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六者六様の「子ども」像──
上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」
田中宏子(東京都美術館学芸員)
2019年12月15日号
対象美術館
数多くの公募団体による展覧会が日々開催され、「公募展のふるさと」とも呼ばれている東京都美術館。同館で現在開催されている上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」では、複数の公募団体を横断するかたちで、団体所属作家たちの表現の現在形を「子ども」という身近なテーマのもとで楽しめる。担当学芸員の田中宏子さんに、本展覧会の見どころだけでなく、現在の展示形式が立ち上がった経緯などについてもお話しいただいた。(artscape編集部)
公募団体展を盛り上げる場として
──展覧会のタイトルにも冠されている「上野アーティストプロジェクト」とは、どういったものなのでしょうか。このプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。
東京都美術館はもともと、公募団体の方々が作品を発表するための場として1926年に設立されたという経緯があるのですが(※設立当時は「東京府美術館」)、その根本的な役割はいまも続いていて、現在も年間200以上の団体が展示をしています。
2012年のリニューアルをきっかけに、公募団体展というものをもっと盛り上げていければという話があり、当初は「公募団体ベストセレクション 美術」をはじめとして、「TOKYO 書」「都美セレクション 新鋭美術家」、そしていまも続いている「都美セレクション グループ展」といった展覧会を開催していました。
「公募団体ベストセレクション 美術」では、主要な27の美術団体にご協力いただくかたちで各団体から作家さんを推薦いただき、展示する作家・作品の選定も各団体にお任せしていました。つまり、展覧会としてのテーマはなく、公募団体展のハイライト的な位置づけの展覧会だったんですね。会期も短く、公募団体展といっても一般の方にとってはイメージが湧きづらいということで、それまでの成果を生かして発展させるかたちで、2017年に上野アートプロジェクトという現在の形式の展覧会になりました。毎年テーマを決めて、美術と書の企画展が交互に行なわれます。
一昨年、「現代の写実 映像を超えて」というテーマのもと開催されたのが(美術展の)第1回目です。担当学芸員が展覧会のテーマを設けたうえで、各団体に「この作家さんに展示していただきたい」とお声がけし、公募団体に馴染みのない方にも、公募団体のことやそこで活躍する作家さんを知っていただくきっかけになるようなキュレーションを目指しました。今回のテーマは「子どもへのまなざし」ということで、その2回目にあたります。
「子ども」を通した多様な表現
──今回の展示のテーマを「子どもへのまなざし」にした理由はなんですか。
これはまったく個人的な理由なんですが、私自身に子どもが二人いるので、身近な存在だったというのが理由のひとつです。また、公募団体展を見ていてもそうですし、長い美術の歴史のなかで、子どもは頻繁に出てくるモチーフでもあります。子どもという表現に重ねられる内容も多様ですし、表現方法も多彩で、そこがつねづね面白いなと思っていました。そして何より、とっつきやすい。ただ、単純に子どもの可愛い絵を並べるだけでは「可愛かったね」で終わってしまうので、いろいろな方々がいろいろなことを考えながら描いてきた作品を、大きく三つの視点に分けて紹介しています。
第1章「愛される存在」では、「子ども」と聞いてイメージしやすい、子どもを描いた作品や、家族愛に目を向けた作品を紹介しています。
かわって第2章「成長と葛藤」では、子どもを広く捉え、成長して葛藤を抱える思春期の時代に焦点を当てています。思春期は大人として社会に参加するために必ず通っていく道でもありますが、ここの作家選定が一番難しくて……(笑)。このパートで展示されているお二人は30代の作家ですが、思春期特有の葛藤に対してリアリティを持って表現している作家さんを見つけるのは大変でした。
第三章「生命のつながり」では、幼かった子どもが成長して社会の一員になっていき、次の命を見守って育んでいく側になっていきます。壮大な世界のなかで受け継がれる命のひとつとして人間が存在することを感じていただけると嬉しいです。
──展示作家の方々の年齢層やご経歴などもバラエティに富んでいますね。
若い世代の作家の方にも焦点を当てたいなという思いがあり、なるべく幅広い年代の方を紹介できるよう、本展では30代が2名、40代、50代、60代、70代が1名ずつの計6名が展示されています。今回の場合はグループ展なので、展示エリアや構成を6名の作家さんとの間で同時並行して調整しなければならないのが大変でしたね(笑)。都美の空間も天井が高い部屋や低い部屋があったりするので、空間としてその作品が映えるのか考えながら、ある程度こちらの頭のなかでエリアや展示点数などをシミュレーションしたうえで作家と交渉することになります。
そもそも、「公募団体」とは?
──東京都美術館は「公募展のふるさと」とも言われているそうですが、それを開催する「公募団体」とは、そもそもどういうものなのでしょうか?
言葉どおり、「作品を公募している団体」のことですね。日本には膨大な数の公募団体があります。先ほどお話ししたように、都美でも年間200以上の団体が展示をしています。企画展の方には年間合計130万人ほどが来場されますが、その一方で、公募団体展全体を合わせても、同じぐらいの規模の人数の方が来場します(※延べ人数)。
古くは文展や帝展といった官展系の公募団体展が存在していたなかで、従来の枠に囚われない新しい表現を追究していこうとした作家たちによって新しい公募団体が次々に生まれてきたという経緯があります。団体ごとに「こういう理念のもとに展覧会をやります」といったステートメントのようなものを掲げているんですが、その理念に共鳴し、作品が出品規定に沿っていれば誰でも出展できますし、必ずしも美術教育を受けていなければいけないというわけでもない。歳を重ねてから出品を始めるという方も多くいらっしゃいます。出品をすることで団体のベテランの作家の方からアドバイスがもらえたり、団体の地方支部の展覧会などもあるので、いろいろなネットワークが生まれるという利点もあります。
──最後に、artscapeの読者へメッセージをお願いします。
「子ども」時代は誰もが経験しているので、「子どもへのまなざし」展は幅広い層の方に見に来ていただければと思います。同時期開催の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」(2019年12月15日まで開催)の半券でも見られますし、作家さんによって表現のアプローチはさまざまなので、ぜひ本展のなかで、自分に響くものを見つけていただけると嬉しいです。
上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」
会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C(東京都台東区上野公園8-36)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日:12月2日(月)、16日(月)、26日(木)~2020年1月3日(金)
観覧料:[当日券]一般500円/65歳以上300円、[団体券]一般400円
ウェブサイト:https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_uenoartistproject.html