キュレーターズノート
福岡現代美術クロニクル1970-2000、福岡市美術館リニューアル基本計画、大竹伸朗展
山口洋三(福岡市美術館)
2013年02月15日号
この文章がアップされるころには、「福岡現代美術クロニクル1970-2000」の撤収作業に入っている。はやいなあ、こないだ新年を迎えたと思ったら(笑)。ばたばたの展覧会準備だったけど、地元内外関係者には好評と絶賛をいただいている。坂本顕子氏にも好意的に論じていただいてこちらもありがたい★1。「九州派以後」は福岡では標準語化したかも?
福岡現代美術クロニクル1970-2000
図録巻末の出品リストをご覧になるとわかるが、普通に展覧会を見ただけでは「見ることのできない作品」がいくつかある。実験映画とパフォーマンスである。実験映画のプログラム《パーソナルフォーカスアンソロジー(8mmフィルム)》および松本俊夫・森下明彦・伊藤高志の作品(16mmフィルム)は、2月2日と3日に福岡県立美術館で上映された(そして10日には、宮田靖子、森下明彦各氏の解説付きで福岡市美術館でも上映)。高向一成によるガラスを割るパフォーマンスも、2日夕方より開催された。おそらく20年ぶりに披露された高向のパフォーマンスは、強化ガラスを直接金槌でたたき割るもので、大音響ともに破片が飛び散る迫力のあるものだった。伊藤高志の《SPACY》と《BOX》には、ミニマルミュージックを聴いているときの心地よさがあり、何度でも見たくなってしまう魅力がある。本展の白眉は、この後半の2週間に集約されていたといっていい。市美会場で示す「川俣正以後」のインスタレーションや町に出る美術展の流れとは明らかに一線を画す、1980年代の福岡の一断面を示した。しかしいずれの表現手段においても、その道の開拓者は強い。
これにさきだって、福岡市教育委員会所有のバスを用いて「福岡アートバスツアー」も2回にわたって開催された。福岡市美術館教育普及係の企画で、一般のお客さんにはなじみの薄い福岡市内の画廊などを回る企画。そこでわかったこと。「そうか、みんな、入りにくかったんだ(笑)」。数年前に市内の建築物を見て回る建築ツアーを企画したことがあってこれも大好評だったけど、この「ツアー系」の企画は来場者との交流や近隣アートスポットの活性化と関係維持においてはかなり有効な模様。詳しくは本展Facebookページをどうぞ!
しかし、イベント関係は好評で人も集まるものの(1月5日のシンポジウムも満席だった)、「現代美術人口5,000人」の福岡においては、現代美術系の展覧会は常に興行的にはいまひとつ。いままでの経験上、それはわかっていて、見込み人数はおおむね達成できる目算はあるものの、本展に限って言うならば、恐るべき入場者有料率の低さ! つまり関係者と周辺にいる人々が主たる来場者、ということになる。でもローカルな内容の展覧会のわりには、遠方の関係者がけっこういらっしゃってくれて……ありがたいことです。
今年度(平成24年度)は、「日本画の巨匠たち展」に「古代エジプト展」といった集客力の高い展覧会を当館で開催したので、トータルで見ればクロニクルの赤字は吸収されるのだろうが、各展覧会の実行委員会はそれぞれのマスコミと個別に立ち上げるから、会計は展覧会ごとに異なる。このあたりは当館の特殊事情かもしれない。当館の特別企画展の予算は年間3,000万円。おそらくこれは当館と同規模他館に比してかなり少ないと思う。収入の多そうな巡回物を入れつつやりくりやりくり……。前号で住友文彦氏が書かれていたが★2、本当に特色のある活動をする館が少ないとのこと。先述のやり方では、館の個性を出すことは確かに難しい。まず、美術館活動が展覧会活動に偏重しすぎ。そして第2に、来場者ウン十万人の展覧会の合間にこそっとやる自主企画展というやりくり方式においては、前者の観客層に対して「特色」などあってなきがごとし。所蔵作品による常設展示についても集客やアピールで四苦八苦する美術館が多い。日本の本格的な「美術館」が、「箱」だけ用意した東京府美術館によってスタートしたことのトラウマだ。手っ取り早く「美術館」の特色を出したいなら、美術館はたんなる「箱」化するか、さもなくば老舗の私立美術館のように所蔵品だけに特化するしかないのではないか。
