2019年07月15日号
次回8月1日更新予定

キュレーターズノート

あいちトリエンナーレ/石上純也──建築のあたらしい大きさ

能勢陽子(豊田市美術館学芸員)

2010年09月01日号

 「あいちトリエンナーレ2010」がオープンした。始まる前から「地元はどう?」などと尋ねられることも多かったが、こうしたことは始まってみないとわからない。世界各国の約130組もの現代作家が名古屋で展示を行なうのはもちろん初めてのことで、市内4カ所を中心とした広域で展開されるので、これまで現代美術に縁がなかった人も間近に接するということが起きてくる。ある意味、それがトリエンナーレというものだろう。現代美術を中心に展開してきた当館を含め、愛知県美術館、名古屋市美術館でも現代美術の企画があるとはいえ、美術館と市内で展開されるトリエンナーレでは、人々の現代美術に対する接触率は格段に変わってくる。

 テーマは、「都市の祝祭:Arts and Cities」。これは名古屋初の国際展として、上記のようなことを踏まえ、与えられたテーマだろう。「屋外での展示作品でスペクタクル性を重視している」と建畠晢芸術監督が語るように、愛知芸術文化センターの前に位置するオアシス21の屋上の池には、草間彌生のオブジェが点在し、街中には水玉プリウスが走る。当初押し出されるイメージからは、祝祭的な高揚感が感じられたが、実際に開幕してみると、日本初紹介の未見の海外作家達も多く含まれ、祝祭性とクオリティのバランスがよく考えられていることがわかった。


草間彌生《命の足跡》2010
提供=あいちトリエンナーレ

 本トリエンナーレでは、愛知芸術文化センターと名古屋市美術館の二つの美術館、旧ボウリング場で最近は住宅展示場として使われていた納屋橋の施設、そして長者町全域がメイン会場になっている。二つの美術館と納屋橋の施設では、美術館で行なわれる典型的な国際展のイメージとは異なり、一人ひとりの作家に充分なスペースが割かれ、それが落ち着いた鑑賞をうながしていた。特に印象に残ったのは、愛知芸術文化センターのハンス・オブ・デ・ピーク、オリバー・へリング、ミケランジェロ・コンサーニの、いずれも映像作品。また写真家である志賀理江子は、今回はサイズの異なる写真パネルを壁に立て掛ける、印象的なインスタレーションを行なっていた。また名古屋市美術館の島袋道浩は、美術館地下1階のスペースを存分に利用して、「都市の祝祭」とは対照的な「漁村の現代美術」を小気味良く、ユーモラスに提示していた。ただどちらの会場でも、一つひとつの作品はゆっくり味わうことができたが、個々の作品やテーマとしての繋がりが見えてこなかったのは、やや残念であった。


ハンス・オプ・デ・ピーク《Staging Silence》2009
提供=あいちトリエンナーレ

 それらの会場と趣を変えるのが長者町エリアである。街中にありながら、繊維業の衰退によって閉鎖したビルが多くあり、一種の廃墟的なノスタルジーと人々の営みを感じさせる。ATカフェ2階のマーク・ボズウィックは、写真作品を観葉植物やお香と組み合わせ、愛のあるストーリーを紡ぎ出すインスタレーションにしていた。彼の展示は、カフェの二階というスペースに似合って、寛いだオープンな雰囲気をつくり出していた。また西野達は、長者町入口にクレーンで巨大な愛知の「愛」の字を掲げるプロジェクトを行なっていた。さらに、いまは廃業になった商店で、たった二日間の展示ではあったが《豆腐仏陀》を展示した。倒壊したため実際には一日のみの展示であったが、ばかばかしく潔い西野の本領が、醤油の香りのする台所のなかで、快く発揮されていた。


西野達《豆腐仏陀》2010
提供=あいちトリエンナーレ

 さて、街の規模は大きいけれど現代美術に不慣れな名古屋でこうした国際展を開催することには、どのような意義があるのだろう。国際展の意義など、短期間で計れるものでないけれど、初めての試みなので率直に考えてみたい。ひとつには、潜在的な現代美術愛好者を刺激し、この地の美術活動やその受容のされ方に、今後少なからず影響を与えるだろうということ。実際の作品に触れる初めての体験が、ゴッホやモネではなく、草間彌生や西野達だったという子どもたちも出てくるはずだから、当然将来的に変わってくる部分があるはずである。またもうひとつ、建畠氏の語る、「私たちの社会を不寛容な思想から救い、豊かな包容力を持ったものにするためには、文化的な多様性への眼差しが不可欠」であり、そのために街の中で現代美術が機能するということ。愛知に来て10年以上が過ぎるが、この地では文化を通じてさまざまなことを考える機会がまだまだ少ないのではないかと感じていた。トリエンナーレでは人々が現代美術に触れる確立が高い分、名古屋という都市ごと、そうした考え方を底上げすることに繋がれば良いと思う。初日に開催された国際展シンポジウムで、トリエンナーレと名前は付いてはいるが、次回の開催は今回の成功いかんに掛かっていると聞いた。この場合の成功とは、行政的には入場者のことをいうのだろう。こうした大規模な国際展では、それもやむをえないかもしれない。だから、この地で次回の開催も望む者として、なるべく多くの人に、あいちトリエンナーレに足を運んで欲しいと思う。

あいちトリエンナーレ

会期:2010年8月21日(土)〜10月31日(日)
会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場

学芸員レポート

 現在、9月18日にオープンする「石上純也──建築のあたらしい大きさ」の準備を進めている。連日ボランティアが訪れて、極細の糸を紡いだり、小さなステンレスのパーツをカットしたりしている。そんなときに舞い込んできたのが、ヴェネツィアビエンナーレ建築展での石上純也金獅子賞受賞のニュースである。そして賞を取った作品は、いままさに糸を紡いでいるのと同じ作品であり、本展ではヴェネツィアのものより、サイズ、スケールともに巨大になる予定である。ヴェネツィアでは倒壊したため幻の作品となった本作、ぜひ豊田市美術館でご覧いただきたい。


石上純也《大学のカフェテリア》
提供=豊田市美術館

石上純也──建築のあたらしい大きさ

会期:2010年9月18日(土)〜12月26日(日)
会場:豊田市美術館
愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1/Tel. 0565-34-6610

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