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兵庫 江上ゆか
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exhibition澤田知子展[OMIAI。]

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澤田知子展[OMIAI。]
 展覧会場に入ると壁一面に飾られたいかにもな額入り写真に、まずは圧倒される。ギャラリーの中央、テーブルの上には、真っ白な厚紙の目地の光沢もまぶしい、あの二つ折りの写真が重ねられている。
 澤田知子は髪型や化粧で自分自身を全く別な複数の女性に装い、セルフポートレートを撮る。前作ではじつに400人もの違う女性に化けて「証明写真」を撮った。正しくも街角にあるあの証明写真機で、である。そして今回は「お見合い」。やはり正しくも晴れ着を着て、バック紙の前でポーズを決め写真館で撮ったものである。
 展覧会は東京、松山と巡回して大阪へやって来た。それぞれの会場で来場者に、いちばん気に入った写真=お見合い相手に、ハートのシールをつけてもらうという趣向つき。土地ごとに人気の女性には結構差があって、東京では清楚な宮様系、大阪では――私が訪れた時点では――ヅカ系(って共通語でしょうか?宝塚系です)と姉御系のデッドヒート、とある意味期待を裏切らない、まったくもってステレオタイプおそるべし、なのである。なかにはどの地方でもかわいそうなぐらい不人気なものもあって、来場者のコメントから推し量るにどうやらその理由は「カネがかかりそう」だったりするという。あーこわいこわい。
 セルフポートレートは、いろいろな作家がいろんなやり方で撮っている。澤田の場合は、自分の容姿に対するコンプレックスがきっかけとなり、こうしたセルフポートレートを撮るようになったのだという。しかし澤田の作品を見ていると、彼女の強みは何よりも「どや!!」てな感じの押しの強さであるように感じられる。イケイケ風、姉御風、お嬢風(と、ついつい見た目でこんな風に分類/命名してしまうことこそ、言うまでもなく澤田の作品がテーマにしていることなのだけれど)、どの女性も自分のキャラ全開でいってる感じがするのだ。今回の「お見合い」という激しく制度的なテーマ(人生のカタログショッピング!)には、その「どや!!」感が、とてもすがすがしくハマッっていたように思うのである。誤解を恐れずに言えば、女の子であることをこんな風に遊んでしまえるのも、女の子の特権なのだから。そしてその勢いの強さこそ、いくら他人を演じても変わらない澤田自身のキャラであり魅力なのかもしれない。
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会場:The Third Gallery Aya 大阪市北区西天満2-8-1 大江ビルディング1階
会期:2001年5月21日(月)〜6月2日(土)
   12:00〜19:00(日曜休廊・土曜日17:00まで)
問い合わせ:Tel. 06-6366-8226
同時開催:茶屋町の美容室バサラにて[cover girl](コギャルをテーマにした作品を展示)
     VAJRA Forest 大阪市北区茶屋町15-8 茶屋町ビルティング3階

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exhibition岩城直美展

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岩城直美展
 岩城直美の絵に描かれている「もの」は、とても少ない。窓も扉もない家。かさなる地平線、あるいは水平線。これまでの作品では、画面全体を縁取る車窓のような枠が多く登場したというが、今回の作品では見られない。ただしDMの作品のようにいくつか、画面を劇場のように縁取るカーテンが左右に描かれたものもある。色彩も控えめだ。ほとんどの色を「グレー」という範疇に入れることができるだろう。さまざまな色を塗り重ねた結果だというグレーの色は、しかしそれだけに写真ではとても伝わらないほど微妙で豊かな表情をそなえていて、ふわっとたちのぼる空気の手触りと匂いをもたらしている。このひろがりに対する繊細な把握を、絵画の用語に置き換えてしまうとなんとも味気ないし、システマティックでかっちりとした技法とは別物なのだと思うが、しかしやはりこれは空気の遠近法、というよりほかないだろう。
会場風景
会場風景

 ディテールのない風景は、どこか特定の場所を写しとったものではなく、岩城のなかで描かれる景色である。だがその景色は、たとえ車窓やカーテンといった装置がなくとも、「外」へと開かれていて、そこが彼女の絵を紛れもない風景画にしている。ただ歩き続ける毎日の中にも、新しい風景がある。いつも見慣れた景色が、空気ひとつで驚くほど表情を変え、遠いところまで行けそうな高揚感を与えてくれることがある。そんなときの空気の匂いや手触りは、むしろとても親密だ。灰色の空とコンクリートの町にさえある、そんな、「眺めること」のよろこびを、彼女の絵はあらためて感じさせてくれた。
 なおこのたびの海岸通ギャラリーCASOでの展示は、今年2月に水戸芸術館現代美術ギャラリー「クリテリウオム45」で発表した大きな作品3点に、新作の小品を加えて構成されている。
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会期:2001年5月26日(土)〜6月24日(日)
会場:海岸通ギャラリーCASO スペースD 大阪市港区海岸通2-7-23
   11:00〜19:00 月曜休 最終日17:00時まで
問い合わせ:Tel. 0792-22-2288

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report学芸員レポート [兵庫県立近代美術館]

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 2001年6月2日。
 午後、「美術の中のかたち−手で見る造形−」の開催に向けて、美術館ボランティアの研修会。「美術の中のかたち」は1989年以降、ほぼ毎年開いてきた「手で触ってみる」展覧会である。ここしばらくは館所蔵の彫刻に関西の作家3名という内容で続けている。
 この展覧会はそもそも、視覚に障害のある人たちにも作品鑑賞の機会をもっていただこう、という目的で始めたものである。しかし「触れる」という鑑賞法を取り入れることは、おのずから「見る」という鑑賞法を省みることになるし、そうなると当然、触れる・見るという方法にかかわらず作品を「鑑賞する」とはどういうことかという問題に行き着く。かくして十数年の間「美術の中のかたち」は、毎年違う学芸員が担当することもあり、バリアフリー・あるいは福祉的な視点と、鑑賞の問題との間で揺れ動きながら続いてきた感がある。わかりやすい例をあげるなら「手で見る造形」をサブタイトルとする「美術の中のかたち」に、触覚に限らないいわゆる体験型の作品を展示することをどう考えるか、といったことが、常に課題としてあった。
 しかしどこに力点を置くかの差はあれ「美術の中のかたち」は、結局のところ「バリアフリー」について考える展覧会だったのだな、と思う。手で触れるという、「見る」よりは直接的な体験をきっかけに、「美術鑑賞」についての過剰な身構えがとけてゆくこともあるのだ。この場合、バリアは多分に心理的なものであり、制度的なものであるだろう。
 バリアフリーといいながら、例によってないないづくしの状況で決して十分なことができるわけではなく、ほんとに地味に続けてきた企画だが、自己弁護させてもらうならこうした取り組みは一時のものに終わるのではなく、続けることにこそ意味がある。今年は移転を控え現在の館で最後の開催、ということもあり、館所蔵の彫刻のみで構成する。バリアフリーの原点に帰る意味でも、視覚障害者にアクセシブルな展示ということを改めて心がけた内容にしてみたいと思っている。フツーの美術館でフツーに出来ることが、まだまだあるはずだ。
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美術の中のかたち−手で見る造形−
会場:兵庫県立近代美術館 兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
   [2002年、神戸市中央区脇浜海岸通へ移転]
会期:2001年7月7日(土)〜9月24日(祝)
問い合わせ:Tel. 078-801-1591

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