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VOCA展を10倍おもしろくするために
村田 真

いきなりVOCA展の特徴を列挙してみよう。まず第一に、この展覧会が生保会社による“企業メセナ”の一環として行われているということ。第二に、全国の美術館学芸員を中心とする30人前後(今年は33人)の推薦委員が作家を選び、選ばれた作家は無条件で出品できるということ。第三に、対象を40歳以下の作家による平面作品に限っていること。第四に、4人の選考委員(今年はゲスト1人を含め5人)が賞を決定するということ。そして最後に、受賞作品は主催企業が“賞金として買い上げ”、そのコレクションになること、などである。
これらの特徴をそのまま批判につなげることはたやすいが、それはひとまず置いといて、まずは未知の作家(特に首都圏以外)の作品が一堂に見られる機会として、素直にこれを評価したい。パチパチ。実際VOCA展で初めて知った作家は数多いし、彼らの作品はそれなりに新鮮でもあった。が、「でもあった」と過去形で書かなければならないのは、毎年毎年30人前後の、それも平面の作家ばかりを選んでいるので、当然ネタも尽きてくるからだ。今年は33人の推薦委員が1人の重複もなく33作家を選んだというが、4回目の出品となる児玉靖枝をはじめ、越前谷嘉高、岡田修二、綿引展子など数人が過去と重複している。

ネタが尽きてくるのは作家だけでない。選考委員の選評も、当初はそれぞれ絵画論をぶっていてそれなりに読みごたえもあったのだが、4回5回と回を重ねるにつれボルテージが下がってきた。同展の実行委員長で選考委員も務める高階秀爾の前置きなんか、去年とほとんど同じだもん。
 いや別にネタが尽きたっていい作品さえ見られりゃ問題ないんだけど、どうも作品そのものもマンネリ化しているように感じられるのだ。高階チェンチェーは選評の中で、「回を重ねるごとに内容が充実して来ている」「力作揃いで、全体として水準の高い展覧会となった」と自賛しておられるが、「力作揃い」なのか「ドングリの背比べ」なのかは紙一重。たとえばVOCA賞の湯川雅紀の作品は、なるほど空間も色彩もよく考えられていて悪くない。けど、飛び抜けていいとも思えない。いってしまえば優等生の絵だ。これに比べれば奨励賞の伊庭靖子、岡田修二、杉戸洋、太郎知恵蔵の4人のほうが、欠点もあるけどより個性的といえる。賞は合議制で決められるらしいが、それよりも高階秀爾賞とか酒井忠康賞とか、選考委員1人ひとりの責任のもとに賞を授けたほうが明快ではないか。

概して今年の作品は(いや実は毎年感じていたのだが)、手堅く無難にまとめた優等生的なものが多いという印象である。VOCA展に限らず毎年ほぼ同じメンバー、同じ方法で展覧会を組織していれば、マンネリに陥るのは当たり前。ならばそれを打破するには、メンバーを変えるか方法を変えるしかない。まず、選考委員を全とっかえしてはどうだろう。このままでは選評も書くことがなくなるし、来年は同じ美大から2人の教授が委員になってしまうし。
 一方、推薦委員は、顔ぶれはともかく全国に散らせているのは効果的だと思うが、なにも地元作家しか選んではいけないというキマリはないはず。たとえば全員が結託して1人の作家だけを推すとか。そうすればVOCA展はその作家のワンマンショーとなり、賞も総ナメ、一躍☆スター☆だ。それよりも、ジミー大西とか工藤静香とか藤井フミヤとか、あらかじめスターばかりを選ぶほうがいいかもしれない。話題は独占するわ観客は急増するわ質は低下するわで、いいことずくめ……なわけないか。あるいは、全員が中学生のガキを推薦してはどうだろう。バタフライナイフを絵筆に持ち替えさせるんだから社会貢献にもなるし。そうすると受賞作品はやっぱン百万円も払って第一生命のコレクションに収まるんだろうな。メセナ大賞は間違いなしである。

受賞作品

湯川雅紀
湯川雅紀「無題」



杉戸洋
杉戸洋
「The dinner (wall)」/「The dinner (table)」



岡田修二
岡田修二「Take#10」



伊庭靖子
伊庭靖子「Untitled」



太郎知恵蔵
太郎知恵蔵
「Desire of machine」/「Between four eyes」


写真提供:上野の森美術館

《VOCA'98 現代美術の展望 新しい平面の画家たち》
会場:上野の森美術館
会期:1998年3月28日〜4月12日
問い合わせ:Tel.03-3833-4191

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