2020年10月15日号
次回11月2日更新予定

キュレーターズノート

梅田哲也:大きなことを小さくみせる/秋山ブク「コンポジション 6番:梅香堂の備品による」

中井康之(国立国際美術館)

2011年12月15日号

 2011年12月10日夜半、日本の多くの地域から皆既月蝕が見えた筈である。これはわれわれの生活する惑星が恒星の周囲を公転している方向と、われわれの存在している惑星の衛星が公転している軌道がほぼ一致することによって発生する自然現象である。もちろん、それらの天体の大きさや位置関係が重要な要因となることは言うまでもない。そのような理解を積み重ねていくことが近代的な思考だと思われるのだが、その自然現象を情報化された画像などで眺める人々は、近代化が極度に進化することによって作り上げられた虚像に対して無垢な態度で接するばかりなのである。それはまるで太古の人々が星々を結びつけて物語を綴る態度と変わることのないわれわれの物事に対する素朴な態度を映し出すものであろう。

 このようなことを唐突に書きはじめたのは、神戸アートビレッジセンターで開催していた梅田哲也の個展「大きなことを小さくみせる」のなかで、シアターを会場としていた展示を見ているときに、会場内が暗転して天井部分に設置された照明の反射板に遠く光源が僅かに映り込むことによって生まれる仄かに輝く光を、まるでそれを星の煌めきのようなものとして受けとめた自己の感覚の無防備さに驚いたことに因っている。そしておそらくはこのようなナイーヴな感覚は、私に特有なものではなく多くの人々に共通するものであろう。根源的には美術作品に対するアプローチはこのような原初的な感覚に由来する筈である。人々に内在する、そのような繊細な美的感受性を図らずも誘発する装置として、梅田の作品はそこに存在していたのである。もちろん、そのような感興は梅田が意図した複数の装置、暗い空間に大小の光る球体が浮遊したり、周期的に室内が明るくなったり、映写幕にその光が映り込んだ、といった展示を構成する諸要素が、前述したような天体の運行を示唆するようなものであったことが、梅田の意図しない箇所にまで見る者の意識を波及させ、鑑賞者である私に天空の星々を楽しむが如き感覚を喚起させたものなのである。
 急ぎ追記しておかねばならないが、梅田のその作品に対して否定的な立場をとっているわけではない。それどころか日常的な空間に置かれた日用品に僅かなズレを生じさせるような運動を付加することによって、日常的な光景のなかにポッカリと空いた別次元への入口を示唆するような、いつもの梅田のスタイルとは異なり、劇場空間という大きな装置を用いることによって正面から異空間を想像する取り組みを企てていたのだが、そのような取り組みを行ないながらも梅田の表現に特有な表現の質を確保していることに悦びを感じたのである。


「梅田哲也:大きなことを小さくみせる」展示風景
撮影=西光祐輔、写真提供=神戸アートビレッジセンター

 冒頭に慣れないことを述べたのは、次に紹介する秋山ブクという作家の作品と出会ったことにもその一因があるかもしれない。梅香堂で見た秋山の作品の制作手法は、その展示施設に在ったさまざまな有形物を解体し、秋山独自のコンテキストによって再構成するという極めてシンプルな方法である。そのような表現は、インスタレーションという様式が認知されてから数多の実例を見ることができたような気がするのだが、その場所に在った物だけによる構成という実例はあまりないだろう。もちろん、日用品を組み合わせることで芸術作品とするオブジェという作品手法が厳然として存在していることは誰もが知るところである。それは西洋近代美術が自然科学の進歩と歩調を合わせるかのように展開してきたことに対して異議を唱えたダダイスムのなかから生み出された。さらに、ダダの動向のひとつ、ニューヨーク・ダダの中心人物であるM・デュシャンがオブジェの手法をより先鋭化したレディ・メイドという方法で20世紀の美術界に大きな地殻変動を起こしたこともまた知らぬ者はいない。それは、伝統的な西洋美術の終点であり、そして新たな起点となった。そのような歴史的な背景を持つ表現様式であるから、真正面からはもちろんのこと諷刺化するような方法を取ったとしても、容易には自らの表現手法として用いる者は現われてこなかった。
 おそらくは秋山は、そのような美術界の約束事から自由な立場で、目の前にある事物たちを普遍的な日常といった広いフィールドではなく、ある個人の約束事によるコンテクストから自由にすることで生じる軽やかな違和感と事物たちのささやかな主張を調和させることによって、秘やかな自己表現が成立することに気付いたのだろう。それは西洋美術のコンテクストに対して日本の独自の方法論を考えるといった大原則ではなく、極めてナイーヴな、しかしながら個人の感受性を成立させている確かな事象をそこに成立させていたのである。そのような一個一個のささやかな表現が紡がれることによって大きな潮流を生み出すというようなことはないかもしれない。しかしながら、洋の東西や絵画彫刻といった大きな枠組みが無化した現在の状況のなかで信じることができるものは真摯な態度による感受性のようなものばかりかもしれない。


秋山ブク「コンポジション 6番:梅香堂の備品による」2階
同、1階展示風景

Exhibition as media 2011(メディアとしての展覧会)「梅田哲也:大きなことを小さくみせる」

会期:2011年11月12日(土)〜12月4日(日)
会場:神戸アートビレッジセンター
神戸市兵庫区新開地5-3-14/Tel. 078-512-5500

秋山ブク「コンポジション 6番:梅香堂の備品による」

会期:2011年10月8日(土)〜11月13日(日)
会場:梅香堂
大阪市此花区梅香1-15-18/Tel. 06-6460-7620

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