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京都映画祭
北野武監督、ビートたけしに交替することなく2時間語る
――京都国際学生フィルムフェスティバル特別プログラム
「シンポジウム・北野武監督 学生と語る」
篠儀直子

熱気と誠意

「京都国際学生フィルムフェスティバル」の一環であるはずの本シンポジウムの会場に、近くの教室(このフェスティバルは廃校となった小学校で行なわれたのだ)で学生の自主製作映画を数本観てから行ってみると、記者席がすでに満席となっていてなんとなく理不尽な思いがしたのだが、そんな不満もあるいは疲れも、高まる期待にたちまち消える。いよいよ北野武監督が登場するや取材者の立場も忘れて夢中で手を叩き、われにかえってあわててデジタルカメラを取り出すと、自分の倍も身長のありそうなプロのカメラマンやTVクルーをかきわけ、わずかなすきまを探してあたふた走り回ることになる。
 満席の記者席だのカメラマンだのTVクルーだのといった記述からこの会場の雰囲気がいかに尋常でなかったかおわかりいただけよう。ではシンポジウム自体はどうだったか。北野監督の誠実な応対ぶりをまず特記したい。「ビートたけし」的なブラックな諧謔でかわすこともほとんどなしに問いに正面から答えつづけたというのは、この異能の作家にはきわめてまれなことではなかったか。
そうは言っても語られた内容のいくつか、たとえばものごとを見つめるときの自分の冷めた態度や、死生観などは、過去の多くのインタヴューや昨年の東京国際映画祭の国際シンポジウムですでに語られていたことである。そうしたなじみの「北野武監督像」に対して3人の学生パネリストによる率直な質問の引き出した答えが付け加えたものは、およそ次のようなことだろう。


明倫小学校
シンポジウム会場である
明倫小学校
偶然とリアリティ

 北野監督は「偶然性」を大切にする。最初から綿密な計画を立ててそのとおりに撮ろうとする監督は最終的には失敗する、というのが彼の考えだ。それゆえ、大失敗と思われるカットはむしろ採用する。誰もが息をのむ『HANA-BI』の山門の猫のショット(ぜひお楽しみに)も偶然に映りこんだものだという裏話は、ウソかホントか雄鶏は偶然来て鳴いたのだというキアロスタミの言葉(金井美恵子氏によるインタヴュー、『愉しみはTVの彼方に』所収、中央公論社刊)を思い出させる。「偶然性」を重視するという態度は演出の局面に限ったことではない。たとえば「映画監督になる」というのも、「なりたい」と思いつめてなるよりは「いつのまにかなってた」というのがいいと北野監督は言う。若いうちはひとつに絞らずさまざまな可能性を試すのがいいのではないか、でないと、大事なことをいっぱい省くことになってしまうように思う、と説明する彼にとって、世界の広がりと美しさを保障するのはまさに「偶然性」なのだろう。
 そして、北野監督はメディアの人にふさわしく「イメージ」の恐ろしさを熟知してもいる。われわれがリアルだと思っているものの多くは映画の教えたリアリティに過ぎず、また、映画というものがそもそもたいへんなインチキなのだと北野監督は言う。彼の追求するリアリティは、したがってもっと別のものだ。『HANA-BI』の銀行強盗シーンなど御覧いただきたい。
 次回作は「母をたずねて」的な「見えすいたパターン」の「クラシック」をやると明かし、そのため「クラシック」な映画を何本か観ていると言う北野監督に、たとえばどんな映画をとパネリストが問うと、監督はこう答えた。フェリーニの『道化師』とゴダールの『女は女である』。ああ、世界の先端を行くタケシ・キタノにとっては、これらの映画が「クラシック」なのだ!


シンポジウム
シンポジウムの模様
山根貞男(左)と
北野武監督
学生たちとTVレポーター

 学生パネリストの質問は話の流れを押さえた的確なもので、談話はきわめてスムーズに進行し非常に収穫の多いものとなった。何かの形で全文が公表されればと思う。会場は応募者1200人のなかから選ばれた200人の学生で埋まり、質問をつのるとたちまち5、60もの手が挙がった。会場からの質問時間はもう少し長くてもよかったかもしれない。つづいて行なわれた記者懇談会が、北野監督に対する会場の学生たちの(および、わたしの?)尊敬の念などまったく解さぬ、映画も映画祭もどうでもいい的に傍若無人なTVのワイドショーのレポーターによって、前半ぶちこわしになっただけになおさらそう思われたのだった。

(文中敬称略)



懇談会
記者懇談会
「シンポジウム・北野武監督 学生と語る」
会場:元明倫小学校講堂(京都)
会期:1997年12月11日(木)
パネリスト:石塚洋史(大阪芸術大学大学院)
奈良聡子(KYOTO映画塾)
稲垣哲也(立命館大学)
司会:山根貞男
問い合わせ: Tel.075-752-4840
写真:篠儀直子

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