キュレーターズノート
北海道ガーデンショー
鎌田享(北海道立帯広美術館)
2012年08月15日号
夏から秋にかけて、「北海道ガーデンショー」が帯広近郊で開催されている。ガーデンといってもそれは、“園芸”や“ガーデニング”という言葉から想像されるものとは少し異なる。そこで展開されている“庭=作品”の様態は、ランド・アートやインスタレーションといった現代の美術作品とも極めて近接した相貌を見せている。
帯広から西に約30キロ、札幌からは東に約160キロの地点にある「十勝千年の森」。山麓地帯にひろがるこの施設では、地元新聞社が母体となって、酪農跡地を自然林に再生しようとする試みが永続的に行なわれている。今回のイベントは、広さ400ヘクタールにおよぶこの施設を舞台に繰り広げられた。
「北海道ガーデンショー」の総合ディレクターは、北海道を拠点に国際的に活動する造園家集団・高野ランドスケーププランニングの代表・高野文彰。彼は「十勝千年の森」のマスタープランを手掛けるなど、現在にいたるまでこの施設に深く関わってきた。
会場には、この高野とイギリス人ガーデンデザイナーのダン・ピアソンが手掛けた四つのテーマガーデン、ダン・ピアソンをはじめ白井温紀、中谷耿一郎、竹谷仁志、長澤伸穂の5人のデザイナー、造園家、アーティストによる招待作品、そしてコンペティションによって選ばれた8作品が点在する。
このうち4つのテーマガーデンは、「十勝千年の森」計画の最初期より整備が進められてきた。「メドウ=野の花」「フォレスト=森」「アース=大地」「ファーム=農」をテーマに掲げたそれらは、それぞれ北海道の自然環境や固有の歴史性を背景としており、その広大な面積ともども、施設の中核と位置づけられている。
一方、5つの招待作品と8つのコンペ作品、あわせて13の“庭”は、今回新たに造成されたものである。規模的には先の4ガーデンよりもはるかに小規模ながら、それぞれに想を練ったコンセプトと造形性を示している。
招待作家・白井温紀の《あなたに会いたくて──楡の木陰の庭で》は、酪農跡地というこの場所の歴史性を踏まえながら、北海道ならではの景色を切り出した作品。小川から続く林道を抜けると、眼前には農園や柵囲いされた牧草地が広がり、はるかかなたの山並を借景に望む。府川洋史によるコンペ作品《森の住人と共に》は、森に宿る動植物相をサンプリングし再提示した作品。石垣と盛土で区切られたスペースの内側に入るとそこには、周囲に自生する諸々の草花や低木が茂り、小動物たちの生活痕が刻み込まれている。そこで私たちは、この地の自然のあり様を凝縮したかたちで目にすることになる。鈴木智也+笹本愛弓+松原翔一によるコンペ作品《森の蜃気楼》は、森の一角に直径5センチの透明アクリルパイプ300本を格子状に並べ、風景の異化を図った作品。林立するパイプは、光を透過し、あるいは反射して、幻惑的な視覚効果をもたらすとともに、その隙間をくぐって庭の中に入り込むという身体性を誘導していく。
“庭”という空間で私たちは、陽の移ろいや風のそよぎを感じ、植物や動物の営みを見出し、四季の移ろいを認め、すなわちは“自然”を感得する。しかし“庭”自体は、けっして“自然”そのままの存在ではない。それはどこまでも、人間の手が形作った空間であり、人が囲い込んだ“自然”、人為的な“アルカディア=理想郷”である。であるからこそ、古今東西の“庭”は、それが生成された土地の自然環境や動植物相と不可分な一方で、そこに暮らす人々の歴史や宗教や慣習、すなわちは文化的な価値基準を色濃く反映している。例えば、平安時代の優美な浄土庭園は当時の人々の来世への想いを映したものでもあるし、ヴェルサイユ宮をはじめとする壮麗なフランス式庭園は当時の政治体制を演出する舞台装置でもある。
「北海道ガーデンショー」で提示された13の庭も、北海道という土地柄、そして現代という時代相を映して、それぞれに構想された。そこには、自然と人間、土地と人間、人間と人間の関わりによせる、さまざまな問題意識や視点が織り込まれている。
これからの季節、北海道を訪ねるときにはぜひ足を延ばして、これらの“造形作品”を堪能してもらいたい。