キュレーターズノート
つながりで学び、育てる施設──KIITOの他施設・団体間連携の事例から
近藤健史(デザイン・クリエイティブセンター神戸[KIITO])/佐藤真理
2018年04月15日号
本稿では、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)が行なう神戸を中心とした近隣文化芸術施設や団体との連携に焦点を当てて紹介することで、これからの公共施設や団体がその地域のなかで果たす役割について省察してみたい。
Marching KOBE 定例ミーティング開催風景(2017年7月)地方自治体などの施設設置者や担当部局が連携することから展開する公共の美術館や博物館の連携プロジェクトは、昨今多く見られるところである。収蔵品の活用や教育普及活動においては有効であり、また連絡協議会やミュージアムネットワークの構築など、連携の機能が組織化されることも多い。
そのような機関間での連携に対して、KIITOが行なう連携は、各施設や団体の共通目的や機能の共有を目的として行なわれることが多い。地域団体や企業、及び神戸市の部局、こどもの創造教育、高齢化社会、防災教育と災害対応活動、障害者福祉などといった課題とその解決を目指す結節点となる連携である。その活動の一部については別稿で紹介した。では、市の機関間の連携については閑却されているかと考えると、独自のかたちで展開されているのである。
Marching KOBE──市内の文化芸術施設や団体との連携
Marching KOBE は、神戸市内にあるアートやデザインを扱う施設や団体として活動する神戸アートビレッジセンター(KAVC)、C.A.P.(芸術と計画会議)、神戸ファッション美術館、KIITOが各館の活動を共同して盛り上げるとともに、施設間のクリエイティブなネットワーク作りを目指して始めた取り組みである。当時のKAVC美術事業担当者が、これまで神戸市内の施設間連携やネットワーク形成がそれほどなされていない当時の状況に対し、現場から有機的なネットワークを作っていこうと働きかけて、始動されたものだ。2015年3月にKAVC、C.A.P.、KIITOの3館が偶然にもオープンスタジオ企画の開催を予定していたことが契機となっている。2016年にはKIITOとの事業連携を機に、神戸ファッション美術館も加わった。以来、定期的に開催するミーティングで情報共有や意見交換を行ないながら、情報発信、スタンプラリーの実施、共通チラシラックの設置、MAPの発行、共催事業の実施などさまざまなレベルでの活動で連携している。
2015年9月には、Marching KOBEの立ち上がりが引き金となって、担当部局の一部から声が上がり、市の各担当部局職員および現場のスタッフを集めた意見交換の場も設けられた。その場でも、連携推進をという声の一方で、やはり連携と言っても何をやるのか、「連携ありき」で進めると形骸化し、効果が期待できない業務が増えるばかりで、新たに4館でやる意義が見出しにくい、といった意見もあがり、本質的な「連携」の難しさを指摘する声もあがった。
この4館は、神戸市の指定管理者制度で運営されている芸術文化関連施設として、ひとまとまりに捉えられることが多いが、4館とも所管の部局、開設時期、規模、設置目的はもちろん異なるし
、予算規模から事業企画策定、実施の流れ、他施設連携プログラムの位置付けも異なる。ある連携企画に対して、均等に予算を捻出し、マンパワーを拠出し、同じくらいのタイミングで動くというのは非常に難しい。だがそういった環境下で、何ができるか、どうやったら実現できるか、他館はどういう状況にあり、どう考えるか、について現場のスタッフ同士が定期的に顔を合わせて意見交換する場からは、すごく得るものが大きい。自館の事業企画運営の充実につながる参考事例の情報提供、考え方のヒントなどの多くをこの場から得ている実感がある。2016年度には、KIITOのアート関連事業と神戸ファッション美術館との連携として、衣服造形家の眞田岳彦との共同企画がすすんだ。神戸ファッション美術館で、神戸とその周辺地域で育まれた衣服文化にまつわる企画がすでに動いていたことと、KIITOの拠点である旧・神戸生糸検査所の歴史について扱う企画があたためられていたことから協働が始まったのである。神戸ファッション美術館では地域連携企画 記録展示2016「神戸 絹の道〜『養蚕秘録』を訪ねて」(4階ギャラリー、2017年1〜3月)が、KIITOでは、生糸検査所を手がかりに、モノや人が往来する「港」のあるまちとしての神戸の歴史や役割について考える連続講座「神戸スタディーズ#5『神戸港からの眺め』」 を開催した。全3回の講座のうち1回は、「神戸 絹の道」展の初日に、同展のギャラリー・ツアー、眞田岳彦のレクチャーおよびKIITOセンター長の芹沢高志とのトークセッションをオープニングイベントとして共同開催した。
