2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

キュレーターズノート

「美少女の美術史」/「成田亨 美術/特撮/怪獣」

山口洋三(福岡市美術館)

2015年02月15日号

 この号が出るころには、「成田亨 美術/特撮/怪獣」福岡展は終了して、4月からの青森県立美術館での開催を待つことになる。この展覧会については共同企画者の1人である工藤健志氏とで交互に(ちょっとしつこく)書いてきた。artscape読者は、たんなるサブカルチャー関係の展覧会のひとつだと思われたか。あるいは、この比類なき芸術家への知見を新たにしたか?

 さて成田展については、本文後半で青森へのつなぎとするとして、この号が出るころには終幕となる「美少女の美術史」展のことに触れたい。この展覧会、まず「美少女」というタームがあまり「専門用語」的でなく(美人画、はあっても美少女画、はない?っていうか、なんか急にオタク的なにおいがし始めますね……)、さらに青幻舎から刊行された図録表紙および、石見美術館発行の展覧会チラシメのインビジュアルが、カイカイキキのMr.(ミスター)の作品ということもあって、かなりサブカル寄りな内容を予感させつつも、タイトルに「美術史」をわざわざ謳うあたり、既存の「美術史」に対する(多少なりともの)不満や異議が含まれているようでもある。
 会場第1室では、村上隆が最近手がけたアートプロジェクト「6HP」関連の絵画と映像と、チラシにもなったMr.の巨大な美少女絵画、初音ミク、吾妻ひでおの『ななこSOS』の原画に榎本千花俊の日本画という組み合わせでの展示で、以降の展開にやや不安を覚える(笑)が、ここで「美少女」を見る側の嗜好である「ロリ」が刷り込まれてしまい、その後の小磯良平の《二人の少女》の前で「小磯ってロリ?」(っていうか、この絵を見て「ロリ」と思っているあんたが……)と、普通に小磯作品を見ているときには絶対に思わないことを考えてしまった。あとで図録の解説を読んで知ったが、小磯の実娘がモデルだそう。この(あまりに)親密なまなざしは、展覧会中盤に登場する霜鳥之彦の《少女(休憩)》のほうでより濃密になる。企画者の1人である村上敬氏は図録エッセイのなかで「『日本版バルテュス』ともいうべき不思議な存在感」とその衝撃を語っている。ある意味これは、本展の中核的な作品のひとつといえる。


村上隆、榎本千花俊、菊池華秋の作品が並ぶ展示室(島根県石見美術館)
(c)2012-2013 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.


霜鳥之彦《少女(休憩)》、1926年、京都市美術館蔵

 しかし、意外にも油彩画(洋画)で「美少女」が主題となっているものはこれくらいで、近代美術史で主役のはずの洋画はここでは脇役。代わって主役となっているのは各セクションに点在する日本画のほう。鏑木清方とその門下の画家の作品は、「美人画」として紹介されることが普通ではあったが、あえて「美少女」というフィルターにかけることで、近代日本における美術表現のジャンル分けの恣意性と、近世絵画(おもに浮世絵)との連続性が見て取れる。そしてその「美少女」のテーマは、とくに戦後は漫画、挿絵、デザインの分野で展開し、近年の現代美術へと再接続される。つまり、近世美術と現代のサブカル/現代美術から近代美術史を照射したとき、その光の交差するところに「美少女」が現われた、といったところだろうか。
 そして、その光に照らし出されているのは、既存の美術史の流れのなかではあまり主役にならない画家や作品である。しかし、その「普段は美術史の主役ではない」作品がいわゆる「マイナー」作品ということはなく、むしろ大衆文化においては(それこそ成田亨デザインの怪獣のように)雑誌やTVなどで作者名抜きで親しんできた対象なのである。「洋画家」「日本画家」「漫画家」「イラストレーター」……といった職分、そして表現手法によるジャンル分け(つまり、表現の制度)を当てはめることで、私たちはそれぞれの表現の魅力、作者の才能を見落としているのではないだろうか。
 とはいえ、本展では編年ではなくテーマ展示となっているので、来場者に流れを追わせて「勉強させる(啓蒙する)」ことは目的とされておらず、美術やサブカルの枠を超えて楽しむ視点が明快。ところどころ、たとえば鈴木春信と「艦隊これくしょん」のつながりはかなり強引な感じもしたが(笑)。サブカル寄りで間口を広く取りながら、既存の美術史に対するさりげない異議申し立ても含まれている。これは上記のジャンル、職分の問題へのひとつの回答となっているような気がする。サブカルに親しんできたし、その知識があるがゆえに見える(本音の)美術史ってこういうもんじゃないの?と問いかけられているようでもある。そう、この展覧会の根本にはあくまでも「美術史」がある。オリジナルアニメ「女生徒」も良かった。
 2010年の「ロボットと美術」展に続き、本展を成功させたトリメガ研究所の3人(川西由里氏、工藤健志氏、村上敬氏)の研究領域と個性がうまくミックスされていたといえる。拍手!(トリメガ研究所についてはこちら)。やっぱり共同企画、巡回は心がひとつにならないとね。
 ……ところで余談ですけど、「美少女」が主題になるならば、彼女たちの十数年後の姿である「熟女」もテーマ化できるか? 洋画に描かれる裸体の女性全般はそう呼べるかもしれない。そうすると洋画中心の近代美術史に直接言及可能だが、そこに隣接するサブカルチャーと言えば……(下品になりそうなのでこのへんでやめときます)。

