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東京 荒木夏実
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event科学者として−笑顔と告発

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科学者として−笑顔と告発
 バイオハザード(生物災害)をテーマにしたドキュメンタリーか、何だかハードそうだな……とこの映画のちらしを見たときに思ったのだが、写真のおじさんの笑顔が気になり、紹介文を読むと「問題」よりも「人間」に焦点を当てて作られたものとわかって興味が湧いた。
 病原体実験施設である国立予防衛生研究所(予研)<現国立感染症研究所>が新宿区戸山の住宅地に建てられ、その危険性をめぐって地域住民から反対運動が起こった。ドキュメンタリーの主人公である新井氏は、予研で自ら細菌実験を行う所員でありながら、いわば内部告発者の立場でこの運動に加わっているのである。実験をしているときは「子供がおもちゃを与えられたように熱中する」と語る新井氏。愛している仕事なのだ。そんな究極の矛盾の中で辛い思いをしながら「こういう矛盾を抱えている自分ならではのポジションがある」と今いる場所から逃げず、住民と誠実な情報交換を行おうとする新井氏の姿に感動を覚えた。
 レベルは異なっても、仕事をする人ならば誰もが何らかの葛藤に悩むことがある。その時に割り切る、あきらめる、または闘う、辞めるというゼロか百かではなくて、矛盾を抱え、属しつつ批判するという選択肢もあるのだと思った。それは一見潔くないし、しんどい道だが、実は一番勇気ある力強い選択ではないか。
 バイオハザードの問題がこんなに身近に起こっていることの不気味さを、淡々と進む映像によってかえってリアルに痛感した。同時にドキュメンタリーに浮き彫りにされた「人間」の姿に、何だかとても励まされた。
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映画「科学者として」
監督:本田孝義
制作:戸山創作所/1999年
出演:新井秀雄(国立感染症研究所主任研究官)
   芝田進午(予研裁判の会会長)
   本庄重男(国立感染症研究所名誉所員)
上映会場:BOX東中野(2000年6月24日〜7月14日)
     パルテノン多摩(2000年10月9日)
問い合わせ:Tel.Fax. 03-3269-3729

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exhibition大地の芸術祭−越後妻有アートトリエンナーレ 2000

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ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー
 行って来ました。アート界きってのおタク(いや、マニア?一緒か。Art addict、Art devotee etc.)A氏の組んでくれたゴールデン・ツアーで、アブラモヴィッチの夢の家にもタレルの光の館にも泊まることができた。そして一人で行っていたら絶対あきらめたり見逃していたであろう作品の数々を、精力的につぶさに見て廻ることができたのである。自分で勝手に「苦手意識」をもっていたタイプの作品なども、devotee A氏の熱い解説を聞きながらはしょらず見ていくうちに、初めて良さがわかったりしたのも実に貴重な経験であった。
 力作ぞろいのアートワークもさることながら、この地方の自然にどっぷりとつかることができたのは素晴らしかった。険しい山々の間に突然現れる河岸段丘を生かした棚田の風景。何度も目を奪われた。自分は日本を知らないな、東京は本当に特殊な一地方なんだなとつくづく感じた。地元の人には全く迷惑な話だろうが、ここに住んで農業体験をしてみたいという願望に駆られた。ずっとは無理なんだけどね……。廃校を使った展示も多かったが、過疎とこの地方の将来について考えさせられた。
 なぜわざわざこんな所に?と思うような山深い場所に作品が隠れていてずいぶん苦労したが、このアートという仕掛けによってそれがなければ出会うことのなかった自然の姿にふれることができた。これもきっとこのイベントのねらいなのだろう。とても上手く機能していたと思う。平らな町並みの広がる東京に戻ると、山の見える風景がたまらなく恋しくなった。
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会期:2000年7月20日〜9月10日
会場:新潟県越後妻有6市町村
フォトレポート:
http://www.muse.co.jp/~haruki/tsumari2000/

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exhibition方法としての絵画−システミック・ペインティング2000

