reviews & critiques
reviews & critiques ||| レヴュー&批評
home
home
game
大発明としての「ポケモン」
――もうひとつのネットワークゲーム
桝山 寛

この原稿を書いている97年12月16日夜、テレビ東京の人気アニメ「ポケットモンスター」の放映を見ていた全国の子供たち500人以上が、けいれんなどの症状を起こして病院に運ばれたというニュースが飛び込んできた。確定的なことはまだいえないが、1989年にゲームプレイ中の症状として問題になった「光過敏性てんかん」が、テレビアニメをきっかけに起きてしまったと考えられる。
 問題は、このアニメがテレビゲーム界での記録的なヒット商品「ポケットモンスター」 (任天堂)(以下、ゲームソフトをポケモンと略)からの派生物だということだ。「ポケモン」は96年の2月に「赤」と「緑」の二バージョンが同時発売されて以来、その後に出た「青」バージョンも含めて800万個以上を売り、キャラクターグッズ、98年に公開が予定されている劇場用映画も含めて、関連商品の市場は総計4000億円とも5000億円とも言われている。つまり、ただのテレビ番組が起こした事件ではなく、社会現象にまでなっている大ヒットメディア商品をめぐる、センセーショナルな話題として取り扱われるということなのだ。しかも、かつての子ども向けヒットキャラクターとは違い、「ポケモン」は親や大人世代が理解しにくい仕組みで人気を得ている。今、筆者としていえるのは、直接事件と関係ないはずのゲームソフトそのもの、あるいはテレビゲーム全体への安易なバッシングにだけは発展してほしくないということだ。理屈の上では、演出次第で「サザエさん」でも「ドラエモン」でも似たような症状が起きるはずなのだから。
てんかんQ&A
(長崎大学医学部)
http://epilepsy.med.nagasaki-
u.ac.jp/faq/faq.html



ゲームフリークのページ
http://www.gamefreak.co.jp/
さて、本来、書こうと思っていたのは「ポケモン」が大ヒットした理由についてだ。「ポケモン」は、ごく一般的なRPGの形式をとっているものの、その目的は魔王を倒したりお姫様を助けることではなく、草むらや洞窟に潜む150匹のモンスターを集めること。昆虫採集や切手収集のような「集める楽しみ」をモチーフにしたものだ。そしてそれが可能になったのは、ゲームボーイという携帯用マシンの「モバイル+通信」という機能が最大限活かされた結果だ。出現頻度が異なるモンスターを数多く集めるには、友達との「交換」が必須の行為になる。子供たちは、近所の公園で、塾の片隅で、2台のゲームボーイを通信ケーブルでつなぎ、デジタルデータをやりとりしあうのだ。
 これを、コミュニケーション・モデルの形式として考えてみよう。サーヴァとなるのは、開発元であるゲームフリーク、あるいは生産元の任天堂のコンピュータということになる。ROMに焼かれて、全国にパッケージとして配布されたアプリケーションが「ポケモン」そのもの。ゲームボーイは、すべてがサーヴァから等しい位置にあるクライアントマシンということになる。そして、モンスターのデータは、インターネットでいうところの「UUCP」のような形式で、「非同期」に通信される。そして、これも重要なポイントだが、そのデータはクライアント側で複製することはできない。つまり「ポケモン」とは、インターネットとまったく関係の無いところで数百万人のプレイヤーに楽しまれている「非同期型+モバイル・ネットワークゲーム」なのだ。しかも、課金やデータの安全性といった二次的な仕組みの問題は最初からクリアしている。
任天堂
http://www.nintendo.co.jp/
海外では、インターネット上での「同期型」RPGが話題になっているが、サーヴァ側の負荷や通信インフラ、PCのとっつきにくさ等を考えると、すぐにポケモンのような大ヒット商品にはなることは無いと思われる。「ポケモン」が確立した「非同期型+モバイル」コミュニケーション・モデルの娯楽商品は、これからも形を変えて登場するだろう。「非同期型+モバイル」は、世界にも類が無い大発明といってもよい。けいれんの症状を起こした子供たちには充分に注意していただきたいが、斬新なコミュニケーション・モデルを発明してしまったがためにバッシングされる、というのでは、まさに本末転倒だろう。

top
review目次review feature目次feature interview目次interview photo gallery目次photo gallery





Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1997