美少女の美術史

会期:2014年7月12日(土)〜9月7日(日)
会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

会期:2014年9月20日(土)〜11月16日(日)
会場:静岡県立美術館
静岡県静岡市駿河区谷田53-2/Tel. 054-263-5755

会期:2014年12月13日(土)〜2015年2月16日(月)
会場:島根県立石見美術館
島根県益田市有明町5-15/Tel. 0856-31-1860

学芸員レポート

 「成田亨 美術/特撮/怪獣」展の福岡展では、富山展同様に成田流里・カイリ氏によるトーク、美術批評家の椹木野衣氏、アーティスト村上隆氏の講演会を開催。ご遺族の視点、美術批評の視点、そしてアーティストの視点から、成田亨という美術家を多角的にとらえ、700点におよぶ展示作品の肉付けを行なった。椹木氏の講演では、彼が美術批評家として駆け出しのころに、成田亨についての初めての論文「モダンアートの結晶としてのウルトラ怪獣」を『怪獣学・入門!』(JICC出版局、1992)に発表する経緯が興味深かった。僕自身も、学生時代に出会ったこの書籍を通して、「美術」と「怪獣」が初めて結びついたと感じたものだった。「アーティストは死んでからが勝負」という村上氏の本音の言葉は、どの美術家も(そしてわれわれ学芸員も)うすうすわかっていながら、あんまり言って欲しくなかった(言わないことにしていた)真実のひとつであろう。漫画やアニメと親和性のある作品を制作している村上隆氏だから、サブカル的な話を予想していた(それゆえにはじめから敬遠した)人もいたかもしれないが、中身は極めて真摯な芸術家論であり、その例示として成田亨はうってつけだったわけである。椹木、村上両氏の講演会には菊畑茂久馬氏もいらっしゃり、展覧会も熱心にご覧になった。意外な組み合わせと思われるかもしれないが、「絵描きとはなにか」を深く考えた者同士ならば、作品はどうであれきっと通じるところがあると思う。
 福岡展会期中に、長らく絶版だった成田の代表的著作『特撮美術』が、新装版『成田亨の特撮美術』として復刻され、作品集と同じく羽鳥書店から出版された。美術家として怪獣デザイナー、そして特撮美術監督を務めた成田の才能を総合的に評価する土台は、これで整ったように思える。
 じつは予想を下回る動員で終了しそうであるが(約1万人程度)、ツイッターやアンケートなどの展覧会への感想やリアクションを見てみると、いわゆる特撮オタクの重箱の隅つつき的なものはほとんどなく、むしろ、成田亨の希有な画才を存分に詰め込んだ展示に素直に感動し、それを楽しんでいた観覧者の様子が伝わってきた。会場の様子を時々うかがったが、とにかくみんな熱心に、食い入るように見ていたことが印象的だった。メイン観客層は1960年代の初期のウルトラシリーズをリアルタイムで見ていた40〜50代男性。普段は美術館に足が向かない層ですね。平日と週末の来場者数の差が結構あり、平日はほぼ確実に仕事している方が、週末にどっと押しかけるという図式がうかがえた(大量動員は主婦層が動かないと無理)。
 動員はいまひとつだったとはいえ、新聞、テレビの取材は好調だった。しかし個人的には、都築響一氏の週刊メルマガ「ROADSIDERS' Weekly」(149号)と月刊おもちゃ雑誌『ハイパーホビー』の取材を受けたことがもっともうれしく思った。また本稿校正中に、小説家の原田マハ氏が『朝日新聞』(2月15日)の書評欄にて『成田亨作品集』を取り上げてくれた。彼女もまた、本展と作品集に注目してくださっていた。また、CURATORS TVの取材も受け、こちらのサイトでは僕がギャラリートークしている(青森展観覧の予習にどうぞ!)。
 さて本展は4月11日〜5月31日に成田亨の聖地、青森県立美術館に巡回する。当初発表と会期が少し変更になっているのでご注意。見逃した方は「北へ還れ」(あ、カナン星人とウィンダムはデザイン原画がないんだった)。


最終日の会場風景。中央やや右に見える立像《ネクスト》は、福岡在住の造形作家にして「不思議博物館」館長・角孝政によるもの。成田が造形していたら?という想定のもとに当館より制作委託。青森会場でも展示予定

成田亨 美術/特撮/怪獣

会期:2015年1月6日(火)〜2月11日(水・祝)
会場:福岡市美術館
福岡県福岡市中央区大濠公園1-6/Tel. 092-714-6051

会期:2015年4月11日(土)〜5月31日(日)
会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

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