アート関連事業以外でも、2016年1月には、KIITOの事業「神戸珈琲学」の集大成的な企画「KOBE COFFEE FEST」を、KAVCを会場に開催するという試みを行なった。KIITOの事業内容を柱にしつつも、映画の上映や、KAVC地域事業のネットワークからテーマに関連性の高いゲストを招きトークを開催するなど、KAVCのリソースも大いに活用してもらった。
この2つの企画はKIITOのもともとある事業をMarching KOBEで生まれたネットワークから他館の持っているコンテンツやリソースと繋げて、より充実した内容にする、という本質的な事業連携ができた好例だと考えている。
今後は、このネットワークを少しずつ外に開いていく方法も考えている。4館の現担当者だけでなく、各館の別事業スタッフ(C.A.P.の場合はメンバーやスタジオアーティスト)、市の担当部局職員を巻き込んで、この取組みの有益性を共有していきたいと考えている。限られた人に紐付いた、一時期の灯火で終わらせず、より多くの線をつなぎ、さまざまな連携の可能性を探っていきたい。
enoco、「Robert Frank: Books and Films, 1947–2017 in Kobe」──共通課題に向けた連携と場所を活かした企画連携
上記以外に、共通の課題解決解消に向けて連携した企画の実施や、さまざまな組織や団体との連携によりKIITOが擁する特徴ある空間を最大限に活かすことができた展覧会がある。
大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)とは、文化芸術が地域や社会にもたらす価値を明確に説明するために、評価や検証の手法を獲得したいという共通の課題に対しての取り組みとして連携した。
ブリティッシュ・カウンシルの協力を得て、2016年に実施したのが enoco × KIITO × BRITISH COUNCIL スペシャルセッション「課題解決に向けたアートとデザインの役割と可能性」である。専門的知見をもつ英国のコンサルティング会社から講師を招聘し、本稿でも紹介したKAVC、神戸市職員を含め、文化芸術機関や団体、NPO、アートプロジェクトの企画運営担当者、行政関係者などが幅広く参加した。
1日目のフォーラムでは、プロジェクトを取り巻く多様な課題と評価モデルを導入する意義、そして評価モデルの基本となるアウトカムなどの概念について、さまざまな事例を交えながら紹介いただいた。さらに、2日目、3日目にはワークショップを開催し、実践的なグループワークを通して評価モデルへの理解を深め、評価指標に基づいたプロジェクトデザインへの到達を目指した。2017年にはフォローアップも行ない、2施設の共通課題から始まった連携は参加団体や組織、機関間のネットワークへと広がりをみせている。
次の事例として「Robert Frank: Books and Films, 1947–2017 in Kobe」を紹介したい。世界の著名アーティストや作家が絶大な信頼を置く、美術書専門の出版社Steidl社の創業者ゲルハルト・シュタイデルが、ストリートフォトの創始者との言われる世界的写真家、ロバート・フランクとともに企画した世界50都市を巡る展覧会は、神戸を中心とした多くの団体や企業の協力や連携のもとに実現した
。普段わたしたちが展示設営で格闘している大空間に、懸垂幕状に軽やかに吊るされた新聞紙とそこに高精度で印刷されたロバート・フランクの写真、そしてコンタクトシートや映像で構成された会場には、写真作品の力だけではなく、専門的な展示空間やホールとしては設計されていない展示空間としてのマイナス部分をプラスに変える、シュタイデルによる空間構成の力強さがあった。
展示の監修を終えたシュタイデルが去り際に残した「KIITOでの展示とこの空間は一流だから、誇りを持ちなさい」という言葉は、団体や組織が目的を見据えて連携することで実現した展示と空間、その協働や連携に対して与えられた称賛であろう。
多様なつながりを活かして「公共を担う存在」へ
