キュレーターズノート
金沢アートプラットホーム2008/KOSUGE1-16「どんどこ!巨大紙相撲」
鷲田めるろ(金沢21世紀美術館)
2009年02月01日号
昨年12月に終了した展覧会「金沢アートプラットホーム2008」において、私は、美術が地域社会の抱える問題に対してどのように寄与できるかという課題に取り組もうとした。その際、社会を構成する集団間の分断化を今日の社会の問題と捉え、各集団の間に美術によるバイパスを開くという方法を試みた。その際、「高齢化社会」への対応を考えることは必須で、8月のレポートで報告した丸山純子のプロジェクトは、この角度からのアプローチであった。また、11月に取り上げた友政麻理子の作品は、社会を構成する重要な集団のひとつである「家族」において、内的な紐帯の弛緩する状況に対し、「家族」の繋ぎ方と開き方を問うたものであった。
そして、もうひとつの重要な集団として「学校」がある。学校という集団を地域社会と関連づけたとき、「教育コミュニティ」という設定が可能である。「教育コミュニティ」とは、社会学者・志水宏吉の定義によれば、「地域に生まれ育つ子供たちの『教育』を機縁としてつくり上げられる新たな人間関係のネットワーク」である。志水は、この「教育コミュニティ」を重視し、公立学校の可能性を擁護する(『公立学校の底力』、ちくま新書、2008)。基本的にこの考え方に沿って、学校を、学力の向上を目指す教育機関に矮小化せず、地域社会の結節点として再設定できるかを問うことが、今回のプロジェクトにおける私の目標であった。すなわち、「学校」という集団を「教育コミュニティ」という集団に広げることと言い換えても良い。また、公民館も校区毎に設置されており、校区を単位とする「教育コミュニティ」の拠点となっている。公民館との関わり方も、同じ課題の別の側面として重要性を持っていた。
この課題に対して協働したのがKOSUGE1-16(以下KOSUGE)である。福島でのケンビ煎餅のプロジェクトが12月のこのコーナーで紹介されていたが、金沢では、「どんどこ!巨大紙相撲」という企画を行なった。各校区の公民館や学校に「巡業」して、段ボールを使って身長180センチの力士をつくり、最後に体育館に集まって優勝力士を決める「千秋楽」(大会)を行なうという企画である。「巡業」では、各巡業地をひとつの「相撲部屋」と見立て、各力士には地域にちなんだ「しこ名」をつけた。また、出来上がった力士を持って地域の商店街をパレードした。八百屋さんに「千秋楽」でのちゃんこ鍋の材料を提供してもらったり、食事処には、「懸賞」のランチ券などを提供してもらったりした。つくった力士を商店街の店舗に置いてもらったりもした。学校を会場とした時には、地域について学ぶ総合学習の時間と段ボールの工作を行なう図工の時間を組み合わせて実施された。学校や教育委員会も企画の意図を理解し、協力的であったが、学校の理念との相違が顕在化する場面もあった。また、単純に自分の力が至らなかったところもあった。その場面を3点に分けて振り返ってみたい。
●まるびぃon the radio/KOSUGE1-16 巨大紙相撲金沢場所千秋楽:http://www.marubiontheradio.com/2008/11/kosuge116_1.html