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PO+KU ART村上隆 講演 PO+KU ARTレボリューション

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デビュー、そしてアート・フィールドでのサバイバル

 海外のアート・サーキットでデビューしていくにはいろいろなスタイルがあります。例えば、花火を使ったインスタレーションで知られる蔡國強は、世界中の美術館のキュレーターに気に入られるもの、キュレーターたちが今何を欲しているかというニーズに合わせて作品をつくっている。美術館は1回の展覧会に2.000万円くらいのバジェットをつくる可能性があるので、それを飯の種にするというスタイルの人です。一方で、僕みたいに売り絵のようなものを描いて、これを何回もやるうちに美術館の学芸員の目にとまり、展覧会をやって認められたりするのがもうひとつです。もちろん他にも、路上でパフォーマンスをやる人やキース・へリングみたいな人などいろいろいますが、どういうやり方にしろ、その背後には必ずその時代のニーズ、マーケティングが潜んでいる。その部分を僕は積極的に重視してやった訳です。
 ファイン・アートといえどもある側面ではビジネスですから、ギャラリーが儲かれば、それで金をまわしてセカンダリー・マーケットを動かし、自分たちの生活も潤わせつつ美術館とコネクションを持ったりする。要するに、金銭も絡めて流通しなければアート・シーンは動かない訳ですが、日本にいる時はそういう感覚が僕自身まだ希薄でした。でもニューヨークに居て驚いたのは、アートフォーラムなどの美術専門誌において2回連続で表紙に出て日本で巨匠と呼ばれているマシュー・バーニーも、当時は新人だったからシャワーのない部屋に住んでいたり、リクリット・ティラヴァニャも宅配便のバイトをやって作品をつくっていると聞いたりしました。そういう人たちがサバイバルするために、小さいサイズの版画などをつくっていましたが、これが売り絵っぽくてよくない。巨匠と呼ばれる作家が一方でそういうこともやっているということは、日本のアート・メディアでは全然報道されない。そういうドロッとしたリアリティを含めてのアート・シーンというのだったら、僕は日本画の世界に11年間もいたから自分にも分かる。いかに日本画の値段を吊り上げて、政治的な文脈でバインディングして社会にプレゼンテーションするかということばかりを勉強してきたから、それはよく分かる訳です。それで、ギャラリー的なるペインティングのニーズとして、ばっちりという感じのお花を描いた。2つの花から3つになって、5つになって、固まって、お花のボールになりましたという「ジャパニメーション」的なペインティングは、本当に受けました。ただ、クリエーターのほとんどがこういうプレゼンテーションを嫌うと思いますし、それは別にしょうがない。生きる美意識の差だと思います。そして僕は何よりもサヴァイバルしてゆく最強な方法を模索しているのです。
 99年『美術手帖』10月号の海外レヴューに、僕がニューヨークでやったショウが非常によかったというのを向こうのライターの方が書いてくれていて「今まで村上隆がニューヨークで10回ほどショウをやったが、全然覇気がなくてよくなかった」というようなことが書いてあります。覇気がなかったのは当たり前で、売れない作家より売れる作家の方がギャラリーもやる気を出すと考えると、僕は与えられた場で売れる作品をつくろうと思った。売れる作品だけ見て感動するという訳にはいかないのは当然だと思います。ニューヨークの「バード・カレッジ」という会場でやった展覧会は、僕のある種の回顧展みたいなもので、僕の素の姿というか、「加瀬大周宇Zプロジェクト」も含めて、ありとあらゆるものを出しまくっていますから、見ごたえがあって当たり前という感じです。
 埼玉のヒロポン・ファクトリーには20人弱いて、常時5、6人が動いていますが、この夏ニューヨークに大きいスタジオを借りることができて、4人くらいで大きな作品をつくり続けています。ただ、僕はほとんど絵を描かずに、下地と色指定とあとは最後の監督くらいなので、ある種、デザインの仕事に限りなく近い。向こうでのファイン・アート界のサバイバルの項目のひとつに、ヒットした時にどれだけ生産数が間に合うかということもあるようです。画商によっては「数が少ない方がよい」と言うかも知れませんが、同時に5つの美術館が展覧会をやりたいといった時に、そのニーズに応えるのもアーティストが業界でサバイバルできるか否かの試金石でもあるのです。僕みたいにディテールにこだわる作品の作り方をすると、一人では1カ月に3枚くらいしかできない時に、アシスタントを使うことで20枚くらいまで生産をアップさせることができる。それでアシスタントをエデュケートして僕の作品をカッチリ制作出来るようにして、生産を間に合わせるようにしています。


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