reviews & critiques ||| レヴュー&批評 |
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静止した「時間」のなかにある母と子の静謐なドラマ ―アレクサンドル・ソクーロフ『マザー、サン』 |
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北小路隆志 | |||
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ソクーロフは巨匠か
一昔前アート界でキーファーを取り巻いていたものと似た性質をもつ懐疑や議論が、今日の映画界においてアレクサンドル・ソクーロフを巡り取り沙汰されているように思われる。すなわち、このロシア人映画作家は本当に巨匠であり、真に独創的な存在と見なしうるのだろうか? |
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「最初の」カラー映画
そんななか、彼の新作は肯定的な意味で予想外の驚きをもたらしてくれる映画だった。物語らしきものはない。海辺からもそれほど隔たってはいない、人気のない森の中らしき場所に建てられた家屋で暮らす病身の母親と一人息子が送る一日を淡々と描く。ただし、色彩や運動に対する禁欲的な引き算の姿勢からの転回が試みられようとしている。自分が「カラフルな人間」であるとの自身の主張の正当性を立証するために? そう、『マザー、サン』はソクーロフ自身が認めるように、彼にとって「最初のカラー映画」であるかのような感慨を私たちにもたらす。さらに、家に閉じこもりがちな母親を戸外のベンチにまで連れだした息子が、そこでおそらく既に死んでしまった彼の父親が母親に送ったものであろう手紙を読んで聞かせる様子を執拗に追う物語中盤での長回しのカメラは、ソクーロフ映画で久々に回復されたダイナミックな動きといってよく、圧倒的だ。 |
参考文献 スーザン・ソンタグ 『InterCommunication14』所収インタヴュー (NTT出版) フレドリック・ジェイムソン 『ユリイカ』総特集ソクーロフ「ソヴィエトのマジック・リアリズムについて」1996年8月臨時増刊 (青土社) 前田英樹 『映画=イマージュの秘蹟』 (青土社) |
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ソクーロフの映画作法
ヴェンダースと異なり映画史と呼ばれる大地に一切信頼を寄せないソクーロフはしばしば(モダニズム芸術としての)映画が芸術的に未熟であるとの苛立ちを表明する一方、絵画や音楽への羨望を隠そうとしない。『罪と罰』の翻案である『静かな一頁』ではフランスの廃墟趣味の画家ユベール・ロベールが参照されていたが、今回はドイツ・ロマン派の画家フリードリッヒの絵画をモチーフに画面構成を行っている。つまり先に触れた例外的に貴重な動きが認められるとしても、彼の映画が一貫して「静止」への志向を見せる事実に変わりはない。ただし前田英樹氏も指摘するように(「存在の静止について」)、彼の映画(モーション・ピクチャー)における「静止」は写真への回帰とはならず、むしろ絵画への根拠を欠いた跳躍となるだろう。もちろんヴェンダースらが示す映画の前史としての写真へのノスタルジック愛着とのあいだでここでも興味深い対照を示すことになる。 |
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