今後の展望としてKIITOからMarching KOBEに提案しているのは、館の課題を他館の力を借りて解決するプログラムだ。KIITOはアート関連事業の認知度が他の事業に比べて低く予算規模も小さいので、単館で企画を開催しても、興味のある層には情報が届かず、逆に情報が届く層には広報内容が響かない、という状況が少なからずある。4館協働で、これまでミーティングを続けていくなかであぶり出されてきた問題意識を共有し、各館独自の視点や長所をうまく抽出できる公開勉強会のようなものができないかと考えている。
共通の課題解決への糸口、あらたな施設内の空間活用の方策、事業の創出、新しい知見や視点を得られるのも、機関の連携から生まれる大きな成果であり、神戸で起こる文化芸術に力と可能性を与えるものになるはずだ。 本稿で紹介した「公共の施設や団体」は、活動を通して「公共を担う存在」へと生まれ変わる過渡期にあるだろう。そこにおいて重要なキーワードとなるのが地域や市民との連携であり、施設や団体との協働である。
KIITO設立の契機ともなったユネスコ創造都市ネットワークは、文化の多様性を保持するとともに、世界各地の文化産業が潜在的に有している可能性を、都市間の連携により最大限に発揮させるための枠組みである。ユネスコ創造都市ネットワーク都市や海外を含む施設間の交流や連携については、別稿において紹介したい。
地域連携企画 記録展示2016「神戸 絹の道〜『養蚕秘録』を訪ねて」
会期:2017年1月21日(土)〜3月26日(日)
会場:神戸ファッション美術館
兵庫県神戸市東灘区向洋町中2-9-1/Tel. 078-858-0050
神戸スタディーズ#5『神戸港からの眺め』
第1回「油彩画が物語る神戸港の歴史」2017年1月12日(木)
第2回「神戸 絹の道」2017年1月21日(土)
第3回「神戸横浜 絹『もの』がたり」2017年1月26日(木)
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4/Tel. 078-325-2201
KOBE COFFEE FEST
会期:2017年1月7日(土)
会場:神戸アートビレッジセンター(KAVC)
兵庫県神戸市兵庫区新開地5-3-14/Tel. 078-512-5500
enoco × KIITO×BRITISH COUNCIL スペシャルセッション「課題解決に向けたアートとデザインの役割と可能性」
・enoco × KIITO × BRITISH COUNCIL クリエイティブフォーラム「アートとデザインプロジェクトの未来形」
会期:2016年1月22日(金)
会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]
大阪市西区江之子島2-1-34/Tel. 06-6441-8050
・enoco × KIITO × BRITISH COUNCIL 連続ワークショップ「社会変革を起こすプロジェクトデザイン」
会期:2016年1月23日(土)、24日(日)
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4/Tel. 078-325-2201
Robert Frank: Books and Films, 1947–2017 in Kobe
会期:2017年9月2日(土)〜23日(土)
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4/Tel. 078-325-2201
https://robertfrank2017kobe.tumblr.com/
神戸市×リバプール市交流フォーラム「クリエイティブスペースが都市に与えるインパクト」
会期:2018年4月28日(土)14:00〜15:30
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4/Tel. 078-325-2201
講師:マイク・スタッブス Foundation for Art and Creative Technology(FACT)ディレクター、永田宏和 デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)副センター長、甲賀雅章 大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)館長
参加:無料(逐次通訳あり)
定員:70名程度(事前申し込み優先、当日参加可能)
主催:078実行委員会、デザイン・クリエイティブセンター神戸
協力:ブリティッシュ・カウンシル