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アートピクニック ON THE WEB 7 PHスタジオ

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――そもそも、何で船を造ろうとしたのでしょうか?
しかも、山の上に船を登らせるなんて、奇想天外ですよね。

ダムの工事というのは全て引越です。家、道路、農地、全て引越の作業です。
山の上に船をつくるというよりも、森の引越をしたかったのです。
船のかたちをかりて。


――今年から、家をかりたそうですが、どんな家でしょうか?
5年間にわたって使うそうですね? 心地いいですか??

細長い家です。中庭がついている明治時代にたてられた建物です。
立地は、この地域の唯一の商店街に位置し便利です。
最初は5年間も人が住んでいなかったので、ちょっときつかったですが、
改装したので結構快適です。時にはオープンカフェなども、開きました。


――今年の出来事を教えてください。
特に印象に残ったことなどありますか?

たくさんありますが、ひとつだけ。船が具体的な姿を現してきたので、皆さんが結構現場に立ち寄ってくださるようになったことです。これまで本当にやると思っていなかったとか、どうやって船を牽引するのかとか、不時着した後のことをあれこれ考えてくれたり、地元の人がいろいろいってきてくれるようになったことです。

――灰塚ってどんなところでしょうか?
まわりにも楽しいところや美しいところ、美味しいところなどあるのでしょうか?

ムーミン谷のようなところです。
おいしいところはいっぱいあります。
「VOID Chicken Nugget」をご覧ください。


――どういうところが、ムーミン谷なんでしょうか?

川がどっちむいて流れているかわからない、複雑な地形であること。川が蛇行し、小さな集落が点在していたこと。盆地なので霧が深く、晴れの日でも、10時ごろまでは直射日光がはいってこないこと。全体が、ぽしゃっとした眠い感じの場所であることなどです。

――サイトスペシフィックの仕事が多いようですが、場所と作品の関係はどのように考えますか?

必要条件でもあり、十分条件でもあります。
でもそうもならないこともままあります。


――この土地と関わって、何か変わりましたか?

ダムのことを、水のことを少しは考えるようになりました。

――お客さんはどんな人たちがきましたか?

偉い人も、本当に一般の人もきてくれます。今年は北海道からもきてくれました。
もちろんそんなに多くはありませんが。


――お金とか大変じゃありませんか? アーティストは常にこの問題と闘っていると思うけど……。

これはいつもたいへんです。でもたいへんだから、続けていこうと思ってます。
僕らにしたら大きい仕事ではあるけれど、一般の人が家を建てるのに、ローンを組むように、毎年まいとし、物語を少しずつ進めていくような方法をとれば何とかなるかなと思っています。


――長期プロジェクトの問題点、難点など具体的に教えてください。

年をひとまわりとってしまうことです。20代が30代に、30代が40代に……。
でもそれは、遠くに住む自分たちの子供をずっと気にかけているという感じもあり、難点でも問題点でもないのかもしれません。


――日本の活動と海外の活動では、どこか違いを感じますか?

そんなに数多くの経験があるわけではありませんが、そんなにないです。

――これからも、こんなにデカイこと考えていますか?

これはデカイことではありません。いつも僕らの傍にある日常です。
強いて言えることは、通常非日常と思われる美術活動を、ゆっくりとした日常をつみ重ねていることで、何か突破できるかもしれないと考えていることです。
このプロジェクトは遠くに住む息子のような存在です。東京にいても、ここにいても。


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[かとう えみこ 美術批評・キュレーター]



   

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