福岡現代美術クロニクル1970-2000
福岡市美術館リニューアル基本計画
さてさてそのような陰気な話ばかりしていてもしょうがないので、多少は未来の話を。
いま福岡市美術館のウェブサイトを見ると、右下に「福岡市美術館リニューアル基本計画」というバナーがある。ここから、当館のリニューアルプランを知ることができる★3。築33年を経過した当館は、後発の他館に比べて設備面で相当な見劣りがするため、修繕計画が2006年から動いていたのだが、近年になって「修繕」が「改築」になり、ようやく計画を公表できるまでになった。手狭になった展示室と収蔵庫を拡張し、従来の教養講座室などを多目的室に作り替えるなど、外観はそのままに内部に相当の改良を加える予定。
今夏3カ月程度休館して緊急修理を行なったあと、おそらく2、3年後には本格的に着工することになりそう。改修予算はかなり厳しいため、PFI方式なども検討されているが、これは運営面においてかなり影響を与えることになるため、リニューアル後の運営ビジョンが重要になる。「つなぐ、ひろがる美術館」が未来を切り開くものとなるかどうか? 「特色ある美術館づくり」の第二ラウンドに、当館は入ろうとしている──。昨年4月から、じつは密かに福岡市の美術館・博物館は教育委員会を離れて、経済観光文化局に移管されていて、つまり文化に「経済観光」がひっついた部署にいる。他の自治体ではすでに起こっていることなのでいまさら驚かないけど、さてこれがいいほうに転がるか? ところでリニューアル開館するころ、自分は何歳になってんだろう? 少年老い易く学成り難し。
大竹伸朗展@アートソンジェ・センター(ソウル)
「クロニクル展、始まったらちょっとは時間ができるかな」と思ったのに、美術作品の新規収集を諮る収集審査会にリニューアルの会議のための準備と息つく暇もなかった。ちょっとした時間を見つけてソウルを訪問。アートソンジェ・センターで開かれている「大竹伸朗展」を見た。昨年のドクメンタに出品された新作を見たかったけど、開会直前に発表された出品作家リストに意表を突かれた。それでなくても去年は学芸スタッフの大幅な入れ替わりもあってなんだがすごく忙しかったな……。しかし作品保存・管理と教育普及それぞれのエキスパートを新メンバーに迎えることができて、むしろリニューアルに向けての陣容は盤石、という感じ。
……話がそれた。あまり国内では報道されない大竹伸朗展は、2006年「全景」(東京都現代美術館)を体感し2007年「路上のニュー宇宙」(福岡市美術館、広島市現代美術館)を企画した私にとってはやや小ぶりな展覧会で、ちょっと物足りなさはあった。それでも2フロアを使った会場構成には明確なコンセプトがあり、展示は見やすい。2階は「貼る」ことをベースにつくられた作品を、近年制作されたスクラップブックと新作の平面を中心に展示し、3階では「日本景」とこれに連なる系統の作品。韓国内で集められたネオン管を使ったインスタレーションは、次回はぜひもっと大規模なものを期待したい。というか、大竹伸朗の魅力はある程度展示規模を大きくしないと伝わりにくい感じがする。複数の作品が、あたかも蜘蛛の巣を張ったかのように素材やモチーフなどで相互リンクしているからである。図録はなかなか立派。ソウルの人々にはどう見えたか知りたい。このように日本の作家たちの個展がどんどん海外で開かれることを望む。
さてクロニクル展のことばかり書いてしまったが、この間、北九州市立美術館ではCCA北九州との共同企画展「In Situ/ その場で」(2013年1月19日〜2月17日)、福岡アジア美術館では「渓山清遠──中国現代アート・伝統からの再出発」(2013年1月2日〜2月24日)に「現代アジアの作家VIもっと自由に!──ガンゴー・ヴィレッジと1980年代・ミャンマーの実験美術」(2012年12月13日〜2013年3月20日)が開催されている。この号に間に合わせて書くことができなかったので、(たぶんどれかを)次号で。