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北海道 吉崎元章
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exhibition注文の多い美術展

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注文の多い美術展
 
 不景気が続くなか、どこの美術館でも予算が削られてたいへんなようだ。そうしたときだからこそ、学芸員のアイディアと熱意がますます重要になってくるのだろう。この展覧会のように、美術館の所蔵品を工夫を凝らしながら、作品との積極的な関わりのなかで楽しく見せていこうとする試みは、大いに学ばなければならない。美術館における教育に関心の高い学芸員が企画しただけに、子どもから大人まで楽しめる筋が通った展覧会となっている。
 宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』をもじった展覧会タイトルからもわかるように、お客さんに対して作品との接し方に次から次へと注文がつけられていく。触らせる、座らせるは序の口。林を描いた油絵の前では森の香りがする紙(葉の形をしている)を嗅がせる。唇のような形の彫刻の前ではマイクに向かって大きな声で話しかけさせる(それに反応する仕掛けがしてある)。ヘッドホンから流れる音楽を聴きながら抽象絵画の前に座らせる。ちょっとかわって、彫刻の下に潜って下から覗かせる。段に上らせ絵画をいろいろな高さから見させる。虫メガネで拡大させる。すべてが成功しているとは言えないが、童話のような語り口の楽しい説明パネルも手伝って、押しつけがましくなく、ついついその注文にしたがわせる手口は巧妙である。意外におもしろかったのが、無題の作品に自由に作品名をつけてもらうという最も単純なもの。それを作品の横の台に他の人が付けたタイトルをめくってみられるようにしている。予想以上にたくさんの人が参加していくのだという。さまざまなタイトルによって、さらにいろいろなイメージを広げていくことができるのが楽しい。
 宮沢賢治の童話のように、危険なもくろみはありませんのでご安心を。

展示風景 
展示風景
展示風景

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会期:2000年11月3日(金)〜2001年3月25日(日)
会場:北海道立旭川美術館  旭川市常磐公園内
開館時間:10:00〜17:00
休館:月曜日(ただし11/6、1/8は開館)、12/23、12/28-1/4、2/11
入場料:一般300円/大学生150円/高校生以下、65歳以上無料
問い合わせ:Tel. 0166-25-2577

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exhibition美登位創作の家アートプロジェクト2000 記憶の繭

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美登位創作の家アートプロジェクト2000 記憶の繭

美登位創作の家アートプロジェクト2000 記憶の繭
展示風景
 佐々木秀明の個展を以前にも紹介したことがあるが、先日、小学校の廃校の体育館で開いた展覧会があまりによかったのでふたたび紹介したい。廃校の体育館での展示といえば、「越後妻有アート トリエンナーレ2000」での北山善夫の作品も印象的であったが、こちらは、札幌郊外の畠と林に囲まれた小さな小学校の廃校の体育館。12年前に最後の卒業生を送り出したその校舎は、現在「創作の家」として3つの教室がアーティストに貸し出されている。当初からそこをアトリエとして制作を続ける佐々木秀明が、その体育館で作品展を開くという長年温めてきた構想を、石狩市の文化助成を得て実現させた。
 かつてのまま残された体育館には、卒業記念に共同で制作した大きな絵や、校歌や生活目標が掲げられ、誰にとってもなつかしさがこみあげ、胸の奥がきゅんとする空間である。ニュートラルな画廊に展示したときでさえ、雫の音と揺らめく光で遠い記憶をくすぐる佐々木の作品は、この場所の持つ力を得て、さらに心の奥深くに響いてくる。これまでの作品では壁に楕円の光を映し出していたが、今回は体育館の壁面に染みついたさまざまな記憶をそのまま活かすため、装置をはじめて空中へと展開させた。
 雪が積もりはじめたこともあり、会場までは札幌中心部から車で約一時間。決してたやすく行けるところではないが、遠く足を運んだ甲斐が大いにあった。静かに会場に佇み、いつまでも独占しつづけたくなる作品である。
 なお、佐々木秀明は、芸術の森美術館で12月23日から3月25日まで開かれる〈北の創造者たち2001〜「美術スル」見方〉展にも出品する。
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アーティスト:佐々木秀明 会期:2000年11月18日〜12月3日 11:00〜19:00
会場:美登位創作の家(旧美登位小学校体育館) 北海道石狩市美登位694-1
問い合わせ:Tel. 0133-66-3671

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report学芸員レポート [札幌芸術の森美術館]

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中根邸の画家たち
 長い間温めてきた展覧会「中根邸の画家たち」展が10月22日にオープンした。戦中戦後に札幌で画家たちを支援したひとりのパトロンに焦点を当てるこの展覧会は、地味な内容ながらなかなか評判が良くホッとしている。地元の新聞やテレビが知られざる札幌の美術発展の功労者として大きく扱ってくれたのも大きい。中根邸には海老原喜之助、児島善三郎、野口彌太郎をはじめ東京から多くの画家がひっきりなしに訪れ、一時期札幌の美術の拠点となっていたことはまぎれもない事実である。しかし、これまで不思議なほどにこの中根邸の存在やその主・中根光一という人物についてはほとんど知られていなかった。北海道美術にかなり詳しい人でさえそうである。パトロンという存在自体の重要性があまり認知されてこなかったうえ、彼が財をつぶして1954年に札幌を離れてしまったことも関係しているだろう。さらに、食べるのにも事欠く時代に、親が築いた財産をもとに作品を大量に収集し画家たちと豪遊を続ける様を、単なる金持ちの坊ちゃんの道楽としか見ず快く思わない人も多かったのも確かである。
 しかし、画家たちにとって絵を続けることが最も困難だった時期に、中根が果たした役割は計り知れない。彼がいなければその後がなかったと語る作家も多いと聞く。
 中根邸や中根光一に深く関わった作家のほとんどが他界し、時折関係した作家が語る以外ほとんど資料がなく、調査はかなり難航した。幸い、中根光一のご遺族と連絡がとれ、画家からの書簡や写真アルバムをお借りすることができ、かなり詳しいところまで分かってきて展覧会開催にこぎつけることができた。しかし、半世紀前のことでまだまだ謎に包まれた部分も多い。
 展覧会が始まって、中根を知る幾人もの方が美術館を訪ねてきてくれた。中根邸で下宿していた方、中根が主宰した絵画講習会でモデルを務めた方、中根が支配人を務めた会社で働いていた方など、さらに少しずつ中根の素顔が見えてきた。もう少し調査を続けていきたいと思う。調べれば調べるほど、単なる道楽息子という伝承が虚像であることがはっきりとし、札幌の美術に果たした役割の重要性がわかってきた。札幌の美術史の一ページにその名が残されていくことを望んで止まない。
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中根邸の画家たち〜戦中・戦後の札幌洋画事情
会場:芸術の森美術館 北海道札幌市南区芸術の森2丁目75
会期:2000年10月22日(日)〜12月17日(日)
開館:9:45〜17:00 11月以降の毎週月曜日休館
入場料:一般600円/高校・大学生300円/小・中学生120円
問い合わせ:Tel. 011-591-0090

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