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渡辺聡
渡辺聡「Sphinx」油彩 2000
 旅行雑誌の写真をもとに寺や川などの風景の輪郭をひょろひょろとしたゆるいタッチで描く高橋やキャンバスにステンシルで動物のシルエットをくっきりと浮かびあがらせるはい島など、絵画制作に独自の方法を用いる5人の作家の展覧会。それぞれの「ルール」が見ていて楽しい。それにしても無数のドット状のシールを剥がして2枚組作品を作る渡辺の技法は、何度見ても気が遠くなる……。どうかしてるよ。
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会場:文房堂ギャラリー(東京都千代田区神田)
会期:2000年9月28日〜10月18日
出品作家:大槻英世・高橋信行・額田宣彦・はい島伸彦・渡辺聡
問い合わせ:Tel. 03-3294-7200

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report学芸員レポート [三鷹市芸術文化センター]

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フロリアン・メルケル
フロリアン・メルケル
「セバスチャンとアンドロメダ」
1998

フロリアン・メルケル
フロリアン・メルケル
「レオとアンナ、森の小径で」
1993
 三鷹市芸術文化センターでの展覧会にあわせてベルリンのアーティスト、フロリアン・メルケルが来日し、2日間のワークショップを行った。
 彼は主に白黒写真に手彩色する作品を制作しているが、人物写真をスライドで投影し、輪郭をなぞる壁画も描いている。今回はその壁画の技法を用いて、参加者がグループごとに大作に取り組んだ。
 グループでテーマを決めたら、ポーズをとって写真撮影。オリンピックの様々な競技のポーズをとるグループ、おどろおどろしい表情のアップを採集するグループなど、目的のイメージを想定して色々なカットを撮る。「ポラポジ」というフィルムで撮影し、専用の現像機を使ってその場でスライドを作成。壁に貼った白く塗装したベニヤにスライドを投影し、構図や大きさのバランスをとりながら位置を決め、輪郭をなぞって着色する。
 このようなプロセスを経てできあがった作品は、リアルでありながら全くのファンタジーという、フロリアンの作品世界に近づくことのできるものであった。写真をなぞることで、シロウトでも結構「上手い」絵が描けるところがなかなか面白い。どうも美術教育って一から「オリジナル」でないといけないようなところがあるが、こんなシミュレーションを通して創造の世界にふれるのもアリではないか。そこでは技術はほとんど関係ないのだ。
 それにしても参加者たちの熱意、集中力はすごい。以前イギリスの作家サイモン・パタソンとワークショップをしたときも、作家のアイデアが一人歩きしてどんどんふくらんでいくのをサイモン自身驚いて見ていたが、フロリアンにとっても大きな刺激となったそうだ。もっとも彼は2日間、指導というよりは自分が夢中になって人文字で「日本ドイツ」と読ませる作品制作に没頭していたのだが……。普段物静かなフロリアンがものすごくきびきび動いていたのが印象的だった。そんな少年のような作家の純粋な姿を目の当たりにできるのもワークショップの良いところである。


ワークショップ

ワークショップ
ワークショップ風景


 フロリアンとともに、所属画廊ヴォーンマシーネのオーナーであるフリードリッヒ・ローク氏も来日してドイツのアートシーンについてのレクチャーをしてくれた。この2人のコンビがなかなか良い。明るく社交的で根っからの楽天家のフリードリッヒと、寡黙でマイペースで着実に仕事を進めるフロリアン。展覧会実現に至るまでに、フリードリッヒの推進力に励まされると同時にきっちりしていないところに悩まされ、スピーディーかつ正確なフロリアンに助けられたものだ。2人とも基本的にどこかのんきで「ハッピー」な人たちである。私の抱いていた「ドイツ人」のイメージとはちょっと離れるのは、やはり彼らが旧東ドイツ出身ということも関係しているかもしれない。聞けば徴兵を上手く逃げて行かなかったり、コネや時代のドサクサで色々なことをすり抜けて来れたらしい。しかし、約1年ぶりに彼らに再会して気づいたのはその英語の上達ぶりだ。フロリアンなんてかなり自己流の文法を使っていたものだが、今では全く不自由ない。ニーズにしたがってどんどん吸収し、アダプトする彼らの柔軟さと軽やかさはとても素敵だと思う。(すっかり頭がかたくなりオヤジ化する人たちを廻りに見ているとなおさら感じるのか?)
 作家自身が楽しむ姿を見ると、学芸員としては心からほっとする。私も新しい体験をすることができて、フロリアンとフリードリッヒに心から感謝している。

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