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Interview ||| インタヴュー
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パルコ木下
――“ゆるがないもの”探しの旅

――好きな作家や影響を受けてる作品はありますか?

現代美術家の作品に影響を受けて作品を作らないようにしようというのが、僕が常に意識している部分で、実際、現代美術品を最近見てても全然スゴイという感じがしなくなったんですね。現代美術家が現代美術作品を見ても簡単に影響受けたりしないというのはとても重要なことなんですよ。
 アーティストとは、デザイニングとかコマーシャリズムの環境の中で仕事をしている人達とは根本的に違うと思うんです。例えば、見てくれをちょっとカッコ良くする、ブラッシュアップするということへのこだわりを徹底的にやるというのがデザイナーだとすれば、常に感動の原点というか核みたいな普遍的な部分にこだわるのがアーティストかな、と思うんです。
 ついこの間も昭和40年会のわれわれは展覧会に招かれスペインに行ってきました。で、自由行動の折にバルセロナの現代美術館を見て来たんですけども、なんかピンとこなかったんです。その時自分は「現代美術家なのに現代美術作品を見て何も感じないオレってヒョッとしてまずいかな〜」って、ちょっと内面的な不安があったんだけど、昭和40年会の中には似た事を言っていたメンバーが他にもいた。何でかなと思ったんだけど、多分それは現代美術作品の見せ方そのものが、トーキョーもスペインも世界全体よく似ているという現象があると思ったんですよ。現代美術において、どっかのお手本を真似るという、そういう現象っていうのは、とりわけ先進国の建てる美術館によく見られる傾向で、それはアートの「マクドナルド化」につながることだと思っています。いまの現代美術館って絶対的な評価を得られるために誰もが知っている作家を置きたがる。だからどこの国の美術館も似るんです。僕には無縁な事かも知れないが危険に思ってます。これからは我が道を行く美術館に頑張って欲しいですね。

――興味や関心の的はどういうものに?

いま世間のクリエイティブでは、毎週毎月、本出さなきゃいけないとか、何時何分にTV番組オン・エアしなきゃいけないとかという繰り返される環境の中で、終わることのないネタ探しっていうのを常に繰り返していて、何か同じコンテンツをダジャレでもこじつけでも新しく見せて持ってこなきゃ仕事にならない。結局、いまのコマーシャリズムの中では、新しいコンテンツを発見した人の勝ちっていう状況が永く続いている。でも、芸術家やっている人たちは、悪いケドそういうの見切っちゃって、そういうのに魅力を感じなくなってるんだろうね。だから、現代美術やっている自分がいま国宝見ていたりとか、現代美術にピンとこなくてダリとかミロとかっていう昔の作家がどうしても気になるっていうのは、そこにやっぱりゆるがないものっていうのを見つけてしまったからだと思うんだ。例えば僕はいろいろ収集やってますけど、その収集が本当に雑多でね。レコードもある、おもちゃもマンガもなんて非常に雑多なんだけども、でもそのなかでひとつ言えることは、ゆるがないものだけを集めているっていうことですね。

――収集しているものってどんなものですか?

骨董品ですね。古いマンガとかおもちゃとか、あと写真や絵はがき。古いおもちゃの収集は10年以上前からやっていたんですけど、全体的にブームになってしまって、アメリカン・フィギュアの流行なんかとミックスしちゃって、いまや収集というジャンルが定着してしまいましたよね。そうなってから収集にはさらに掘り下げたテイストを求めるようになってしまいました。いますぐ消えてしまいそうなものを現在は集めています。例えば、チョコレートのパッケージひとつ見ても、同じようなデザインでも、よく見ると零コンマ何ミリというスケールでデザインは毎年変わっていたりするんですよね。そういうのが気になって集めてます。あとキャラクターものでは、テレビ・アニメの本放送が終わったと同時に棄てられていくものを集めてます。ガンダムとかめちゃくちゃメジャーなキャラ以外はほとんど消えていってるんで、そういうもののおまけなんかを集めているんですね。

――お気に入りのものを見せてもらえますか?

