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「コラージュ映画」――その可能性の探索
イメージフォーラム・フェスティバル1998
『特集 FAKE THE TIME』
北小路隆志

今年の「イメージフォーラム・フェスティバル1998」の『特集 FAKE THE TIME』は、ファウンド・フテージと呼ばれる手法に代表される、古いフィルムの断片の引用や再編集(リサイクル?)、それに伴う贋の時間(物語=歴史)の捏造もしくは既存の時間(物語=歴史)の書き換え作業、といった、映画が本質的に抱える可能性にして詐欺性(?)を主題にすえる興味深い試みであった。というのも、私はこの手の「コラージュ映画」に対して最近ちょっとした考えの修正を迫られているように感じるからで、このジャンルの近年の傑作をセレクトした今回の上映はまことに時宜を得たものとなったのである。

たとえば、ポール・ヴィリリオは最近翻訳が出たインタヴュー集でリーフェンシュタールの『意志の勝利』に言及した後にこんな発言を行なっている。「映画はそのとき、言わばひとつの戦場となります。そしてイギリスのドキュメンタリズムは、批評的なニュースを発案することによって、ドイツのニュース映画の専横に対抗することになります。はじめに、簡明さと単純さを意図としてもつニュース映画があり、次に批評的なニュース映画が出てきます」(本間邦雄訳『電脳世界』)。
 例によって、ヴィリリオの主張は明確だ。「簡明さと単純さを意図としてもつ」ドイツ産プロパガンダ映画がまず存在し、それに対抗すべくより「批評的な」手法を伴うイギリスのドキュメンタリズムが登場する……。映像のアルシーブを起源とする「コラージュ映画」は、ゴダールの『映画史』のような仕事もそこに含まれるとして、正統的な映画史(物語=歴史)と認定されてきた時間の連なりや解釈に対する批評的な「介入」を意味するはずだ。たとえば過去のニュース映画のイデオロギー性もしくは隠蔽した事実を暴露し、パロディにするといった具合に(今回上映された『人間のかけら』)。いずれにしても、今や黄昏を迎えた20世紀は映像の世紀であり、重要な出来事の多くが映像として残され、逆に映像に記録されない出来事は歴史に登録されることなく消え去る運命にあるのだとすれば、「コラージュ映画」は20世紀における既成のモンタージュや話法そして歴史等々への重要な「批評的介入」の手段として、反体制陣営から登場したとひとまず理解できるだろう。

ところで。最近のハリウッド映画においてコラージュ映画的な手法の(再)盗用が目立ってきている。たぶんきっかけはオリバー・ストーンの『JFK』。ケネディ暗殺という歴史的出来事を別の解釈による「物語」として映画化すべく、古い映像の引用、当時撮影されたかのような雰囲気の実写、そしてフィクションを交えた、あの神経症的に細かいカットによる構成が映画を作りあげていた。つまりコラージュの手法による別の歴史=物語の可能性の探索、もしくは捏造。ストーンはつづく『ナチュラル・ボーン・キラーズ』においても、異なる主題を相手に同様の手法を採用したが、おそらく彼(の手法)のメジャー化と時を同じくしてコラージュ映画のハリウッド(体制派)側への移行が進行しつつあるのだ。最近では『ウワサの真相』や冷戦下のニュース映画のアプロプリエーション的側面をもつ『スターシップ・トゥルーパーズ』等々が典型的な例としてあげられるだろう。
 フェスティバルのディレクターである中島崇氏はプログラムに以下のような文章を寄せている。「『FAKE THE TIME』は時を欺き、時をスキップする。瞬間に未来や過去を飛び、瞬時に現在に還るという、情報が時間軸を飛び交うデジタル時代の感覚を存分に味わうことができるだろう、そしてぜひ試していただきたいのは、観客が映像を見ているいま、どの時代にいるかを自覚してもらうことである」。そう、私たちはいまどの時代にいるのか……。それはおそらく「コラージュ映画」の手法が既に実験映画側から巨大な資本力とテクノロジーを有するハリウッド側の手に移行しつつある「時代」なのではないか? その際、われわれは、かつて物質的な手触りとともにフィルムの切断や接合によって創出されたであろうファウンド・フテージ的手法が、デジタル化された映像においてその物質的な軋みを失うであろう点についての留意と、それでもなお反体制--反資本主義、そして実験映画の側に加担することを望むとき、「コラージュ映画」の戦略がどこまで有効であるかについての見極めを要求されるであろう。たとえば、70年代に吹き荒れたハイジャックなど空港を舞台にしたテロリズムの歴史をめぐるヨハン・グリモンプレのビデオ作品『ダイヤル・ヒ・ス・ト・リー』を見ながら、私はこの重要な題材について、冗談めかすことなくもっとマジメに取り組んだほうがアクチュアリティーを増すであろうと感じたのである……。柄にもなく!

《イメージフォーラム・フェスティバル1998》

開催地/会場/会期/問い合わせ

東京/パークタワーホール
1998年4月25日〜5月5日
イメージフォーラム・フェスティバル事務局
Tel. 03(3357)8023

横浜/横浜美術館レクチャーホール
1998年5月2日〜5月5日 Tel. 045(221)0304

大阪/キリンプラザ大阪
1998年5月9日〜5月17日 Tel. 06(212)6578

福岡/福岡市総合図書館
1998年6月3日〜6月7日 Tel. 092(852)0608

イメージフォーラム
上映全作品写真&解説
http://www.imageforum.co.jp/

特集・FAKE THE TIME

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『雑草の道』
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16ミリ/15分/1998/
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『引き算』
ビデオ/5分/1996/イギリス
ジョージ・バーバー


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16ミリ(ビデオ版上映)/14分/1996/イギリス
ジョン・スミス


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『血縁関係』
16ミリ(ビデオ版上映)/27分/1985/アメリカ
ジェイ・ローゼンブラット


人間のかけら
『人間のかけら』
16ミリ(ビデオ版上映)/30分/1997/アメリカ
ジェイ・ローゼンブラット


ダイヤル ヒ・ス・ト・リ・ー
『ダイヤル ヒ・ス・ト・リ・ー』
ビデオ/68分/1997/
ベルギー+フランス
ヨハン・グリモンプレ

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