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アルス・エレクトロニカ 97レポート
フレッシュファクター―情報身体機械
アルスエレクトロニカ写真
有馬純寿

毎年恒例の世界最大規模のメディアアート・フェスティバル、アルス・エレクトロニカが今年もオーストリア、リンツで9月8日から13日にかけて開催された。本年度のテーマは「Flesh Factor-informationsmaschine Mensh(フレッシュファクター―情報身体機械)」。情報ネットワークが神経細胞のように広がり、またクローン技術等のバイオテクノロジーが一般的しつつある現在、あらためて身体性や人間の意義を問い直そうというわけだ。テーマとしてはいささか新鮮味に欠けるものではあるが、このテーマのもと、シンポジウムやインタラクティブ作品の展示、パフォーマンスなど各種イヴェントが6日間にわたってリンツ市内の各所で同時進行的に行われた。

だが以前の「人口生命」「情報遺伝子」いった刺激的なテーマとは異なるからか、また昨年度のアルス・エレクトロニカ・センターのオープンなどの目玉がないせいか、ここ数年のなかでも規模も小さくトピックに欠くもので、二日間にわたって行なわれたシンポジウムでは、サイボーグ・フェミニズムのダナ・ハラウェイ、MITの パティ・メイス、石井裕といった科学者のほか、メディアアクティビストのヘアート・ロフィンク、ポール・ギャリン、ステラークといったアーティストなど20名を超えるパネリストが登場したが、私の聴講した範囲ではメディアアートにとっての新たな可能性の提示は感じられなかった。
 インタラクティブ作品も身体性をテーマにした作品が集められたが、その多くが体験者の操作がマシン内で完結してしまうものや、「あなたのサイボーグ度をチェックします」といったお笑い系のものであったのがなんとも残念である。そのなかで体験者の心拍、皮膚温度に基づき強力な地震を引き起こす TXTD の「IPzentrum」や、強烈な表現のためか展示が中止になり作品のプレゼンテーションのみとなったポール・ギャリンとデヴィッド・ロクビーの共作「Border Patrol」など強制的な身体や意識へのフィードバック回路をもついくつかの作品が評価できた。
 インターネット作品は「openX」という形でメイン会場の2階に集められ、さまざまなプロジェクトが行なわれた。以前のような単なる閲覧型のものはさすがに影をひそめ、インターネット上のディスカッションや(Net Time、Net Sauna等)インターネット放送(TNC Network、ORF kunstradio等)、VRML を使ったテレプレゼンス作品といったネットワークの機能自体を用いたプロジェクトが主流であった。

一方注目すべき作品が多かったのが ORF(オーストリア国営放送局)主催のコンクール Prix Ars Electronica の受賞作品であった。
 ここでは日本人作品の活躍がめだち、インタラクティブアート部門で坂本龍一×岩井俊雄の「Music Play Images×Images Play Music」、ネットワーク作品部門では竹村真一、西村佳哲、東泉一郎はじめ多数のメンバーからなるネットプロジェクト「Sensorium Team」の「Sensorium」がそれぞれグランプリを受賞したほか、八谷和彦の「見ることは信じること」、木原民生、安斎利洋、藤井孝一らの「Moppet」など多数の作品が受賞・展示された。なかでも坂本龍一×岩井俊雄のコンサートはピアノ演奏を映像化するだけでなく、岩井の操作するさまざまな映像によってグランドピアノを鳴らすパフォーマンスは聴衆の驚愕を巻き起こした。また「Sensorium」でのネットを行き来する情報自体を可視化、音響化する作業も関心を集めていた。
 他の作品では VR 技術に過去から現在までの時間軸をとりいれベルリンの街の再構築をはかる Art+Com らの「The Invisible shape fo things past」が秀逸であった。

この Prix Ars Electronica で着目すべきことは、それぞれのジャンルでの作品の評価基準が変化していることであった。インタラクティブ部門でのインスタレーションではなくコンサート・スタイルの評価のほか、コンピュータ・ミュージック部門での従来のテープ作品系ではなくコンピュータのコントロールによるジャンクマシーンが鉄の協奏を生み出すマット・ハッカートの「マシン・サウンド」など、インタラクティブ性とは何か、コンピュータによる今日的な音楽とはなにか、とそれぞれの本質にたちかえった審査がなされたことには共感が持てる。
 いずれにせよ総括すると例年にくらべ低調であったことは否めず、ここ一、二年あちこちでささやかれるメディアアートの閉塞感を結果的に示すことになってしまったと感じるのはは私だけではないだろう。
アルス・エレクトロニカ・センター
アルス・エレクトロニカ・センター
撮影:有馬純寿
パティ・メイス
パティ・メイス
坂本龍一と岩井俊雄
坂本龍一と岩井俊雄
竹村真一
竹村真一
撮影:rubra
「Music Play Images×Images Play Music」
「Music Play Images×Images Play Music」
ステラークのPARASITE
ステラークのPARASITE
撮影:Felix Nobauer
アルス・エレクトロニカ 97
会場:アルス・エレクトロニカセンター(オーストリア、リンツ)
会期:1997年9月8日(月)〜9月13日(土)
問い合わせ: Tel.43.732 72 72-0

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