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兵庫  江上ゆか
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exhibition震災から5年 震災と美術−1.17から生まれたもの

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震災から5年 震災と美術−1.17から生まれたもの

 「震災から5年」について書いてくださいと編集部からの御依頼。自分がかかわった展覧会をRECOMMENDというのも何だかなあ、とは思ったが、O山のYさんやW山のOさんといった方々の例もあることだし、兵庫県立近代美術館での展示を中心に、阪神間での一連の企画のことも触れつつ、報告したいと思う。
 この冬、阪神間のいくつかの美術館・博物館で「震災から5年」と題する企画が開かれた。結構誤解も多いようなので説明しておくと、これは別に当初から共同事業として予定していたわけではない。5年目にはどこそこも何かやるらしい、というところに「阪神間ミュージアムネットワーク」なる話せば長い事業が登場、それならと冠を統一し共同広報することになったのであって、内容はいずれも各館の自主企画である。
 美術の分野で展示を行ったのは芦屋市立美術博物館「震災と表現」展、兵庫の「震災と美術」展、あと神戸市立博物館が日本画家・西田眞人氏の作品を展示したほか、酒ミュージアムでは美術ボランティア「ピントゥーラ」の活動報告展が開かれた。
 芦屋の「震災と表現」は小谷泰子、杉山知子、堀尾貞治、涌嶋克己の4作家に絞りこんだ展示。対して兵庫は50人・団体の作品と記録集、リーフレット等の関連資料を展示した。芦屋は会場構成もブース式で個の仕事を際だたせたのに対し、兵庫はゆるやかな時間軸と表現のタイプで連ねて展示した。館の規模などにより自ずとそうなったともいえるが、同時期に同じテーマの対照的な展示となったわけで、結果的には良かったのではないかと思う。
 兵庫の準備作業は、館ボランティアの協力のもと、5年間の新聞記事を整理することからはじまった。はじめのうちこそ震災関連の作品を網羅的になどと大きなことを言っていたが、すぐにしまったと思った。とにかく山のようにあるのだ。様々な物理的制約により最終的に落ち着いた50という数字は、従って5年間の出来事のごく一部に過ぎない。重要な作品なのに取り上げられなかったものもあるだろう。特に、これはもう一人の企画者(平井章一)と何度も議論した点でもあるが、今回の選択は震災との関連が見る人の目に明らかなものと限っており、震災を機にもっと別のかたちで内容を深めた表現を取りこぼしているという批判はあるだろう。
 ただ、そのように限られた50であってさえ、震災との関わりや表現のあり方は個々に大きく異なっている。5年目の展示としては、何か方向性のようなものを見いだそうとするのではなく、その違いにこそ焦点をあてたいと思った。出品者ひとりひとりからコメントをいただき、作品に添えるとともに図録に収録したのも、そのような意図からである。
 コメントを読んでいると、震災の直後、考えずにはいられなかった問い――今美術が必要なのか、或いは美術に何ができるのか――が、改めてリアルによみがえってくる。私たちの社会に美術は必要である。それは明白な答えであると、今は思う。だが、この国の美術のシステムもまた必要なもの?例えば美術館は?
 震災というぎりぎりの事態が剥き出し突きつけたものがショッキングであったのは、それが曖昧に済ませてきた日常の本質であったからにほかならないだろう。5年目の震災展は、神戸・阪神の美術館に出来るささやかな返答のひとつではあるが、大切なのは全てが今も続いているということであり、その意味で5年目の1.17もひとつの通過点に過ぎないのだと思う。
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震災から5年 震災と美術−1.17から生まれたもの
会場:兵庫県立近代美術館
会期:1月15日 (土) 〜3月20日 (祝)
問い合わせ:Tel. 078-801-1591
同展の会場風景は、http://www.senri-i.or.jp/museum/ にてスライド・ショー形式でご覧いただけます。

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She's Ritsuko, He's Sean
exhibition日高理都子とショーン・ローによる2人展

