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日常の中のユビキュタス・コンピューティング
――私のカーナビ初体験

気がついたら2月に暦はなっていた。時間を追っかけてと思いつつも、あいもかわらず時間に追われている。そんな生活を送っているためか、贅沢とは思いながらも、ちょとした横の移動にタクシーを使うことがある。
 先日のことだ。急いでいることをタクシードライバーに告げると、カーナビのスイッチを入れて渋滞状況をチェックし「大丈夫ですよ」と応じてくれた。この先渋滞もなく、希望する時間内で目的地に着けると言うのだ。続けて「便利ですよ。行き先を入れれば、お客さんが寝ていても家の前に着けられるし。特に、戻るときに道に迷わなくて、効率が上がりましたよ」と話してくれた。確かに、運転手さんに逆に道を聞かれたり、ルートの選択を迫られると困る私としては、新しいツールの搭載がサービス向上に一役買うのかと改めて感心。何を今更と思われていることだろうが、これが私のカーナビ初体験であった。

パンフレットを漁った今は、そのタクシーがVICS受信機を搭載していたことも理解できる。もちろんVICSがなんたるものかわかるまでしばらくかかった。 VICSとは、財団法人道路交通情報通信システムセンターの商標とかで、渋滞や事故状況、交通規制、さらには駐車場情報などをリアルタイムに知ることができる新しい交通情報システムだ。カーナビ出荷台数は累計で約260万台、そのなかでVICS機器を装着している車は約36万台とのことだ。
パンフレットの中には、インターネットとの接続を謳う商品も含まれている。さらに、音声操作システムの導入。見やすさ、わかりやすさを求めたインターフェースの工夫。マルチメディア社会化の好例と言うべきだろう。ユビキュタス(遍在する)コンピュータ環境の創出とそれを駆使したサービスがこれ程まで商品化されていることに改めて驚いた。

もう一つ、パンフレットの注意書きの中に「国防当局の都合で故意に精度が変更されることがあります。」と但し書きされていることに妙な感心をしてしまった。美術館メディア研究会第二期のゲスト講師、橋本典明氏が「現在は、無償で使用できるけど、期限付きだし。そんなんでどうするつもりなんだろう」とカーナビで車の位置を判断する基本システムとして使われているGPS測位に使用するGPS衛星が米国国防総省により管理されているものであることを話していたから知っていた。今更ながら、橋本氏のつぶやきのような発言に含まれていたメッセージの重みを改めて感じてしまった。

以上が、タクシードライバーの然り気ない使い方に魅せられて、カーナビのパンフレット類を読みふけった感想だ。何となく分かった気になっているのは、このサービスを享受するのに必要な機器とそれを購入するのに要するお金の額だけだ。システムを所有しその恩恵を受けている人が当たり前に感じているサービスを自らの便利さとしてイメージするのはまだ難しい。
 事情が許せば整備された新しいシステムを享受すべく、新しい高額な大人の玩具を搭載し、ビーコンから送られてくる情報に心の準備をするのが大人と割り切りながら、本当の直接の問題点への関心からたくみにナビゲーションされて別の道を走っているような事がないように批評精神のある心と頭でいたいと思う。枕のつもりの話題が長くなりすぎた。アートの種蒔きと収穫に関する話は次回にし今回はこの辺で。

森 司(nmp監修者)

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