キュレーターズノート

冨井大裕 展/岩崎貴宏 展

鷲田めるろ(金沢21世紀美術館)

2010年08月01日号

 このところ金沢の街にもコンテンポラリー・アートの拠点が増えてきたが、そのなかのひとつに、金沢美術工芸大学が市中心部のファッションビルの一角を借りて運営するギャラリーがある。オープン以来、菅木志雄、木下晋に続く3回目の展覧会として、冨井大裕展が開催されている。

 冨井大裕は1973年生まれの若手で、身近な日用品を用いた作品を多く制作しており、これまでにも埼玉県立近代美術館、ギャラリーαM、所沢ビエンナーレなどで発表している。今回の金沢での展示は、旧作6点と新作1点で、すべて床に直接置かれた立体作品である。エアキャップ、ストロー、ハンマー、スーパーボール、クリップなどのありふれた日用品を組み合わせて、作品を構成している。旧作と新作はやや傾向が異なり、旧作では、ひとつの作品に用いられる日用品は、ハンマーならハンマーだけ、エアキャップならエアキャップだけ、というようにだいたいひとつか二つに限定されている。そして、それらの日用品同士は、なにか別の素材によって接合されるのではなく、ただ積み重ねられたり、併置されたり、あるいはお互いがお互いを支えたりという仕方で組まれている。つまり、再びばらばらにすれば、そのまま、ハンマーはただのハンマーに、スーパーボールはただのスーパーボールになる。では、その日用品同士を「接合」させているものはなにか。それは、その並び方、組み合わさり方自体が作り出す規則である。例えば、柄の短いハンマーが横に三つ、その横に柄の長いハンマーが縦にひとつ、というように、並び方に規則がつくられる。その規則により全体が成り立っている。重要なことは、その規則が作者によって恣意的に与えられたものではなく、素材となる日用品がもつ性質、例えば、ハンマーの形状の縦横比から引き出されていたり、倒れない、といった重力と素材との関係によって生まれてきたりしていることだ。
 もちろん、作家はさまざまな点で、作品に細かいコントロールを与えている。例えば、全体の大きさがそうだ。日用品を規則に従って配置してゆけば、原理的にはどこまででも拡大可能である。しかし、作品を見る人との関係で、それが、「大きい」ということに価値を持たない程度のところで止めているのだ。つまり、「よくここまでつくった」という感想を抱かれること、技巧としてみられてしまうことを周到に避けている。


左=冨井大裕展、展示風景。手前は《ball sheet ball》
右=冨井大裕《joint (ball)》

 一方新作においては、床に12枚の正方形の板をクッションに載せて並べ、それぞれに異なる操作、例えば、紙を貼ったり、半分に切断して蝶番で止めたり、ハンガーを引っ掛けたりということをそれぞれに行なっている。作家は「板芸」と説明していたが、正方形のコンパネを使うというルールを、作家がまったく恣意的に設定し、それを使って考えられる操作のバリエーションを見せている。この場合は、「正方形の板」という規則は、作家から来たもので、旧作において規則が作家以外のところから引き出されていることとは対照的である。しかし、たまたま四角だが、別に丸でも構わないという完全な恣意性が貫かれていることで、逆に作家の意図は消去されている。
 私は冨井の作品を見るのは今回が初めてだったが、いずれの場合も、作品が作品として成立するかどうかのぎりぎりのところを探ろうとしているのを感じた。その点で、還元的なモダニズムの美術を正統的に引き受けようとしているように感じられる。旧作と比べると新作はまだ洗練の余地はあるものの、一貫した関心が異なる手法で展開されているその幅は頼もしく、今後の展開を楽しみに追い続けたい。


冨井大裕《board works》

冨井大裕「つくるために必要なこと」展

会期:2010年7月24日(土)〜9月20日(月・祝)
会場:金沢美術工芸大学アートギャラリー
金沢市片町2-2-5 ラブロ片町3F/Tel. 076-221-2530