂があってめしはそこで食べるならいくら食べてもただ、とかいうおもいきり低予算な展覧会。
私もパリの展覧会があったからついでに電車で遠出したかんじだった。彼らは夏の間じゅう毎週末に2人ずつ、計17人をそうやって迎えていたらしい。
田舎町で英語の通じる人は限られていて、私が何か込み入ったことを伝えたい時は同じときに来ていたフランス人の作家(彼は仏語のみ)の奥さんに英語で伝え、それを誰かフランス語のわかるイタリア人が聞き、当のイタリア人に伝える、まるで伝言ゲームみたいだった。
海辺の町で、ビーチから1分のところにある工房にいるとたえず波の音がしていて、気持ちが安らいだし、お昼はローカルな料理と酒を波の音を聞きながら外のテーブルでたーんと食べて、生きてて作ってて幸せ、ってなかんじ。だから大都市とはかなり違う雰囲気の展覧会。
オーガナイザーのがんばりを受けて、あちこちから予算が降りたそうで、参加作家の全員をオープニングに招んでくれるらしい。去年の夏、私を嫁にしたいとか、養子にしたいとか言っていたあのオープンな町人たちはいったいどうしているかしら……。


――うわぁ〜。楽しいねぇ。アーティストって止められないねぇ。いろんな体験をすることで次の作品への活力にもなるんじゃないの?
手作りの展覧会というのは、すっごく理解できる。私が関わってる展覧会は、ほとんど予算が無いとか、スタッフが限られているものばかりで、でも、その分、一緒にひとつの展覧会を作っている一体感みたいなのものは感じるよね。終わった後は急速に仲良くなっていたり、同士みたいな気持ちが湧いたりする。でも、意外と粘着型じゃなくて、クールなんだけどね。ヨーロッパは。


 
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