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中山ダイスケ・インタヴュー
村田 真
review1昨年末、立川市内の旧リッカーミシン工場の食堂跡から、同じ市内の立飛本社の倉庫に移転したスタジオ食堂。ここは、中山ダイスケ、須田悦弘、中村哲也、笠原出、藤原隆洋といった現在活躍中の若手アーティストの共同スタジオである。だが、移転に伴い、「プロジェクトスペース」と呼ぶギャラリーを設けて企画展を開いたり、ゲストを招いてレクチャーを催すなど、単なる共同スタジオではなく、ノンプロフィットな組織としての活動を始めた。いわば、第2段階に突入である。
 その矢先、リーダー的存在である中山氏が、ACC(Asian Cultural Council)の奨学金で、この11月から約1年間ニューヨークに行くことになった。アメリカでの活動や今後のスタジオ食堂の方向性などについて、中山氏に聞いた。
―アメリカに行く目的はなにかあるんですか?
中山:ぼくの場合、集中して作品をつくりたいとかいうんじゃなくて、アーティストの立場から、アート周辺の環境づくりを見ておきたいんです。自分が実験的にやってるこのスタジオ食堂みたいな共同スタジオのオーガナイズとか、作品を流通させるためのマネジメントとか……。
―じゃアーティストというより、むしろ研究者の視点で?
中山:そうですね。いちおうACCには「作品をつくらないわけじゃないですよ」とはいってありますが。
 ぼくの場合はこれまでのPS1じゃなくて、ISP(International Studio Program)という新しいスタジオに入ることになっているんですけど、そのISPの活動全体を見たくって。実はもうすでに1度見てきたんですが、ドーンと大きなビルの中に部屋が分かれていて、部屋自体はロフトみたいに大きくないんです。でも、ちゃんと各部屋のドアに、財団の名前と、どこから来ただれだれのアーティストって表示が出てるんですよ。つまり、「このアーティストは、この財団のお金で来てる」ってことがわかるんです。
 そこのディレクターは、いつもアーティストの話を聞いて、ギャラリストとかキュレーターに会いたいといえば、連絡を取って会わせてくれる。あと年2回公開スタジオがあって、アーティストのドアが開放され、お客さんが見に来るんです。
―ISPはどこにあるんですか?
中山:トライベッカ。PS1とはマンハッタンを挟んで反対側。ぼくはニューヨークというとPS1かと思っていたけど、そういうオーガニゼーションはたくさんあるんですね。日本の財団さえ動けば、いろんなところに行けるんです。そのISPに日本人が行くのはぼくが初めてなんですけど、それは日本人を入れると企業もお金を出すんじゃないかと、ディレクターが考えたからなんです。そんなに高くないんですよ、300万円出せば1人のアーティストが1年間スタジオで過ごせるんですから。
 ただISPは、PS1のように公共の学校を改造して文化のために役立てるような、明るいものではないんです。もっと選りすぐったアーティストを外国から集めて、ディーラーとか呼んで、パッとマーケットに出していこうっていうような、どっちかというとプロフェッショナルなスタジオなんです。PS1て、なんかスタジオ食堂と似てるんですよ。もっとISPはギスギスした世界みたいなんで、そっち行こうと。
―じゃ帰ってから、このスタジオ食堂をもっとよくしようという目的もあるわけね。
中山:……自分のためなんですけどね。でもなにか役に立てればいいなと。ここにも佐藤勲君や眞島竜男君(いずれもスタジオ食堂の作家)といった、それから沼田さん(ディレクター)もそうですけど、海外に長いこといた人が2〜3人いるんですが、でもアメリカの情報って少ないんです。なぜかヨーロッパに偏っていて、来るお客さんもヨーロッパ系が多いので、だからアメリカに行く使命感はちょっとあるんです(笑)。
―でも、ニューヨークでうまくいったら帰らないかもしれない?
