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ストリート・ウォッチ――2
大吉も怖いですよ。 場所;香港
島尾伸三
【黄大仙】
黄大仙(ウォンタイシン/広東語)は、香港で最も人気のある道観(道教寺院)です。地下鉄の黄大仙で下車、地上へ出ると、コンクリートの大きな門があり、その辺りには、線香やお守りを売るおばさんがたむろしていて、人の良さそうなあなたを見つけると、早速何か買ってくれと近づいてくるはずです。
 門をくぐり、境内へ入って行くと、どの方向へ進んだら良いのか少し迷うかも知れませんが、階段を上へ上へと進むなら、右の方へ進むと外へ出てしまいますが、すぐに本殿の前にたどりつくでしょう。ここは信仰の場所ですから、あなたが失礼なことさえしなければ、どこをどう見学しても、とがめられることはないでしょう。ほんの少し勇気を出して床に跪(ひざまず)いて礼拝する人々の間を通り抜け、神殿の中をうかがうのも可能です。本殿の周囲にも幾つもの神殿があり、そこには孔子や呂班といった様々な仙人や高名な道師が祭られています。

【二つの病院】
境内には病院が二種類あります。一つは西洋医学による診断、もう一つは中国伝統医学によるものです。無料で診察を受けることもできます。薬代は自己負担です。
 伝統医学の診断をうける前に、必ずやっておかねばならないことが一つあります。籤筒(チムトン/広東語)という、番号の書かれた箸くらいの長さの細い竹が入った筒を、両手で持って軽く上下に揺すっていると、細い竹が筒から徐々に飛びだしてきます。その中の最も飛び出た一本を引き抜き、それに書かれた番号を記録します。この番号があなたの運勢なのです。一から百までのこの番号を、病院へこの番号をもって行って、診察の時にこれを見せながら、漢方の処方を作ってもらうのです。
より細かく、運勢をみたいなら、何度もこれを繰り返し、その度に番号を記録します。五、六回もやっておけば、いやになるほどくっきりと未来が見えて、知らずにいれば良かったのにと思わされるはずです。

【龍と虎が雲の上】
健康よりも恋愛や金運を知りたければ、本殿を挟んで病院とは反対側にある建物で占い師や、道師にお願いすることになります。
 籤筒を振って、同じようにして得た番号を彼らに見せるのです。その三階建ての廊下だけのような建物の中には、まるで市場のような状態で占いの店が並んでいますから、どの店の先生に見てもらうかも運命の一つといえそうです。
 もし、あなたが、百番の中から偶然に一番を引いたとしましょう。一番札の詩は次のようなものです。

靈籤求得第一枝〔幸運にも第一枝を得ましたね〕
龍虎風雲際会時〔龍と虎が雲の上で約束しました〕
一旦凌霄揚自楽〔楽しい事が始まると、それは、〕
任君来往赴瑤池〔あなたの幸運の始まりとなるでしょう〕

この詩は昔、姜公という人が大臣に任命された時の祝辞だそうで、全て大吉という運勢です。身に余る幸運というのも、その後に何が起きるかと思うと恐ろしいのですが、道師は顔色一つ変えずに、こう言うでしょう。「もっと知りたければ、あと500ドルかかりますよ」。

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