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マンガの国 日本−4
時代劇マンガと代表的作家2
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go tchiei
呉 智英

白土三平の登場

時代劇マンガの歴史のなかで特異な存在は白土三平である。白土は、軍国主義時代の戦前の日本で左翼的な画家であった岡本唐貴を父に持ち、戦後、中学を卒業して間もなく紙芝居作家となった。紙芝居とは、一人の演者が、厚紙に描いた絵を一枚ずつ繰り出しながら、脚本を朗読する大道芸の一種である。1930年ごろに現れ、戦後10年間ほどはテレビが普及するまで大流行した。紙芝居作者からマンガに転じた人は何人かいるが、白土もその一人であった。
白土三平はまず貸本にマンガを執筆し始めた(貸本については前回の記事に詳しい)。それは忍者を主人公としたものであった。忍者は戦前から大衆小説によく描かれたが、当時のものは一種の仙術士のように忍者を扱っていた。1960年前後、忍者小説がブームになった。そこに描かれた忍者たちは、特殊な戦闘技術を身につけた軍事集団で、大名たちの勢力争いを左右する力を持つものであった。こうした忍者小説の流行を背景に、白土はきわめて斬新な忍者マンガを描いた。
白土三平の忍者マンガは、テーマも壮大で巻数も何巻も続く大長編だった。中世末期の階級矛盾、組織と個人の葛藤、東洋的死生観などがきわめてドラマチックに描き出されていた。それはテーマとしても表現技術としても当時のマンガを超えるものであった。その頃の白土作品の代表作は『忍者武芸帳――影丸伝(忍者の闘いの記録――影丸の伝記)』である。しかし、これらの作品は、1960年代初めの貸本界の潰滅的衰退の中で一部の人にしか知られないまま終わりかけていた。
1960年代半ば、戦後世代が成人し、大学生になってもマンガを読み続ける人たちが話題になり始めた頃、白土三平の作品は大手出版社から覆刻された。また、大手出版社の雑誌やマンガマニアのための雑誌「ガロ」で、彼は新作を連載するようになった。学生や知識人を中心に白土作品は強く支持された。
欧米人に最もよく知られている時代劇マンガは小島剛夕画・小池一夫脚本の『子連れ狼(子供を連れたLone Wolf)』だろう。小島も貸本マンガ出身である。1960年代後半には、白土三平のプロダクションで『カムイ伝』の制作にたずさわっていた。
時代劇のマンガ家としては、平田弘史も挙げておかなければならない。平田も貸本マンガを描いており、その激しい描写は二度も筆禍事件を起こした。人間の愛憎を荒々しいタッチで描くのが得意で、三島由紀夫も平田を愛読していた。SFマンガの大友克洋も平田の愛読者で、その全集の装幀を引き受けている。

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