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宇宙の彼方で、いかなる他者にエリーは接触したのか
――『コンタクト』
五十嵐太郎

アメリカニズム

CQ,CQ.CQ,CQ……。無線に呼びかけ、暗闇に耳を澄ませる寂しげな少女。誰かいますか? という他者の声への探索は、やがて広大な宇宙を相手に行なわれる。恒星ヴェガからの信号を受け取る電波天文学者エリーの物語『コンタクト』は、SFXばかりが売物で内容のないハリウッド映画が続くなかで地味な存在だが、久しぶりのハードSFであると同時に、忘れかけていた子供のころの宇宙への憧れを素朴に思い出させるような映画だ(筆者も自分の専攻する建築史がつくづくセコイ学問だと感じてしまった)。ただし、この感動はカール・セーガンの書いた同名の原作(1985)によるところが大きい。さらに言うと、彼を有名にした宇宙文明論『コスモス』(1980)は、恒星間のメッセージに素数が使われるなど、『コンタクト』に用いられる多くのアイデアをすでに提出していた。確かに映画は限られた時間のなかで、原作の雰囲気をできるだけ損なわないよう配慮している。
 とはいえ、幾つかの相違点を指摘しよう。映画で球形の宇宙間移動装置[ポッド](原作はピタゴラス?の12面体)に搭乗するのはエリー1人だが、原作は人種、宗教、性別の異なる5人のメンバー。映画はアメリカ中心の展開だが、原作は世界各国の力学を描く。映画では母の存在を消し、宗教学者とのラブロマンスを強調する。原作では地球に戻り、さらに宇宙の隠れたメッセージを円周率の彼方に求める。ゆえに映画は単純化によって他者と自己の接触[コンタクト]、すなわち異星人/地球人、父/娘、男/女、宗教/科学という古典的なテーマを掲げていることをわかりやすく示している。さすがにロバート・ゼメキス監督が自作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)や『フォレスト・ガンプ』(1994)撮影時のスタッフを再び集めただけのことはあって、映像にもソツがない。地球の音が宇宙に広がるオープニングや、廊下を走るエリーを映す鏡の使用法など、印象に残るシーンも少なくない。

他者の表象

さて気になったのは、アメリカでポッドの爆破事件が起きた後、当然のごとく北海道に同じものが建設されていたのが明らかにされたことである(この日米関係は少々、キナ臭くはないか?)。日本の表象も、テクノ・オリエンタリズムの典型例だ。ロボットのような日本人が奇妙な衣服をまとい、エリーにおじぎをして挨拶する。一方、原作では、日本の技術陣は精神を引き締めるために、世界地図を染め抜いた揃いの鉢巻をしているとある。原作と映画の差は、そのままアメリカにおける日本像のテクノ化を表わすものと解釈すべきか。細かい点にこだわったが、次におそらく最も興味がそそられるエイリアンは、いかに表象されたかをみよう。結果から言えば、本作はそれを巧妙に回避した。つまり、グロテスクなビックリ箱的エイリアンは一切描かれず、エリーは宇宙の果てで亡き父のイマージュに遭遇するのみであった。しかも、劇中では本当に彼女が宇宙に移動したかさえも判然としない。
 こうした描写は2つの古典的名作を想起させるだろう。例えば、未知の領域において自己の精神世界(内なる宇宙)と出会う『惑星ソラリス』(1972)。そして異次元トリップの場面は、瞬間的に『2001年宇宙の旅』(1968)を連想させる。しかし、『コンタクト』の表現は、人間が背負う原罪を突きつける前者ソラリスにも、完全にキレてしまう後者のスターチャイルド状態にも及ばない(2001年までに、これを越えるSFは登場しそうにもない)。結局、映画を良質たらしめるソツのなさによって、『コンタクト』は一線を越えることができなかった。ときには破綻が映画を記憶に残るものにするのだが。むしろ、ジョディ・フォスター演じるエリーは現実世界に戻り、様々な葛藤を生きなければならない。ちなみに原作では、ポッドの始動を1999年12月31日に設定していた。すると「本書が時代遅れになる日が来ることを願ってやまない」というセーガンのあとがきは、当分現実しそうにない。



コンタクト


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『コンタクト』
会場:丸の内ピカデリー2/新宿ジョイシネマ2/シネマ・ロサ/渋谷ジョイシネマ
上映:1997年11月1日〜11月14日(丸の内ピカデリー2/新宿ジョイシネマ2/シネマ・ロサ)
     1997年11月8日〜11月14日(渋谷ジョイシネマ)
問い合わせ:丸の内ピカデリー2 Tel. 03-3201-2881
      新宿ジョイシネマ2 Tel. 03-3209-6180
      シネマ・ロサ Tel. 03-3986-3713
      渋谷ジョイシネマ Tel. 03-3462-2539

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