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Interview ||| インタヴュー
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館 勝生
中村ケンゴ

この記事は、中村ケンゴ氏がnmp-international 3/25号のartist file掲載のためにインタヴューしたものである。

――僕が大学に入ったのは90年くらいなんですが、その少し前、つまり80年代の中頃ですが、とくに関西を活動の拠点としていた若いアーティスト達が華々しく活躍していた、いわゆる「ニューウェイブ」と言われたムーブメントがあった時代がありましたよね。
館さんはその頃大阪芸術大学の学生だったと思うんですが、学生から見た当時の雰囲気なんかについて聞きたいんですけど。

館:「ニューウェイブ」と言われていたのは僕より2つから4つ上の人達です。展覧会の搬入搬出なんかを手伝っていましたけれども基本的にはわりと傍観していました。ただ、醒めた目で見ていたわけではなくて、その先輩達が制作しているアトリエなんかに入り浸ってはいたんですけど。

――いろんな作家がいたでしょうから一般化するのは問題があるかとは思いますが、当時の彼等の作品の印象を聞かせてください。

館:当時はみんな作品が異常にでかくて派手だったんですよ。作品にはそれぞれの作家に適性なサイズというのがあると思うんですが、そういうことではなくてとにかくでかいものをつくった者が勝ちだ、みたいなところがあったんですね。展覧会でも一番場所をとった作品が勝ちとか(笑)。
ただそういうのって本末転倒というか、とにかくでかくて派手なのをつくって、その後にコンセプトが付いてくるといった感じがしてたんですよ。絵画なんかにしてもギャラリーに展示するときに大きい作品を並べて非常に密度を高くするとか。それで1点、1点の作品が見えにくくなってしまってたり。だから逆に自分が作品を発表するときにはちゃんと1点、1点が見られるようにレイアウトするようにしようと意識しましたね。

――よく言えばみんなとても元気だったということでしょうか。

館:そうですね。いい意味でも悪い意味でも

――それは関西という地域性もあるんでしょうか。

館:そうでしょうね(笑)。

――東京にいるとやはりメディアを強く意識する部分があると思います。いかに作品をメディアに流通、透過させるかといった……、それに対して関西の作家というのは……。

館:非常にベタな感じ(笑)。

――そういうところはあるかもしれません(笑)。そういった当時の自由な雰囲気というのは、海外のニューペインティングや新表現主義などの影響もあったんでしょうか。

館:そうですね。ニューペインティングのムーブメントは日本の場合「ニューウェイブ」という言葉に置き換わってしまったんですけど、欧米のように歴史的必然があって出てきたわけではなくて、例えば社会性であるとかそんなことよりも個人的な好き嫌いとかそういうかたちで、ただ単に自分の価値観を投影するだけの作品がつくられていたことが多かったような気がします。

――日本の場合はモダニズムの展開から立ち上がってきたわけではなくて、海外からそのモードだけを輸入したということなんでしょうか。

館:よく言えば自分たちの価値観にうまく置き換えたというか。メディアもそういうふうに仕立て上げたということもあると思います。

――当時流行った広告のコピーで「わたしがいちばんかわいい」というのがありましたね。日本はその頃バブル経済と言われた未曾有の好景気へ向けてどんどん時代が騒がしくなっていくときでもありましたし。

館:美術だけではなく時代的な雰囲気だったんでしょうね。

――館さんはそういった状況をわりと客観的に見ていたんでしょうか。自己憧着的な表現に陥らないようにしようというか。

館:そういったことが作品のなかにあることは当然なんでしょうけど、それだけでは弱いんじゃないかと思うんです。自分のことだけを語って本当に作品を通したコミュケーションができるのかとか。

――館さんは一貫して絵画を制作されていますが、絵画をやろうと思った動機というかきっかけというのは何かあったんでしょうか。

館:動機も何もなくて他に何もできなかったんですよ。版画とか器用じゃないとできないでしょ。立体作品つくるにしてもそんなに体力無いし(笑)。だから最初から絵画がやりたい、というモチベーションがあったわけではなくて他のことができなかったということなんですよね。ただ絵画というスタイルが自分のアイデンティティを一番ストレートに表現できるメディアだという気がするんです。例えばカメラとかパソコンでもいいんですけど、そういったものを媒介するよりも。身体そのものを使った身体表現ができれば一番いいんでしょうけど、この(自分の)身体で何ができるのかということがあるし、それならせいぜい筆一本とか、それが自分にとって身体の感覚に一番近いところでできるということです。

