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兵庫 江上ゆか
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exhibition榎忠展

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GUSTO HOUSEでの展示風景
GUSTO HOUSEでの展示風景
 豊田市美術館での「空き地」展に続いて、今回の榎忠さんの個展は「銃」である。榎さんはこれまでにも、大砲や薬きょう、ダイオキシンなどを扱った作品を発表してきた。と、こういう風に連ねてみると、ついそこに何かしら社会的なメッセージのようなものを期待してしまったりするかもしれない。銃であれば、戦争とか暴力に対するアンチテーゼといったものを。
 しかしほの暗い地下のギャラリーで、山と積まれた榎忠さんの銃を前にすると、鈍く光るその肌は、決して銃マニアではない私にも何事かを囁きかけてくるかのようにあやしく、ただどうすれば良いのかわからないような感覚が、ぐるぐると駆けめぐるばかりなのである。
 手に取ると、鉄で出来たこの銃、……重い。大きいものだと14〜15kgにもなるそうだ。当然、実際の銃よりも相当重い。重すぎる。過剰すぎるほどの実感。
 戦争どころではない人間のこわさを表したい、と榎さんは言う。結局はこんなものをつくってしまい、こんなものに酔ってしまいさえする。人間の闇の深さに突き刺さる榎忠さんの作品は、正しく妄想することさえ難しくなってしまったこの時代であるからこそ余計に、痛切なリアリティを感じさせてくれるのだろう。
 先月号ですでに原久子さんがレポートされていたように、このたびの榎忠さんの個展は神戸市内のギャラリーGUSTO HOUSEで始まり、1週間目の11月3日に一部の銃を持ち2 kmほど離れたMOKUBA'S TAVERNまで町中を突っ切って移動するというパフォーマンスを敢行。休日、賑わう商店街を抜けての大行進には、主催側が把握しているだけで150名と予想を大幅に超える人数が参加。制服姿の女子高生から飲み屋のおばちゃんまで、この客筋の広さも榎さんならではと言えるだろう。というわけで銃が全員の手には渡らず、行列の中にちらほらという格好になったのだが、祝祭的な気分で浮かれ気味に商店街を行く一団に、それにしても見て見ぬふりが多いのは、あまりにもこの国ならではの反応。
 ちなみにMOKUBAは神戸では老舗のジャズ喫茶。後日、銃に囲まれながらひとりじんわりとコーヒーを飲んだが、これもまたなかなか緊張感あふれる体験だった。

キャリーで銃を運ぶ女子高生たち
キャリーで銃を運ぶ女子高生たち
元町商店街で一服
元町商店街で一服
MOKUBAへの搬入風景
MOKUBAへの搬入風景
写真提供:GUSTO HOUSE

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榎忠展 PLAY STARTION
会場:GUSTO HOUSE 兵庫県神戸市中央区楠町5-3-11
会期:2000年10月29日〜11月11日
問い合わせ:078-351-5529 E-mail:
gusto@ci.mbn.or.jp

榎忠展 YOU ARE ON DUTY
会場:MOKUBA'S TAVERN 兵庫県神戸市中央区下山手通3-1-9
会期:2000年11月3日〜11月11日
問い合わせ:Tel. 078-391-2505

