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【ヴェネツィア・ビエンナーレ】

荘厳にして滑稽、スケールの大きさを印象づける蔡国強
建畠 晢
ヴェネツィア・ビエンナーレなんて虚飾の宴だと口で揶揄してはいても、この水の都の歴史の陰影と重なった独特の雰囲気には、やはり抗しがたい魅力があって、またオープニングに出かけてしまった。しかし今回ばかりは低調の極みというか、その虚飾の彩りさえも褪せて見えて、にわか仕立てもいい加減にしてくれと言いたくなる展覧会である。各国のパビリオンにはまるで野心が見られないし、総合キュレイターのジェルマーノ・チェラントの企画展「過去・現在・未来」も明らかに準備不足で、だいたいタイトルからしておざなりに過ぎるように思う。
 でも個別の作品には、いくつか見るべきものがなかったわけではない。通常はアペルトと称される若手作家展が開かれるコルデリエは、今回はチェラントの企画展の一部に当てられていたが、ここはまだしも活気があって、中でも蔡国強のインスタレーションが面白かった。廃材を組んだ巨大な空飛ぶ竜(それともロケット?)を天井から吊り下げたもので、後ろには扇風機の風で五星紅旗がはためいている。その荘厳にして、また滑稽でもある光景には、蔡ならではのふてぶてしい表現力と思想的なスケールの大きさを印象づけられる。
映像作品が多いのは毎回のことだが、個人的な好みでいえば、カナダ館のロドニー・グラハムの作品には笑ってしまった。孤島の椰子の木の下でロビンソー・クルーソー(?)が眠っているビデオを延々と映し続けるもので、物語的な要素(古風な正装で眠る男、椰子の実の落下)と反物語的な時間(映像の機械的な反復)との兼ね合いが、見る者を奇妙な心理的な罠に陥れてしまうのである。
 まあ、こうした例外はあるものの、会場全体には何とも覇気がない。過去数回のビエンナーレを支配していた暴力や性的倒錯などの“病理的モード”は影を潜め、代わりにノスタルジックな作品や瞑想的な趣の作品が目に付くが、美術の状況自体が新たな方向性を見出せぬまま内向的なものになってしまっているということであろうか。病理の後は精神的な癒やし――、と解せば話の辻褄だけは合っているけどね。
蔡国強のインスタレーション1
蔡国強のインスタレーション2
蔡国強のインスタレーション3
蔡国強のインスタレーション
ヴェネツィア・ビエンナーレ
会期 :1997年6月16日〜11月9日
開催地:イタリア、ヴェネツィア
メイン会場:ヴェネツィア市内の国別パヴィリオン
テーマ:Future, Present, Past(未来、現在、過去)
問い合わせ:eメール staff@labiennale.it
Tel: 0039(41)5218800 Fax: 0039(41)5218837
ホームページ :http://www.labiennale.it/

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