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ストリート・ウォッチ――5 上海の裏通り |
島尾伸三 |
高層ビルが建ち並ぶようになった上海も、少し裏通りへ入ると、10年前と少しも変わらぬ、飾り気のまるでない、裏町に暮らす人々の生活があふれる光景に遭遇することになります。それは、なぜか、ホッとした気持ちにさせられます。 この街には、魔都だとか不夜城だとか、間諜(スパイ)の暗躍だの、麻薬や売春に巣くう悪人たちの徘徊する、不健康な場所という印象がつきまとっていましたし、好んでそのように喧伝されて来ました。それは嘘ではなかったにしろ、住民の誰もが犯罪者や裏社会の構成員だったわけではないはずです。 いいえ、むしろ普通の、どちらかといえば平々凡々な都市生活者の方が圧倒的に多かったはずです。そうではなくなったのは、戦争や革命といった社会混乱の故であって、なにも、上海の住人たちが、それを望んだわけではないはずです。 たしかに、今だって、黒社会(暴力団、マフィア)が暗躍する街ではありますが、それは、香港だって北京だって、東京やニューヨークだって同じことのはずです。 どの都会であっても、庶民の日常生活にそれらが歓迎されるはずがありません。平和な毎日を願う市民の数が全てを圧倒しているはずです。 その証拠に、だから、裏通りには、むしろ穏やかな、日常という、ゆったりとした空気と時間が流れていて、例え間違ってでも、道に迷ったとしても、そこへ足を踏み入れた人の気持ちを安らけくしてくれるのです。 |
作品 |
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