キュレーターズノート

広島アートプロジェクト2009「いざ、船内探険! 吉宝丸」展

角奈緒子(広島市現代美術館)

2009年09月15日号

 秋の足音が聞こえ始めた広島で、吉島地区を舞台としたアートプロジェクトが始まった。この「広島アートプロジェクト」は、広島市立大学で教鞭を執る柳幸典の指揮のもと、学生たちが主体となり現代アートの展覧会、レクチャーやイベントを企画、運営し、今年で3年目を迎える。テーマや趣向は毎年異なり、今回のコンセプトは宝船やお宝といった縁起物のようだ。

 七福神たちを乗せた「宝船」ならぬ、お宝とおぼしきさまざまなものを乗せ、「宝」と記された帆をひろげ、朝日を背にして進む「吉宝丸(きっぽうまる)」があしらわれたチラシは、その賑々しさから大漁旗を想起させる。しかしその「吉宝丸」は実存する船ではなく、複数の会場が点在する吉島地区を一隻の大きな宝船に見立てることによって出現する船のことで、本プロジェクトはその「船内」で宝探しをするように作品を見つけだし、鑑賞を楽しむという趣向である。
 地区内約10カ所にのぼる作品展示会場は、集会所や福祉センター、公園といった公的施設や、神社、スーパーマーケットの一角、駐車場など日常の風景として日々の生活に欠かせない場から、材木業のかつての社屋といった普段は使用されず人が立ち寄ることのないスペースまで、さまざまな場所が有効に活用されている。地域密着型のプロジェクトは、お財布を逼迫しかねない場所代をうまく切りつめつつ町内の活性化にも貢献し、さらには「アート」と「日常」の両立の可能性を探る機会を提供する、そんな効力を持つのだろう。このたびの参加アーティストたちの多くは、日用品、廃材、ゴミといった身の回りにある素材を利用して制作し、日常の延長線上でアートを紹介している。
 宝探しを始めるにあたり、まず福祉センターでマップを入手することをオススメするが、そのマップがじつに上級者向けで、広島に暮らす筆者でさえ地図を読むのに苦労した。宝(=作品)の在処だけでなく、そこへたどり着くための手がかりとなる店舗や交差点名など、目印も記しておいて欲しいと感じた人は少なからずいるのではないだろうか。マップなり解説なり、用意するならわかりやすいものでなければつくる意味もなくなってしまう。当事者にはわかるという類のハンドアウトでは、なにもわからず訪れる来場者を想定していないと受け取られてしまい、結果的に余計な不満を呼びかねない。このことはなにもプロジェクト型の展覧会だけでなく、美術館活動にも当然言えることだが、さまざまな情報発信の際は少しでも多くの情報をわかりやすく伝える工夫が求められる。もう一点非常に気になったのは、会場の近くにいるにもかかわらず見つからずにうろうろせざるをえなかったこと。各会場近辺に道しるべなどを設置し会場まで誘導するなど、まだ工夫の余地があるように思われた。


広島アートプロジェクト、チラシ

 街中に会場がいくつもあるプロジェクトでは、複数の会場をうまく使って同じ作品を展示したり、続きもののストーリーのような作品を見せると、目にする回数が多いこともあり印象に残りやすい。今回、主人公が究極の奥義を求めて修行を続けるというマンガ作品を出品している小笠原周の作品を観て特にそう感じた。どの会場でも濃いキャラクターが目に飛び込んでくるだけでなく、マンガのなかでとても重要な意味を持つある物体が、マンガからとび出し彫刻作品として展示もされているため、マンガと彫刻とがリンクした瞬間、なるほどと思わずうなってしまう。
 メイン会場であるキリン木材には、もっとも多くのアーティストが作品を展示している。そのなかでも、プラスチック製フィギュアやシール、コーヒーのしみなど身の回りのものを用いる金氏徹平の作品は完成度の高さにおいて秀でており、まさに宝石のようなきらめきを放っているように見えた。しかしなにより迫力を感じたのは河野真悠子の作品である。バンドエイドを重ねて貼り合わせた人魚の下半身、スティックのりから精巧に削り出された人間の指、既存のプラスチック製の置物の表面を透けるほどまで削りゴーストを誕生させるなど、おどろおどろしい感じはするもののどこか愛らしく、たいへん興味深かった。一昨年、当館(広島市現代美術館)の主催する「どこでも企画公募展」で昆虫標本を使った作品を展示した祐源紘史は、今回はフライドチキンを食べた後に残る鳥の骨を素材とし、人体の骨格模型をつくり出す。息を吹きかけると音を立てて崩れそうな鳥の骨サイズの小さな骨格は、人間の頼りなさをほのめかすようにも見える。そこに存在し、かつては機能していたスイッチや排水溝を利用した谷山恭子の、排水溝のまわりに広がる日の光を受けて美しく輝く透明の《水たまり》は必見だ。

 アーティストたちとの対話や運営資金の調達だけでなく、会場確保のための折衝や地元住民との話し合い、さらには運営スタッフとなってくれるボランティアさんたちのとりまとめなど、町中で展開するプロジェクトの開催には美術館とはまた違った苦労もともなうだろう。しかし、一丸となって困難をひとつずつクリアしていくそのプロセスは、スタッフに大きな自信をもたらし、次回への活力へとつながるはずである。同じ広島という土地でアートに関わる人間として、広島アートプロジェクトにエールを送りつつ今後の動きにも期待したい。


小笠原周《究極奥義》


河野真悠子《バンドエイド・マーメイド》


祐源紘史《スケルトン》


谷山恭子《水たまり》

広島アートプロジェクト2009「いざ、船内探険! 吉宝丸」展

会場:広島市中区吉島地区各所
会期:2009年9月5日(土)〜9月23日(水・祝)