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日高理都子とショーン・ローによる2人展

会場風景
※以下をクリックすると拡大して見られます。
中央左:ショーン・ロー「Who?」
中央:日高理都子「世界の真ん中」

ショーン・ローによるパフォーマンス

ショーン・ローによるパフォーマンス
「Hop Around the Clock」
 イギリス出身のショーン・ローと、大阪出身の日高理都子。10年にわたり互いの出身地を行き来しつつ個別に活動を続けてきた2人が、ギャラリーそわか1階の2室と地下室を使い、思わせぶりなタイトルが示すとおり、自己(セルフ)をテーマに2人展を開催した。
 1階は平面やオブジェ、インスタレーションなどの展示。白いアルファベットが黒地に浮かぶショーン・ローの平面。近づいてみると、小さな手書き文字がもぞもぞ寄り集まって、ぼわんと大きな文字になっていることがわかる。たとえば「ME」を成すのは「EVERYBODY」「SOMEBODY」「NOBODY」、そしてタイトルは<Who?>。同様にTheirsでYoursが出来ている<Yours/Theirs>、さらに<He/Us><She/Him>…と、ズレながら続く人称代名詞の繰り返しに、何故か中学時代の無意味な反復学習を思い出すのは、共通一次世代の悲しさか。
 一方の日高のインスタレーション。ギャラリーの東西南北の壁に、世界各地の東西南北ではじまる地名が、メジャーなものからマニアックなものまで、順不同、長方形にあつめられている。西京極、西天満、西インド洋、西つつじヶ丘、西28丁目、西シエラマドレ山脈、etc、etc...。そういや地元に西多田東ってバス停があったっけ、いったいどっから見て西なんだよ、などとひとりごちつつ作品のタイトルを見ると<世界の真ん中>。
 文字や音という共通の素材を使いつつ、笑いの後にぴりっと「?」を残してみせるショーン・ロー、淡々と次第に大きな「?」を増殖してみせる日高理都子。そんなそれぞれの持ち味は、地下の映像作品でよりはっきりあらわれているように思った。
 たとえば日高はロンドンの町で通行人にいきなり「わたしはどこから来た?どこへ行くところだと思う?あなたはどこへ行くところ?」と次々問いかけ、困惑しながら、あるいはおどけつつ答える人々の言葉をその表情と共に記録する。ローの作品は、らせん階段を昇る足音の入ったラジカセを手に当の階段を上がり、上がりきったところでラジカセが「アァ〜」と叫びながら落ちてゆく<Aaaaggghh>など、誤解を恐れず言えば一発芸的、そして関節はずしてツボはずさず、で、特に「マイ・ウェイ」をアルファベットの綴りに直し「だぶりゅうえぃわぁ〜いっっ」と息もたえだえ超高速で熱唱するパフォーマンスの記録<MY WAY>には、暗い地下室でひとり泣きそうに笑いころげてしまった(かなり不気味)。いや、ここまで笑える美術はなかなかありません。
 会期中にはローによる5種類のパフォーマンスも行われたとか、残念な事に筆者はナマを逃してしまったが、幸い今後も神戸、京都などでパフォーマンスの予定あり、とのこと。
 なおこの2月、2人の映像作品は「映像のコスモロジー」展(ギャラリー2001、神戸)でも上映され、ローは「画廊の視点2000」(大阪府立現代美術センター)のオープニング・パフォーマンスを行っている。
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会場:ギャラリーそわか
   〒601-8428 京都市南区東寺東門前町
会期:2000年2月1日〜2月13日
問い合わせ:Tel. 075-691-7074

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report学芸員レポート[兵庫県立近代美術館]

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果たしてアレは使えるのか!?

 今日もつい、淀屋橋から本町まで、たった一駅200円も払って地下鉄に乗ってしまった。てな具合に、大阪、京都のアート・スポットめぐりに必ずやつきまとうのが、移動の問題。バスや地下鉄に乗るには勿体ない、けれども歩くと結構ひまのかかる、中途半端な距離。しかも大阪、京都とも、坂だらけの神戸に住む自転車族の私にすれば、超・超・超平らな町なのだ。こんなとき自転車さえあれば……! 世の中には折り畳み自転車という魅惑的な乗り物もあるにはあるが、十数キロの重さに十数万の値段では、ちとひるむ。
 そこで最近私が目をつけているのは、アレ、アレです、今どきの若者に人気のアレ。しかし、電車の中で二つ折りのアレを抱えている姿や、仲間とだべりながら銀色に光るアレで軽く流している姿はよく見かけこそすれ、例えば御堂筋あたりの目抜き通りを、歩道の段差もかろやかにかわしつつ、アレで疾走している、という奴には、ついぞお目にかかったためしがない。
 果たしてアレは使えるのか !? 「私はアレでがんがん画廊をまわってます」という方、是非是非ご一報ください。

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