2022年12月01日号
次回12月15日更新予定

キュレーターズノート

「吉岡徳仁──トルネード」、田中千智「はてしない物語」、「肉筆浮世絵の世界」、「彫刻/人形」

山口洋三(福岡市美術館)

2015年08月15日号

 当館のリニューアルのことは前回の私の文章で触れた。今後も話題にしていきたいと思うが、すでにリニューアルを終えた美術館がすぐそばにあった。佐賀県立美術館である。昨年11月から改装のため休館し、本年7月、「吉岡徳仁──トルネード」展でリニューアルオープンした。

 吉岡徳仁は佐賀の出身であることは知っていたので、九州ゆかりのデザイナーだから何らかのかたちで福岡でも……と空想したこともあったのだが、佐賀県立美術館での個展開催と聞いて正直なところ驚いた。彼は佐賀県美のリニューアル監修も手がけているとのことで、その意味では、美術館の内部空間と作品の展示がしっくりとなじむ。自館がまもなくリニューアルに入るということもあって、眼差しがどうしてもリニューアル箇所に(こらこら)。斬新というわけではないのだが、そこここに吉岡氏のデザインの椅子が設置され、ガラスの使い方も実にさりげない。正直、設計思想に問題のある新築の美術館よりも、もともとの空間を生かしたこうしたリニューアルされた空間のほうがいまの自分には刺激的である。
 さて展覧会のほうだが、ストロー200万本を用いた《トルネード》は、すでに発表された作品ではあるが、これまで同館での現代美術の企画展がほぼ皆無であったことを考えると、これは快挙の一言に尽きる。さらに観覧無料ということも手伝って、多くの来場者を迎えていた。新設された常設展示室「OKADA-ROOM」(別にアルファベット表記でなくてもよさそうだけど)は佐賀県出身の洋画家、岡田三郎助の作品を中心に見せていくスペースである。小さな展示室であるが、グレーの壁面に作品が落ち着いて見える。欲を言えば常設展示室はもっと大きくてしかるべきだろうと思うが、しかしそれでも、今後は九州の美術発信拠点の一画を担う予感がする。福岡市美術館リニューアルになんとなくプレッシャー。


左=佐賀県美外観
右=同、内観


「吉岡徳仁──トルネード」展示風景

吉岡徳仁──トルネード

会期:2015年7月2日(木)〜8月2日(日)
会場:佐賀県立美術館
佐賀県佐賀市城内1-15-23/Tel. 0952-24-3947

 (公財)福岡市文化芸術振興財団は、FFACステップアップ助成プログラムという事業を行なっていて、芸術各分野でプロを目指して活動する個人や団体に活動費を助成している。最大50万円の助成金が出るので、たとえば作家個人が自ら開催する個展、数名のグループが企画するプロジェクトには実にありがたい存在(だと思うんだけど)。私がこの3年くらい、美術分野での審査員を依嘱され、申請書類に目を通している。残念ながら、応募が少ない。福岡の文化の担い手には、「打って出る」意欲がないのか。あるいは金に困ってないのか(そんなわけねー)。
 昨年度は、この助成金を使って小西郁が大規模なインスタレーションを展開した。今年は、田中千智が、新作絵画による個展を福岡アジア美術館の展示室を使って開催した。昨年の福岡トリエンナーレでは、WATAGATAの一員として絵画を出品。海外のアートフェアにも出品し、単行本の表紙等にも起用されるなど、いま福岡でもっとも活動的な美術家といっていい。
 彼女の作品を見る機会はこれまで何度かあり、実はそれほど感心したことはなかったが、今回はすべて新作で、美術館を会場として使うとのことで、かなり期待が持てた。実際彼女はその期待に応えてくれたように思う。
 まずひとつに出品数。筆者は結構「数」の信奉者で、数がこなせない画家や彫刻家ってありえないと思っている。作品の数は質につながる。たくさんつくるからといって上質の作品ができるとは限らない。しかし上質の作品は制作の数に支えられている。展示室を作品が埋め尽くす。この密度が大事で、もしこれがなかったら今回の展覧会は失敗だっただろう。
 次に主題。彼女の絵画は、黒い背景に白を基調とした人物が浮かびあがり、何らかの物語が示唆されるというパターンが多い。真っ暗な場所で被写体をストロボ撮影したときのような効果、とでもいえばいいだろうか。それは今回も大きく変わることはないが、いくつかの作品では新しい展開をほのめかしているように思えた。ただ、彼女の描く人物像は影が薄く、幽霊のよう。もうちょっとしっかり(うまく?)描いたほうがいいんでは、と思う反面、そうすると作品の雰囲気がかわってしまうかもしれない。前述の数の問題と矛盾するようだが、ひとつの作品に時間をかけて重層的な画面構築を試みてはどうだろうか。まああくまで提案だけど。
 いろいろ考えるところがあったが、こうした考えも、ある程度の質を持った展示のなかでしか浮かんでこない。舞台は重要である。田中千智の今後に期待したい。


