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ロンドン発
「コンテナシップ」プレヴュー公開!
森口まどか

2月20日ICA、ロンドンのニューメディアセンターで、「コンテナシップ」のプレヴューがあった。「コンテナシップ」は3月26日からのホワイトチャペル・ギャラリーと本誌上での公開に先立ち、インターネット作品に関する連続講演会"Cashed"に参加するかたちで発表された。「コンテナシップ」について報告する前に、ICAが昨年11月に開設したニューメディアセンターと"Cashed"について少しだけ説明を加えておきたい。

ニューメディアセンターは、ICAを訪れる人は大抵そこで一休みする中二階にあるバーの階段下を利用した小さな場所にできた。これからの表現手段には、かつて大作が必要とした巨大な作業スペースは必要ない、というかのように。センターは始まったばかりでこれから様々な活動が展開されるのだろうが、教育活動の一環として、これから年内毎月1回の割で、インターネット上で制作する作家やグループが作品の意図、技術上の問題点などを実作とともに紹介するのが"Cashed"である。今回、「コンテナシップ」は、制作グループe-2の代表者が実際に講演はせず、"Cashed"に参加した他のデジタル・アートの3作家と共にセンターのコンピューター上でのみ発表された。ところで、インターネットなるものにほんの1カ月たらず前にたどり着いた筆者は、(こんな人間にこのような原稿依頼がくるのは天の配剤か)いわゆるデジタル・アートの現況に疎く、まして親しい作家もいない。したがって、この講演会がインターネット作品に対してどの程度重要な問題を提起していたのか率直にいって伝えようがない。といって、雲を掴むような内容であったわけではなく、講演者2人の制作意図はよくわかった。逆にいえば、私の想像を超えず少々拍子抜けだったともいえる。

さて、「コンテナシップ」プロジェクトは、3人のデジタル・アート制作者グループe-2によって実現した。e-2のメンバーはそれぞれの専門分野(画面のデザイン、技術など)を担当しながら「コンテナシップ」の概念を練り、4人の作家に委嘱してコンテナの中身を作り上げた。
"Cashed"で講演した作家もそうだったが、インターネット上で制作するということには、この地上のどこにも属さない空間のイメージがしばしば共有され、また制作者を刺激するようだ。「コンテナシップ」の場合もそうで、最近世界の海を航行し続ける豪華客船船室の分譲売り出しのニュースをテレビで見たが、波間に漂流しながらさまざまな展覧会を搭載しその情報を流す様子が想定できる。プロジェクトのキュレーターであるサイモン・フェイスフル氏は、「これまでデジタル・アートやインターネットなどの最新技術とは無縁だった作家を選ぶことで、デジタル・アートに新鮮な感覚を見つけだすことができた。」といっている。26日の公開を待って実際に見てもらいたいのでここで詳細な説明は加えないが、いずれもクリックによって次々と複雑な画面へと入ってゆく選択肢を鑑賞者にあまり与えず、その結果作家の意図は順序良く鑑賞者へ提示されてゆく。つまり、作家は鑑賞者が得る視覚イメージならびにその時間的なリズムを積極的に統御しているように見える。断っておきたいのだが、私はこのことを否定的に捉えてはいない。事実デジタル・アート初心者には、安心して画面を追うことができ大変嬉しかった。また、フェイスフル氏のガイドもあったが、広く使いこなれた技術を使用した作品から高度な技術を要するものまであり、デジタル・アートのバラエティーに接することができた。「コンテナシップ」はハイテク技術とインターネットの基本に忠実な作りがなされているといってよく、そのことがこのプロジェクトを成功させていると思われる。

e-2のスタジオを訪ねた帰途フランシス・ベーコンの展覧会に立ち寄った。ベーコンの展覧会としては充実していたとは思えなかったが、絵画を見るという行為から得る喜びをあらためて確認した気がした。絵の具の質感に筆触などなど。どの要素もが急に生き生きと見えはじめたのだ。だからといって絵画の未来を確信するわけではなし、デジタル・アートの可能性も現在の私にはわからない。ただ、美術館へ行くよりはるかに気軽にインターネット上で誰もが視覚イメージを楽しみ始めていることを、その時実感した。このこと自体が芸術の構造と制度を変えてゆく気がしている。


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