――例えば館さんの作品に描かれているイメージに対してよく、昆虫の羽根であるとか花弁であるとか言われていますが。

館:大学の頃、はじめは表現主義的な表現で裸婦を描いていたのですが、そこからだんだん裸婦のかたちがなくなってきて……裸婦は絵を描くための手がかりでしかなかった。その後、筆のストロークの中から核になるイメージがだんだんとでてきたんです。

――その核になるイメージというのは何なんでしょうか。

館:はじめはとにかく核になるイメージ、としか言えなかったんです。それで自分でも何なんだろうとずっと考えていました。結局、すごく個人的なことなんですが、自分の家がはちみつ屋なんですよ。それで子どもの頃から日本中の花のあるところを点々と親と一緒について行ってたんです。

――蜂が巣をつくる箱を持って行くわけですね。

館:そうです。まだ手伝うこともできない子どもですから一日中山の中にほったらかしにされるんです。捨て子みたいに(笑)。そうすると何も遊ぶものなんて無いんですよ。今だったらゲームとかあるんでしょうけど。しかたがないから虫を見てたり草を取ったりしてたんですね。そうして一日中山の中にいると午前中と午後とでは光も風の匂いも虫の活動のしかたも花の咲きかたも変わりますよね。そういう自然の一日のサイクルの中で有機的なイメージが立ち上がって、日没とともにまた消えていく。季節によっても蜂箱を置くところが変わりますから、例えば夏は北海道、春は伊勢、秋は東北とか、一年のサイクルの中でもまたイメージが変わる。そんなところで感じた、自分の原風景みたいなものが作品に現われているんではないかとも思うんです。
ただ、このことはちょっと前までは言えなかったんです。個人的なこと過ぎて。だから花や虫のかたちなのか、と言われるのも嫌だった……。

――無意識のうちにに現われているのかもしれない、というところでしょうか。筆のストロークが純化されるなかでそういった有機的なイメージが自然と現われてきたということですね。

館:制作のプロセスの中でだんだんと明確になってくる仕事というか。もう10年くらいその同じイメージのものを描いていますが、描き始めたら一気に仕上げてしまうとか、描き始める前は思いきりテンション上げるようにしています。少しでも時間を空けてしまうと、そのイメージにノイズが入ってしまうんです。一点の作品はだいたい3〜4時間で完成します。

――いわゆるフォーマルな絵画とは違うやり方ですね。

館:そうですね。西洋的なフォーマルなやり方とはちょっと違いますね。

――そうすると作品に対して、構成とか色彩とか空間とか、そういった文脈で批評されるというのはあまり本意ではありませんか。

館:いや、絵画は解釈の自由が保証されていると思いますから、そういったアプローチで捉えられることもやぶさかではないです。

――作品のタイトルには聖書から取られた言葉が使われているということですが。

館:自分でタイトルをつけるのではなくて、どこからか拾ってきた言葉を使うことによって作品のビジュアルとタイトルの言葉との相乗効果でもっとイメージが広がるんではないかと思うんです。私はクリスチャンではありませんが、たまたま家に聖書があったんですね。ただその言葉を日本語に訳してしまうとその言葉にイメージが引きずられてしまう。

――絵画というジャンルは美術の中でも最も古くて伝統のあるものですが、それゆえに現代ではその存在意義を示すのは非常に困難な形式とも言われています。さまざまなところで絵画についてとやかく言われていますが館さんはどのように感じていますか。

館:絵画というジャンルについて、たとえばメディアでどう言われていようが気にはなりませんし、興味もありません。とにかく自分のアイデンティティを作品に反映させることが私の仕事です。

(東京、銀座 Oギャラリーにて)[from nmp_i 1998 ]


Katsuo Tachi Contemporary Art
http://www.threeweb.ad.jp/~tachi/


展覧会予定
98新鋭美術選抜展
京都市美術館
1998.6.17(Wed.)-6.28(Sun.)
京都市左京区岡崎円勝寺町124 TEL 075-761-0059

ハラ ドキュメンツ 館勝生展
原美術館
1998.7.11(Sat.)-10.11(Sun.)
東京都品川区北品川4-7-25 TEL 03-3445-0651

館勝生展
ギャラリー白
1998.7.20(Mon.)-8.1(Sat.) 11:00-19:00
日曜日は休廊,土曜日は17:00迄
大阪市北区西天満4-6-14千福ビル2F TEL 06-363-0493

館勝生展
ガレリアフェナルテ
1998.10.27(Tue.)-11.14(Sat.)
名古屋市中区大須4−6−24第2国土ビルB1F TEL 052-242-8684


館 勝生
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