田中千智個展(部分)


田中千智(全景)

田中千智 個展「はてしない物語」

会期:2015年7月2日(木)〜7月7日(火)
会場:福岡アジア美術館
福岡県福岡市博多区下川端町3-1/Tel. 092-263-1100

学芸員レポート

 この号が出ることにはすでに、当館での企画展「肉筆浮世絵の世界」展が開幕しているだろう。浮世絵と言えば版画作品のほうが有名だが、本展は肉筆のみ。さらに(肉筆ではないが)18歳未満は入室禁止の春画展示室を設け、公立館として初めて春画に向き合う。東京では9月から開幕する永青文庫の春画展の情報がリリースされ話題となっているが、実は福岡のほうが1カ月ほど早くお目見えする。春画展示の実現のため、当館の中山喜一朗副館長が、事前に市長含む市役所の関係部局、県警等をまわり、事前了解を取り付けるべく奔走した。性表現や政治・社会的な表現がなにかと標的にされる昨今であるが、結局のところそうした展示を実現するためには、企画サイドの情熱と、その情熱を通すために館内・外との関係構築が大前提となるのではないか。原稿を書いている時点ではまだ展示は見ていないので、展覧会の様子は、盛りだくさんの関連事業と含めて次号でレポートしたい。


菱川宗理《見立六歌仙図》板橋区立美術館蔵

 当館の展示でもうひとつ。8月23日まで当館常設展示室にて「彫刻/人形」展を開催中。これは「彫刻」と「そうでないもの(人形)」の境界を問う展示であるが、メインの展示作品は、かつての嬉野観光秘宝館の入口に鎮座していた《嬉野弁財天》。昨年12月には、当館古美術の常設展示室にて「福の神 大集合!」という展覧会に着衣で出品したことがあったが、今回はオリジナルな格好。これに当館所蔵品の裸婦像、そして山崎朝雲の石膏原型像などを組み合わせていく。さらに「地元で人物の立体表現を手がけている作家はどんな人がいたっけ?」とまわりを見回すと、角孝政、近藤祐史、松浦孝、手嶋大輔といった現代作家に加え、博多人形師の永野繁大、大工の土山康徳など本展の趣旨に適う作家が結構いることが判明。そんなわけで、庁用車を乗り回して自力集荷したり、持ってきていただいたり(感謝)、25点の出品作のうち半数は借用作品となった。さらに青森県美の工藤健志学芸員にもご協力いただいて、青森限定販売となった成田亨《ヒューマン》(ブロンズ)の完成見本を展示に加えることができた。もうほとんど企画展。ご協力いただいた皆さんには本当に感謝したい。
 さて《嬉野弁財天》、全裸の展示はさすがにあぶないかなあと思ったりもしたが、児島善三郎や高野佳昌のブロンズ彫刻がそもそも「裸婦」だし、館外にも佐藤忠良やエミリオ・グレコの裸婦像が設置されているし、で「裸像」であるからといってそれが展示を忌避する理由にはならないし、実際いまのところ無事に展示できている。そして現代作家の作品、朝雲の石膏原型と並べることで各作品の間にゆるやかな響き合い(というか、なんとなく似ている感じ)が生じ、蝋人形の裸像も違和感なく?収まった。
 この二つの展覧会は、都築響一氏が自身のメールマガジン「ROADSIDES’ Weekly」170号で取材され、記事にしてくださっている。「攻めてますねえ」とは都築さん。いや、どうもありがとうございます。
 8月23日までに当館を訪問すると、その両方を見ることができる。いずれも巡回はしないので、(エッチな作品が好きな人はとくに)夏の思い出?にぜひご来館いただきたい。杉本彩さんも呼んでます(浮世絵展のスペシャルサポーターなんです)。


「彫刻/人形」展示風景(全景)

 あと、実はいま私、人形展とかホントはやってる場合じゃなくて(えっ)。2015年10月28日〜2016年1月17日の日程で、「九州派展」を開催します。あわせて、長年の懸案であった『九州派資料集(仮称)』も出版予定。その準備に追われてお盆もない状況。こちらも次号で。しかし今回も記事内容がばらばら(笑)。


グループQ・詩科、アンフォルメル野外展、街頭パレード、1957年

肉筆浮世絵の世界

会期:2015年8月8日(土)〜9月20日(日)

「彫刻/人形」展

会期:2015年6月16日(火)〜8月23日(日)

九州派展

会期:2015年10月28日(水)〜2016年1月17日(日)

以上すべて
会場:福岡市美術館
福岡市中央区大濠公園1-6/Tel. 092-714-6051

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