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エットーレ・ソットサス《UNSPOKEN ARCHITECTURE》
アクションを誘うデザイン
菊池 誠

多くの建築家やインテリア・デザイナーたちの展覧会を手がけ、東京の建築・デザイン関係者の間でよく知られている〈ギャラリー・間〉において、エットーレ・ソットサスの展覧会が開かれている。1917年生まれの、このミラノ・ベースの建築家、インテリア/インダストリアル・デザイナーは、今日にいたるまで長年多岐にわたる活動を続け、しかもつねに第一線の作家であり続けた。

二つのフロアにわかれたギャラリーでは、一方に彼のデザインによる最新の家具が、他方に80年代に入ってからの事務所(ソットサス・アソシエーツ)の結成以後手がけられるようになった建築作品の図面と模型による展示が行われている。オフィス・ビルの足元にある、よくしつらえられてはいるがとりたてて特徴のないギャラリー空間の中にそれらの家具や展示パネルが一見無秩序に並べられる。が、この見た目の無秩序は、このデザイナーがデザインについて語るとき引き合いにだす演劇のたとえに従えば、ギャラリーがステージで家具や展示パネルが役者だということからくるのだろう。実際、彼のデザインする家具は壁に寄せて置かれるよりは部屋の中ほどに置かれて四周から眺められるようにデザインされており、古典的な意味ではないがアンスロポモルフィックな――人間の身体になぞらえられた――形態を与えられている。
 展覧会のタイトル《UNSPOKEN ARCHITECTURE》は、だから、何も伝えない、のではない。それは一種の無言劇で、役者たち(家具、展示パネル)の身振りがデザイナーの思想を伝えるのだ。
ソットサスは、50年代の終わりからオリヴェッティ社のデザイン・コンサルタントを勤めるが、1969年のポータブル・タイプライター、赤い「バレンタイン」は筆者も含めてある世代のデザイナーたちにとって、イタリアン・デザインの強烈なイコンであった。同時に、あれは今日のラップトップ・コンピュータの「母」ではないにしても「叔母」だった。オフィスの外に連れ出して、どこにでももって行ける「書く機械」。そういえば彼がオリヴェッティ社で最初期に手がけたデザインは「エレア9003」と呼ばれるパンチカード入力式のコンピュータ・システムのキャビネットだった。写真でしか見たことがないそれは現在の彼の家具のデザインに通じるキャラクターを持っている。
68年前後からのいわゆる「ラディカル・デザイン」の動きに主体的に関わり合い、「スーパースタジオ」や「アーキズーム」といった、もっぱら雑誌や展覧会を舞台に活躍した(つまり実際の建物をほとんど建てなかった)建築家グループの後ろ盾となり、ポスト・モダニズムの80年代を「メンフィス」家具コレクションの中心的デザイナーとして駆け抜けた。「メンフィス」はその鮮やかな色使い、ポップな柄の布地やプラスティック・ラミネートといった、あまりにもわかりやすいイコンとイタリアン・デザインの高名とで、世界中に多くのコピーを生み出し、コマーシャリズムに結びついて結局は短命だった「ポスト・モダニズム」とともに早々と消費され尽くしたかに見える。が、あのときソットサスが求め、また伝えようとしたものは、今日乃木坂のギャラリー・スペースでやはり彼が伝えようとしているのと同じもの、つまり、デザインは単に物品の表面を飾るもの、その包み紙であるのではなく、それを使う人のアクションを誘うもの、それも演劇的だか儀式的だかのなにがしか精神的価値に関わるようなアクションを誘うものだということだったのではないだろうか。
ソットサス1
ソットサス2
ワードローブ・キャビネット(1996)


写真:ギャラリー・間
ETTORE SOTTSASS《UNSPOKEN ARCHITECTURE》
会場:ギャラリー・間
港区南青山1丁目24-3TOTO乃木坂ビル3F(千代田線乃木坂駅からすぐ)
会期:1997年9月24日(水)〜11月1日(土)
問い合わせ:Tel.03-3402-1010

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