中山:行ってからどうなるかはわからないですけど、ぼくは帰ってきたいんですよ。東京でなんとかしたいとずっと思ってるし、ちょっと上の人たちと話してて思うのは、そんなにいろいろ捨てて外国に行って、ほんとにその人たち、やりやすいのかなって。
 確かにあこがれてしまうような美術館やギャラリーがあったり、アートシーンがつくり出したオバケのような人たちに自分の作品を見てもらえるなんて、夢のように感じられるんですけど、それよりもっと大事なものを忘れてないかなって思うんです。自分の友達にまだ見せ切ってないとか、ぼくのことを少しでも知ってる人に十分見てもらってないのに、なんかプロレス始めたばかりの人がマジソンスクエアガーデンに行きたがるような、漠然とした夢にしか思えないような気がして。
 行ってからどうなるかはわからないですけど、ぼくは帰ってきたいんですよ。東京でなんとかしたいとずっと思ってるし、ちょっと上の人たちと話してて思うのは、そんなにいろいろ捨てて外国に行って、ほんとにその人たち、やりやすいのかなって。
―だけどニューヨークに行った人がみんないうのは、日本よりもアーティストとして活動しやすいってことでしょう。
中山:作品の売買だけでいえば、確かに売れるんですよね。実際に買う人が多いし、アートにお金を使うことに慣れてる。でも行ったっきり帰ってこないとなると、今まで自分がやってきたことを否定するような気がしちゃうんですよ。それならそれでもっと早くやってたと思うんです。ただ、11月から行くのがいいタイミングかどうかわかんないんですよ。もう1年くらいここでやって、それから行ってもよかったかなと、中途で行くような気もするし。
―10月のレントゲンクンストラウムでの個展が最後ですね。
中山:東京ではそうですけど、その後、福岡のアルティアムでの個展があるんです。今までの作品が中心ですが、セッティングしてオープニングがすんだらすぐ行っちゃうんで、やり逃げみたいなんですけど(笑)。
 レントゲンには絵を出すつもりです。日本語で文字を書いた絵。それとは別に、ピストルを使った作品プランもあるんですけど、アメリカ行く前にピストルも日本語もやりづらい(笑)。でも、ニューヨークで1年過ごして帰ってきて日本語を使った絵とか発表したら、もっと誤解されそうだし(笑)。すごい迷ったんですけど、今回は文字で行こうと。ニューヨークでピストルの作品つくっても、「なんだ、アメリカから帰ったらピストルかい?」っていわれそう……。
―ところで、このギャラリー(プロジェクトスペース)は経費を回収できてますか?
中山:次から有料展にするつもりです。スタジオ見学も入れてお茶でも飲んでもらって、それで見学料というかたちで大人500円、学生300円くらいの入場料を取ろうかなと。ものを売って儲けようという気はないんです。ノンプロフィットで、でも赤字は困るんで、オープニングの時に飲み物を売ってパーティー代をゼロにして、入場料でDM代を回収しようとか……。続けることを第一に考えようというのがみんなの統一意見なんで、だからスタジオ食堂を作家のグループとしてじゃなく、場所として残していこうということなんです。
―中山君には、作家活動とここの企画運営というふたつの活動があるわけですが……。
中山:スタジオ食堂に関しては、菊地敦巳と沼田美樹っていうプロデューサーがいるので、いまぼくは参加アーティストの一人なんですね。プロデュースすることが自分の作品制作の過程でもすごく重要な意味を持っているものなので、切り離して考えることが難しい。将来的には他の作家のプロデュースをやってみたいと思ってますけど……。そういうことも含めて、ゆっくり考えてきます。


スタジオ食堂1
スタジオ食堂2
スタジオ食堂3
中山ダイスケ氏とスタジオ食堂
中山ダイスケ個展《HUG》
会期:10月10日(金)〜11月8日(土)
会場:レントゲンクンストラウム
問い合わせ:Tel: 03-3401-1466 Fax:3401-1699
STUDIO食堂 プロジェクトルームでの展覧会
大岩オスカール幸男展《トンネルの向うの光》
会期:11月23(日)〜1月18(日) 金、土、日オープン(ただし1月2〜4日は休み)
料金:一般500円 学生300円
co-produced by 関ひろこ
produced by STUDIO食堂

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