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「風景」の認識
シンポジウム「再発見される風景
――ランドスケープが都市をひらく」より
松畑 強

TNプローブで10月15日から4日間にわたって「再発見される風景――ランドスケープが都市をひらく」と題された連続シンポジウムが開催された。この原稿を書いている時点(17日)では最終日がまだ残っているが、これまでの経過を簡単に報告したい。

初日は「都市デザインにおけるランドスケープの可能性」と題し、八束はじめとフランスのランドスケープ・アーキテクトのアルフレッド・ペーターの発表を中心として進められた。
 八束はまず概念的な説明から始め、西洋的な「ランドスケープ」が公的な意味を持っていたのに対し、日本の「造園」があくまでも私的なものであったことを指摘し、これを受けて近代日本における和/洋=私/公の対比を描きだしたうえで、さらに近代日本におけるランドスケープ・デザインの不在を指摘した。また「非ず非ず」の論理や「間」や「布石」や「リエゾン」といった概念から、新しい都市戦略としての「ソフトアーバニズム」という方法をも提起して見せた。これは丹下(健三)の「東京計画1960」に示されるような「ハード」な都市計画に対し、熊本アートポリスで展開されるような「リエゾン」による可能的なあり方を探るものだと言えるだろう。
 一方でアルフレッド・ペーターは、彼のストラスブールでの仕事に沿いながら説明して見せた。コンペで獲得したというこの仕事は、戦後のモータリゼーションによって殺伐としてしまった都市に対し、車を制限するとともに歩行者のための場所や路面電車を新しい形で復権させることを基本としている。
 さて、八束とペーターのアプローチはいささか異なるとは言え、しかし90年代がアーバニズムとランドスケープの歴史的転換点であるという認識では、両者は共通していたように思う。また八束が「布石」や「間」といういわば日本的概念を用いたのに対し、ペーターがいささか理想化されたヨーロッパの都市像を描いていたのも、個人的には興味深い点だった。

二日目は「記憶から未来へ:都市の現況認識とその組み換え」と題し、宮城俊作とドイツの ランドスケープ・アーキテクトであるペーター・ラッツの発表を中心として進められた。
 宮城はまず、ランドスケープにおけるコミュニケーションの重要性を指摘するとともに、工業化社会と脱工業化社会のランドスケープ・モデルの変化を跡づけて見せたが、それによれば近代におけるモデルとは自然象徴だったが、脱工業化社会(ポストモダン)におけるモデルは生体象徴だと位置づけられる。さらに近代においては「建設」が風景の方法としてあったのに対し、ポストモダンにあっては「顕現」が風景の方法となると説明された。また今後は風景のモデルの存立基盤も多様化し、工業的なランドスケープもむしろノスタルジーの対象として十分に風景モデルとして機能することも指摘された。宮城はこののち植村直巳記念館を自作や最近の若手作家の作品をも解説していったのだが、ペーター・ラッツの仕事はまさに宮城のいう風景モデルの多様化の一例と言えるだろう。
 ラッツもまたコンペで獲得したという彼の実験的な計画を披露したが、それはルール工業地帯の工場跡や炭坑跡を「リプログラム」し、かつての工業的風景をエコロジカルに変形させていくものだった。これはまた同地を新しい「観光地へと変容させていくものだとも説明された。こうした実験は宮城のいう風景モデルの多様化にも一致するものだが、さらにラッツ自身も「ランドスケープ」という言葉がすでに歴史的・文化的蓄積を持ってしまっているので、新しい言葉を探していく必要があるだろうと述べたのが、個人的には印象的だった。

三日目は「現代アートとランドスケープ:ある根源的経験」と題され、小林康夫と川俣正が発表した。
 小林によれば、今日世界観が「物理学的=人間中心的世界観」から「生態学的=脱人間中心主義的世界観」へと変わりつつあり、それゆえ風景は重要な問題だと説明されたが、この図式は昨日の宮城の発表に触発されたという。
 川俣はオランダのアルクマーでの「ウォーキング・プログレス」を中心として自作の解説を行った。この計画はドラッグやアルコール依存症の人々が参加し、湿地帯の中に遊歩道を建設していく計画であり、参加者はつねに体を動かしていなければならないという。川俣はまた自らの作品を「作品ではないことはない」作品であり、自らは風景の中へと埋没していくことを願っていると説明した。

さて最終日(10月18日)は「ランドスケープとアーバニズム」と題し、AAスクール学長のモイセン・モスタファビとオランダのランドスケープ・アーキテクトのアドリアン・ヒューゼが発表するという。時宜を得た問題提起的な主題なので、充実した発表を期待したいところである。
「再発見される風景――ランドスケープが都市をひらく」
会場:TNプローブ
会期:1997年10月15日(水)〜10月18日(土)
問い合わせ:Tel.03-3505-8800
プログラム:10月15日 都市デザインにおけるランドスケープの可能性
      10月16日 記憶から未来へ: 都市の現況認識とその組み換え
      10月17日 現代アートとランドスケープ: ある根源的経験
      10月18日 ランドスケープとアーバニズム

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