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architecture
建築における内在性の硬度
《ジュゼッペ・テラーニ ファシズムを超えた建築》展
米田 明

この度水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されているジュゼッペ・テラーニ展は、1996年のミラノ・トリエンナーレでの展覧会に端を発する国際巡回展の一環で、かなりの数のオリジナル・ドローイングと模型、それに加えて日本側で用意された近況写真と未完のプロジェクトをシミュレートしたコンピュータ・グラフィックスが展示されている。
 これらの決して少なくないマテリアルに接してみて改めて感じたのは、彼の建築が石造建築に由来するということだった。木炭で描写されたドローイングの中の物たちの表情は、重く決して透明ではない。模型はあらかじめディスクリートな平面から構成されたというよりも、石にも似た量塊に穴を穿ち、その表面を幾重にも薄く剥離させていったように見える。さらに大きく引き伸ばされた写真では、モノクロームの小さな写真の中ではひたすら観念的に見えたフレームあるいはグリッドが、妙にソリッドな質感を発しているのである。確かに一連の墓碑や記念碑、あるいはリッソーネのカサ・デル・ファッショの厚い壁でしつらえられた階段室などは、字義どおりの石造の構築性を示しているのであるが、コモのカサ・デル・ファッショのファサードに立ち現われる透明性も、石造建築特有の壁の厚みを縮約させていく中から生み出されたものと考えたほうが判りやすいだろう。そこではヒルデブランドが予見した建築における浅い浮き彫り空間が、コルビュジエ以上に的確に実現されているのだ。そういった意味で彼のマニエリスムと呼ばれるものは、石造建築におけるヴォイド/ソリッドの2元論を虚のソリッド/虚のヴォイドの対立性へと転倒していく中に発動されていったかのように思える。

一方で興味深いものは彼を単純なモダニストとしてとらえることを不能とする、異様ともいえる時間感覚である。すなわち彼の建築に見いだせる建築言語には、古代的なモニュメンタリティの超時間性とモダニティのリニアな時間性が混在しているのである。とはいえそれらは、強引に内在的に関係づけられており、見掛け上外在的な文脈との連繋は遮断されている。このような建築言語の異種交配は一種のコラージュとして考えられるが、そこで持ち込まれる言語自体、すでに一般的な意味でのメタフォリカルなものではなくて、換喩のコラージュ、つまるところ関係性の関係づけへと抽象化されているのだ(プロポーションといったものも、隣接する2辺の関係と考えると極めて換喩的なものと考えられるだろう)。その結果そこに見いだせる意味作用は、再度決して一義的なメタファーに回収されず、タフーリが『主体と仮面』で指摘するような複数の関係性を出来させることになろう。しかしながらこうした様々な時間性の交配や絶え間ないヴォイド/ソリッドの転倒を経てもなおそこに厳然と感じとれるのは、それらを統合しているテラーニの建築的思考の強靭さであり、一貫した連続性である。それを敢えて内在的な硬度と呼びたい。
 そしてそうした内在性の硬度を再び合理主義と名づけるなら、その拡張された概念に含まれる徴表を切り分ける作業は未だ多く残されているように感じた。

水戸芸術館現代美術ギャラリー
「ジュゼッペ・テラーニ
ファシズムを超えた建築」展
http://www.arttowermito.or.jp/
art/terragnij.html



水戸芸術館展示風景 水戸芸術館展示風景 1



水戸芸術館展示風景 3



水戸芸術館展示風景 4
《ジュゼッペ・テラーニ ファシズムを超えた建築》展
会場:水戸芸術館現代美術センター
会期:1998年4月11日〜6月7日
問い合わせ:Tel.029-227-8120 eメール: webstaff@arttowermito.or.jp

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