2021年04月15日号
次回5月17日更新予定

キュレーターズノート

会津・漆の芸術祭2011、伊藤将和 展

伊藤匡(福島県立美術館)

2011年12月01日号

 漆器の産地として知られる福島県会津で、漆の芸術祭が開かれた。この芸術祭の趣旨は、伝統工芸としての漆と現代美術が出会うことによって、新たな表現の可能性を探り、地場産業である漆器への刺激や地域商店街の振興を図るというものである。昨年に続き二回目となる今回は、90組以上のアーティストが参加し、会津若松市、喜多方市の中心商店街の漆器店、飲食店などに作品が置かれた。現に営業しているお店を一軒ずつ見て廻る仕掛けだ。若松や喜多方には酒造会社や蔵を改装した施設なども多いので、酒蔵では数作家の作品をまとめてみることができる。

 江戸末期創業の酒造会社の蔵座敷に設置した石川美奈子の《漆庭》は、漆を塗った板と棒を配置したインスタレーションである。石庭ならぬ漆庭といった趣で、作品に文字を取り込む石川らしく、今回は会津の民謡を板に書き込んでいる。三瀬夏之介の《島台月見桃源郷》は、壁面全面に蓬莱山を連想させるモノトーンの絵画を並べ、手前の空間には朱漆を施した島台を置くという凝った作品だ。酒蔵の屋根裏部屋という展示空間の効果もあって、異界に紛れ込んだ気分になる。私が連想したのは桃源郷というより竜宮城だが。三瀬は、喜多方の酒蔵では、自身の教える東北芸術工科大学の学生とともに、「東北画は可能か?──方舟計画」というプロジェクトを発表していた。空想の風景や町並みと巨大な船が融合したような絵が、10メートルはあろうかという巨大な画面に描かれている。この着想は、ノアの箱舟かそれとも徐福伝説に由来するのだろうか。
 今年は、漆とは関わりのない作品が増えている。漆は温湿度の変化に敏感なことと、高価で大きな作品に大量に使用するには費用がかかるなど、屋外に大規模な作品を設置するには難点がある。勢い、比較的小さな作品を屋内に設置することが多くなりがちである。つまり、イベントの祝祭的気分が出にくいのである。そのため、漆を使わない作品を入れて、芸術祭全体の活性化を図ったのだろう。例えば、石川雷太の《Autobahn after 3.11》は、地震、津波、原発の爆発などの映像を9台のモニターで流し続ける。おそらく漆とは関係ないが、この芸術祭が震災後約半年という時期に被災地の福島県内で開催されているという現実を思い起こさせてくれる。モニター画面の強い光と鈍い光沢を放つ金属の支持体は、設置されている薄暗い酒蔵の玄関内とはまったく異質だが、そのコントラストがまた芸術祭ならではの面白さである。
 今年のもうひとつの特徴として、作家と漆塗職人の共同作業による制作も目についた。漆芸家は別として、現代作家はたいてい漆塗りに関しては素人だろうから、熟練の職人に漆塗りを任せたほうが、当然仕上がりがよい。職人の立場から見ても、現代のアートと関わることで触発されることもあるだろうから、このコラボレーションはプラス面が大きいと思う。それはこの芸術祭がめざす地場産業の活性化にも寄与するだろう。


石川美奈子《漆庭》


三瀬夏之介《島台月見桃源郷》


石川雷太《Autobahn after 3.11》

 漆の芸術祭の協賛企画として、喜多方市美術館では「伊藤将和 展」が開催された。東京藝大在学中の平面作品から、この個展のために制作した新作までが列んでいる。伊藤はこの世界や諸事象の背後にある、目には見えない構造を探り、円とそれを具象化した器という形を使って表現する。最近ではたいまつの炎などを長時間露光で撮影し、円形の光跡として写すワークショップや写真作品を発表している。新作の《生命の舟》は、薄暗い部屋に水槽を置き、蝋燭の熱で動くポンポン船を浮かべて、その航跡を眺めるという作品だ。ポンポン船の動きがジグザグで、蝋燭が放つ光跡も円形にはなっていないが、水面を見つめていると心が吸い込まれていく不思議な感覚を覚える。
 ところで、今年の芸術祭には「東北へのエール」というサブタイトルがついている。会津も東北なのになぜと思うかもしれない。県の枠組みで括れば確かに被災地なのだが、3.11の大震災での被害はごくわずかで、福島原発事故による放射線量も低い。つまり直接的な被害はなかったのだが、風評被害によって首都圏などからの観光客は激減している。被災地と一括りにしたのでは見えなくなる現実があることをこのサブタイトルから読みとってほしい。


伊藤将和《生命の舟》
以上、すべて筆者撮影

会津・漆の芸術祭2011──東北へのエール

会期:2011年10月1日(土)〜11月23日(水)
会場:会津若松市(七日町通り、野口英世青春通り、大町通り、ほか)、喜多方市(中央通り、小田付通り、ほか)

伊藤将和 展──生命の器

会期:2011年10月22日(土)〜11月23日(水)
会場:喜多方市美術館
喜多方市字押切2-2/Tel. 0241-23-0404

文字の大きさ