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香川 毛利義嗣
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eventアートマネジメント実践道場 受講者報告会&記念シンポジウム

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アートマネジメント実践道場
 「アートマネジメント実践道場」は、「アートマネジメント講座」(トヨタがスポンサー)の一環として、岡山の文化サポートNPO meatsの企画により一般の参加者を募って5月から行われていたもので、今回の催しはその経過報告とシンポジウムだった。ちなみに閉会後、meatsの事務所開きも行われた。この「実践道場」やNPOの具体的な内容はmeatsのホームページを見てもらった方がいいだろうし、また中心となって活動している岡山県立美術館の柳沢氏がいずれ、この企画について書かれることと思う(これに関連して同時期に後楽園を会場に開催していた展覧会「ガーデン」については、すでに主催者の立場から報告されている)ので、ここではおもに「記念シンポジウム−後は野となれ、山となれ。−」を聞いた感想などを述べたい。
 さて、meats代表の小石原剛氏とともにアーティストとしてシンポジウムに参加していたのが藤浩志であった。美術館やギャラリーだけでなく、岡山も含めて様々な地域で行われているオルタナティブなアートの活動にも長く積極的に関わってきた彼の体験談は、今回のトークの格好の前ふり、だったはずだが、制作活動を始めた当初にさかのぼっての話は30分がすぎ、40分がすぎても終わりそうになく、時間のこともあるしそろそろ小石原さんに振った方がよいのではという司会者(とたぶん観客も)の思惑を大幅に超えて展開されていった。というわけでシンポジウムの大半は藤の作品やプロジェクトの紹介となったわけだが、それを見聞きしながら感じたのは、アートマネジメントやそれに類する動き、いわゆる「アートと社会をつなぐ」ような活動と藤のそれとの間の微妙な差異だった。
 藤が行ってきた活動をここで述べているとまた長くなるので、最近のものをひとつあげると、不要になったビニールやプラスチック、ペットボトルとか菓子袋とかオモチャとか要するにゴミ、を使った作品の制作、および展示、ショップ、ショーなどを行うプロジェクトを展開している。とこれだけ聞くと、廃品を使った美術品などありがちだしもういいです。となりそうなものだが、ところが、それらゴミ製作品のフィニッシュ(というのも変だが)のよさ、「展示」という形式をとらない展示の方法、ゴミ製衣服によるファッションショーを組織する手管、それらを見せるプロモーションビデオの映像、いずれ「ビニールの時代」と呼ばれるであろう特殊な一時期として現代を捕えるというような口上、など、もしこの種の「プロジェクト」というものが、「コンセプト」をいかに効果的に視覚化するかというだけの過程であるなら、決してこうはならなかっただろうそれら実際に現われた表現に対して、私はやはり感銘を覚えてしまう。
 誰かが、例えばアートマネジメントを通してあるいはアートボランティアを通して、「アートに関わりたい」と思うとき、たぶん「アート」(美術といっても芸術といってもいいが)は何か確固とした実体がありかつ自らといくぶんか距離のある対象物として捉えられているだろう。それはそれで健全な考え方だし、「現代アート」とか「美術史」とか呼ばれている体系は、実際にこの世にあって機能している。藤にしてももちろんそれはよく知っているはずだ。が、一方で「アートに関わりたい」と思ってアーティストになるアーティストはいない。自分が表現せざるをえないものが「アート」と呼ばれる範疇にのみ暫定的に当てはまるからアーティストなのであり、その点において、「アーティスト」とは職業名ではありえない。同様に「アート」も固定した輪郭をもった名詞ではない。藤が今まで続けてきたプロジェクトの多くは個人で生み出したものでなく、様々な人や組織や社会制度と関係する中で形成されたものだ。しかしそれは、アートを作るために社会と関わるということでも、逆に社会と関わるためにアートを用いるということでもない。関係性それ自体を視覚化し対象化するのが彼の表現でありそれがとりあえずアートと呼ばれている、と大ざっぱだがいえると思う。
「アートに関わりたい」活動はどことなく体系立った印象を受けるし、実際にある程度組織化しなければ成り立たないことも事実だ。しかし藤の活動を見ていると、そこで生まれているものはむしろ局所的なアナーキズムのようなもので、彼はその状態を引き起こすためにこそ周囲の環境を組織化しているように見える。先に差異といったのは、そのような組織化の先にあるものの両者の違い、「今までと違った見方をしてみましょう」的啓蒙を超えた混乱、予測できないエラー、が藤の作品に感じられるからこそ、私は彼の表現に共感するのだと思う。そして同様に、例えば私が勤めている「美術館」という場所に関していえば、そういった局所的アナーキズムを組織することがスタッフの役割であり、その潜在的なエラーの可能性の高さをもって「文化度」と呼ぶべきである、とも思っている。残念ながら実際には、どんなに「現代アート」を取りそろえてもそのような「文化」を完全に欠く美術館が多く、逆に美術作品などなくても「文化」的な場所やシステムもありえる。したがって、今回の主催者であったmeatsやアートマネジメントに興味を持つ人たちも、そのような種類の「文化」を作っていって欲しいと、これはごく個人的に願っている。
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アートマネジメント実践道場 受講者報告会&記念シンポジウム
日時:2000年11月23日(祝) 13:00〜16:30
会場:岡山県立美術館ホール
問い合わせ:
NPO meats 事務局 fax: 086-228-2782

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