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北海道
吉崎元章
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十勝の新時代III 伽井丹彌展
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現在四谷シモン展が国内を巡回し話題になっているが、帯広でも人形の展覧会が開催されている。帯広在住の人形作家伽井丹彌(かい・あけみ)の1990年以降の作品11点が並ぶ会場は、一種異様な空間である。美術館の一室というよりも、怪しい世界に迷い込んだような錯覚さえ覚える。一点の少年像をのぞいてすべて少女の像。薄暗いなかに浮かび上がる、幼さが残る白い裸体。人形とはかくも妖艶なものなのだろうか。彫刻からはあまり感じたことがない情念とでも言うべき生々しい魂の気配が漂っている。彼女の人形の特徴は、その皮膚感にあるようだ。白い肌に透ける青い血管が丹念に描き込まれ、体温さえ感じさせる。関節人形というオーソドックスな表現であるが、人体には本来ないはずの可動部の継ぎ目や球体の割れ目が、生身の人間以上に艶めかしい。
伽井が人形の道に進むおおきなきっかけはハンス・ベルメールの画集との出会いであった。それを機に上京し四谷シモンが主宰する「エコール・ド・シモン」に半年間在籍、人形制作の基礎を学んだのち、帯広で独学で制作を続けてきた。ちょうど東京の小田急美術館での四谷シモン展とこの伽井丹彌の展覧会を近い時期にみることになったが、関節人形という同じような形態をとりながら、そこに漂う空気があまりに異なっていたのが印象的であった。四谷シモンの作品は、下世話な興味をいとも簡単にはね除けるような精神の気高さ、凛とした気品を漂わせているのに対し、伽井の性器、陰唇までも執拗につくられた人形作品は、女性がてらいもなく醸し出すあからさまなエロスがある。
展示風景
人形と彫刻。いつからこの二つがはっきりと区別されるようになったのだろうか。古くは彫刻に着彩することもガラスの眼玉をいれることも決して珍しくはなかったことは、美術史の教科書を開くまでもなく明らかなことである。明治以降、西洋の彫刻が急激に輸入され、粘土や石、木などといった彫刻の素材に異なる物質の混入を拒否し、量塊、動勢などの造形要素だけで語ることを純粋な美への道と信じて進んできた感のある近代彫刻。そこからは人形を蔑視する風潮も少なからず生んだことも事実だろう。しかし、最近、現代美術における視点から人形をとらえ直そうとする動きが盛んになってきており、展覧会も目立ってきている。人間が古来から「ひとのかたち」をつくり、そこに自分の分身、愛する人の代用、崇拝する者の姿を重ね、愛憎や恐怖などの心の受け皿として、そして呪術的な力を秘めたものとしてきた。人形の持つ豊かな表現力と深い意味性が、これからの時代さらに注目されてくるのかもしれない。
最後に付け加えたいのが、その支柱や展示台の妙である。この生々しい人形だけでは多くの者に異様感さえ与えかねないところを、札幌在住の造形作家佐々木秀明が手がける真鍮製のそれらは、裸体を標本的に扱いながら、硬質ななかに理科実験室にでもありそうなノスタルジーを感じさせることで、作品により深まりを与えている。
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会期:2000年8月18日〜11月29日
会場:北海道立帯広美術館 帯広市緑ヶ丘2番地
開館時間:10:00〜17:00 休館日=毎週月曜日
問い合わせ:Tel. 0155-22-6963
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