最終的に僕のコレクションというのはこういうところに落ちついたんですけど……朝日新聞社から出てる『日本の国宝』です(写真を見せる)。(棚を開けながら)それと、ここを開くと貸本マンガが出て来るんですよ。若木書房とか東京金園社、素晴らしいですね。花詩集文庫っていうこういう本も出ていたんです。こういう少女の美意識がインスピレーションの元になってます。それから古いものの収集というと、レコードもやってまして、ときどきDJもやっているんです。でもこういうのは僕は絶対定価より高い値段で買わないようにしています。(一枚のレコード「嗚呼!! 花の応援団・ソウルチョンワ」を出しながら)これなんだか知ってます? これ日活のサントラなんだけど良いです。
 いま、結局この家は僕が仕事をする上での連絡場所となっている状態で、収集ばっかやってたらここで仕事をするっていうスペースはないんですよ。だから集めては田舎に送ってということを繰り返してます。ここにあるのは全体の10分の1ぐらいですかね。きっと田舎は大変なことになっているんじゃないでしょうか。その繰り返しを10年ぐらいやってきたから、田舎にあるものを東京に持ってこようとすると、それこそ4トントラックを用意しないといけないですね。

――古いおもちゃもありますね。

だいぶもう田舎に送ってしまったんですけどね。(ピンクレディのおもちゃを取り出しながら)これは色褪せないですよね。おもちゃっていうのは必ずどこかに蛍ピン(蛍光ピンク)を使うもんなんですけど、実にいいピンクだ、いい仕事してますね〜。(もうひとつ取り出しながら)これは「スキスキ魔女先生」。このネーミングがスゴイ興奮したんですよ。もう幼稚園のころだと思うんですけど。石ノ森正太郎先生って仮面ライダーの人じゃないですか。仮面ライダーが終わって次は何を描くんだろうって思っていて、「スキスキ魔女先生」が始まったときにはもうどうすればいいんだろうって思いましたね。だいたい僕ぐらいの世代だと、一番最初に勃起した女性というのが、ウルトラ警備隊のアンヌ隊員とかスキスキ魔女先生だったりするんですよ。(アルバムを取り出しながら)これは僕の秘蔵、と言っても大したこと無いんですけど、これが一番僕の煩悩が象徴されてていいかもしれません。僕「ウルトラセブン」のレーザーディスクは全部持ってまして、これはビデオプリンターでアンヌ隊員が出ているシーンの瞬間瞬間を全部プリントアウトしたものです。ビデオのようにコマ送りがビデオプリンターではできなくて、カメラのシャッターを押すように気合いを入れてボタンを押さないとベストショットがとれない。これ一枚撮るのに10回ぐらいは試行錯誤している。自分を生まれて初めて勃起させた人としてのアンヌの存在は大きいですね。
 いまの若い人のハシり方は、コンビニ的というか、一番人気あるものだけに集中してハシり、そして飽きる。どんな高い買い物してても安っぽく見えちゃうんですよ。僕のゆるがないもの探しの旅というのは、将来骨董品屋を経営したいとかではなくて、そのひとつふたつの収集物にあるささやかな美意識を積み重ねて、自分という存在を成長させていくという意味があるんですよ。“ゆるがないもの”は日本の国宝の中にも、お菓子のオマケの中にもチョコチョコッと存在する。それを発見していくんです。
[1998年1月16日]



パルコ木下
パルコ木下


ゆるがないもの
その場で描いてもらった“ゆるがないもの”


国宝 国宝の写真


レコード 高円寺の「マニュアル・オブ・エラーズ」で3月にDJをする予定。奥さんもSPレコードを収集していて、「パルコ家ナイト」というパルコ一家のDJショーもやっている。


賞状 「オロナミンC」を作った人たちに送られた昭和42年の賞状。名前にある3人のうち木下造というのはパルコ木下の父親。


ピンクレディ ピンクレディのおもちゃ


スキスキ魔女先生 「スキスキ魔女先生」のおもちゃ


アンヌ隊員アルバム アンヌ隊員の登場シーンをビデオプリンターで集めたアルバム



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