reviews & critiques ||| レヴュー&批評 |
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アートラボ第7回企画展
《IO_DENCIES(テンデンシーズ)
―情報からの都市への問い》
(ノウボティック・リサーチ) |
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四方幸子 |
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「空間的/非空間的」「実体の/非実体の」「集中した/断片化された」「同期/非
同期」「のぞき/参加」……。「シティ・オブ・ビット」の中で、ウィリアム・J・ミッチェルは、メディアテクノロジーの普及によって変容しつつある建築や都市の文脈において前者から後者へのシフトを指摘している。それらはこれまで屹立してるかのようにみえた近代的概念を揺すぶるものである。
人間という主体(それも一種の幻想なのだが)を中心にすえた、物体を基盤とした遠近法的世界観は、安定性を希求する中で排除されるものを多く生みだしてきた。そして情報や出来事によってのみ生成する世界は、むしろそうした安定性からは租借できない、つねに流動や偏向をつづける脱中心的な世界をもたらす。現在わたしたちは、それらが相互浸透し合うハイブリッドなものとしてしか世界を語ることはできない。 |
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筆者らが関わっているアートラボの第7回企画展として展開される《IO_DENCIES(テンデンシーズ)―情報からの都市への問い》(アーティスト:ノウボティック・リサーチ[KR+cF])は、現実空間とヴァーチャル空間を情報エージェントをインターネットを通して流通・介在させることにより、東京という〈都市性〉の新しいあり方を探索していくプロジェクトである。ケルンを拠点にメディアアートにおいて世界的な注目を集めているアートグループ、KR+cFは、これまで〈ノウボット〉("Knowledge"と"Robot"の合成語で「情報エージェント」を意味)をめぐってさまざまな実験的プロジェクトを行なってきたが、今回ノウボットは、つねに変化していくさまざまな〈流れ(フロー)〉の傾向を動かすものとしてあらわれる。タイトルの「IO_DENCIES」は、"Density"(密度)と"Tendency"(傾向・影響)をかけた造語で、情報のダイナミックなフロー・プロセスによってあらわれる〈さまざまな傾向〉を意味しているが、都市はここでは情報が多層に交錯するリゾーム状の流動体としてとらえられている。 |
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KR+cFは、数度の来日において東京をリサーチし、新橋周辺を分析サイトに選んだ。ここでは数年遺跡の発掘調査が行なわれ、21世紀にはビジネス地区に変貌する旧汐留駅跡の空き地=〈ヴォイド〉がある。その周辺に広がるこの地域を新橋駅、浜離宮、築地、銀座、ウォーターフロントなどさまざまな異なった地域特性や情報レイヤーが交差する場所としてとらえ、それらの情報から抽出した都市のさまざまな傾向〈アーバン・プロファイル〉をベースに、インターネット内で稼働するエージェントとしての〈フロー〉が形成された。ひとつのフローは、連鎖的に新しいフローを生み出していく。つまり現実の都市空間を情報的に読みとくことによって、ヴァーチャルなネットワークのフローが生まれたのである。
プロジェクトは、インターネットと東京のインスタレーション会場をリンクして行なわれ、現実と情報空間がダイナミックに相互浸透することになる。インターネットのライブ・ユーザは、ブラウザ上にあらわれるフローのパターンを操作することによって、常にそのダイナミクスを変化させるが、情報空間内では、類似した傾向どうしが検索・連結され、フローが組織的に新しい傾向を作りだし、他のユーザのアクションにも影響を派生させていく。
ここでは東京という都市のダイナミクスをネットワーク上の実験的フィールドへ解放することで、東京だけでなく世界各地の人々の思考をまきこみながら、情報による多層な〈都市〉が考察される。新橋、東京、インスタレーション会場、そしてグローバルなネットワークという、複数のエリアが多層に交錯しているこの「非場所(non-location)」(KR+cF)的場所において起こりつつあるのは、人間が関わりながらもその意志を越えて偏向・連結をつづけていく、予測不可能なオートマトン的運動なのだ。
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《IO_DENCIES(テンデンシーズ)》
は、今後ベルリン、サンパウロでも
展開される予定。 |