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exhibition内藤絹子展

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内藤絹子展
detail

 内藤さんは過去5年にわたり、毎年秋の終わり頃、個展、グループ展、二人展...とかたちを変えながら、山本さんの言うところの「阪急高架下のギャラリー」、ギャラリー2001で作品を展示してきた。私はこのうち初回の個展と昨年のドリート・ヤーコビさんとの二人展とを目にしており、今回が3/5回目となる。
 今回の個展は壁にかいた作品とおみくじとから成る。2001の壁は、内藤さんが、そしてここで展覧会を行ってきた数多くの作家たちが、直接作品を描き、貼り、そして会期が終わると再び白く塗り込めてきた壁でもある。その壁に対し、内藤さんはある意味非常にシンプルなスタイルでのぞんでいる。展覧会初日の前夜、この壁の前に立ち、彼女の中に浮かんでくる言葉を拾いあげ、書きつける。たどたどしくもある文字は、油性のインクを塗りつけた紙を壁に置き、上から指でなぞるという方法によって書かれたものである。……焼きいもの焼けたいい匂い……転びながら行く……これからもどうなるのやら……知識だけで……ありがとう。……内藤さんの文章はときに転がるように、ときに脈絡なく続く。またところどころは擦れて、文字そのものを判読できない。見る人には、白く塗り込められた壁の上を美しく埋める線の重なりと、そのあいだから言葉の断片が、まるで浮かんでは沈むように見えるだろう。内藤さんの「今」の、内面のざわめきをうつし出した壁は、その言葉の断片を拾い反芻する人の中に、またざわめきを呼ぶ、そんな力を持っている。いちばん果てしないのは人間の中で、結局それがわからないから美術なんてことにかかわり続けちゃってるわけで、などと、あまりに当たり前で書くのも恥ずかしいような(いやホント)、そんな表現の本質に関わることを、内藤さんの作品の前では激しく考えずにいられない。
 おみくじのほうは、内藤さんの言葉を楷書で書きつけた紙片が古びた壷に入っていて、この場所を訪れた人たちが一枚ずつ引いては壁に貼り付けてゆくというもの。壁を埋める文字がシンプルなゆえの強さを見せていたのに対し、おみくじのほうは参加型というかたちが、私にとっての魅力である、彼女の言葉のあいだからたちのぼる気配のようなものを逆にうすめているようにも感じられ、正直なところちょっと物足りなく思った。
 この場所での発表は5年の区切りをもって一旦終了ということで、少し残念だが、5年の間にこの場所で得た縁が今後どう転がってゆくのか、次の作品と出会える日を楽しみに待ちたい。
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会期:2000年11月19日〜12月2日
会場:ギャラリー2001 兵庫県神戸市灘区城之内通5-3-8
問い合わせ:Tel. 078-861-6854

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report学芸員レポート [兵庫県立近代美術館]

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灘の浜
灘の浜の「ファニチャー・アート」
榎忠「スポラ号」
 何度かこの欄にも書いているのだが、職場が移転するということで、2kmほど離れた海沿いに現在新館を建設工事中である。現・兵庫近美の友の会では建設現場見学会や周辺の「まちあるき」企画を定期的に開いている。この11月28日には建設現場、それから新しい美術館に隣接するHAT神戸・灘の浜の街並みとパブリック・アートを見て歩いた。
 再開発地区HAT神戸の一角である灘の浜は、1800戸を超える公営住宅、および商店や福祉施設などから成る街区で、阪神・淡路大震災の、いわゆる災害復興住宅街である。1998年の4月から入居がはじまり、まちの誕生からようやく2年半がたとうかというところ。災害復興住宅とアートといえば、まちの計画段階からソフトとして積極的にアートをとりいれた南芦屋浜の例が有名だろう。南芦屋浜ほどに実験的なものではないが、ここ灘の浜の街並みにも、いろいろな工夫や苦心のあとが窺われる。
 住宅街の入口にでんと構えるフラワーポット。実は榎忠さんの作品なのだが、大きな四角いプランターのようなパーツは、かつてここで操業していた神戸製鋼所で大量に使われていたバケット(運搬容器)のひとつだという。榎忠さんの作品では金属の植物様の物体がうにゃあと伸びているのだが、このバケット、住宅街のあちこちで実際にプランターとして第2の人生を幸せに送っている。また要所要所に輪をまわすと水が出てくる手回し式のポンプがある。ひとつひとつ違ったデザインで、子どもたちに人気があるよう。水は雨水を利用しており、遊具として使えると同時に非常時に備えるという意味合いももっているようだ。高齢者が多いことを意識してか、広場の植木のまわりには碁盤付き縁台なども。しかし実際につかっている人はいないなあ、まあ今日は寒いということで……。
 榎忠さんはじめ、灘の浜全体では現在10名の作家(榎忠、三島喜美代、西野康造、立木泉、牛島達治、植松奎二、タデウス・ミスロウスキー、河口龍夫、柏原えつとむ、元永定正)による13点の「ファニチャー・アート」が、広場や通路、壁面などのパブリックスペースに設置されている。なおアート関係のコーディネートには北川フラム氏があたられたとの事。
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兵庫県立近代美術館
現在地:兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
移転先:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通 (2002年)
問い合わせ:Tel. 078-801-1591

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