キュレーターズノート

新青森駅東口駅前広場モニュメント、中西信洋《雪まち──Aomori Reflection》に決定/AIR 2010・反応連鎖 Platform2 〈ツナガルシクミ〉

日沼禎子(国際芸術センター青森)

2010年10月01日号

学芸員レポート

 ACACではこの夏、藤浩志、小山田徹、高嶺格の3名によるAIRを開催した。日本の現代美術を代表するアーティストとして内外で活躍する彼らだが、このメンバーは、鹿児島県立甲南高校美術部、京都市立芸術大学、同大学のバレーボール部、演劇部へ所属したという知る人ぞ知るツナガリがある。上記の新幹線の話題にも繋がるが、来年は九州新幹線が全面開通。鹿児島と青森がレールで繋がる。さらには、双方の土地に残る方言のイントネーションや、日本地図を逆さまにしたときの地形の相似など、さまざまな事物の関連を繋げて、ここ青森で、この3名が再び時間と場を共有するという企画である。三者三様の滞在制作を行なうとともに、さらには、互いの家族をともなってひとつの大きな家族として過ごしながら、互いに影響を与えあった過去の時間と場を思い起こしながら、現在へと繋がれた個々の価値観や思想に触れようという試みだ。
 藤は、地域資源(人・物・環境など)を素材とした仕組みをOSと呼び、おもちゃの交換システム「kaekko」に代表されるように、自らが関わるコミュニティに投げかけ、そこで生まれた新しい視点や価値を開発し共有する場をつくってきた。藤がこのたび青森で興味を持ったものは「ねぶた」。祭り終了後の大型ねぶた1台分の廃材をもらい受け、紙、針金、木材、釘などの各素材に分類し、それらを使った造形物をドローイングのような感覚で制作し空間に展示。また、来場者がこれらの素材を使って工作できるようにし、廃棄物に新しい価値をつくり出す場を設けた。さらに、これらの廃材は、藤が現在取り組んでいる大阪の中之島でのプロジェクトへ利用されるなど、次なる展開へと連なることになった。そのほか、過去の出版物やインタビュービデオ、出生から現在までをクロニクル的に展開したドローイング、京都芸大の染織科時代に制作した京都妙心寺法堂の狩野探幽作の天井画「八方睨みの龍」の模写によるろうけつ染など、過去と現在を繋ぐインスタレーションを展開した。
 小山田は、京都を拠点にアートセンターの運営やセルフビルドでカフェをつくる活動を数々行なってきた。近年では、気軽に移動可能な「小屋」をさまざまな場所に持ち込み、そこで生まれる新しい出来事や対話を共有する活動を行なっている。この度はギャラリーに設置した小屋を中心に、自身が採集した古代石とその実測図、また洞窟探検の記録を写真や図面で紹介。時間、風景、自然と人間が共有してきた時間、風景に思いを巡らす。この山小屋のような建造物を含むインスタレーションは《飛ぶ教室》と名付けられ、サウンドアーティストの鶴林万平によるライブイベント、山田創平との対談を展開した。
 高嶺は自身の体験や経験に基づき、社会、他者とのあいだに起こるさまざまな問題と関わるなかで、新たな関係性や未来を切り開くプロセスを表現。近年はセルフビルドによる家づくりや、環境とエネルギーの問題に取り組んでいる。ここでは森の佇まいにふさわしく、樹上の家、ツリーハウスを制作。未来を生きる子どもたちを育むための家の在り方、人間の冒険心、そして自由を象徴する。大黒柱として据えられたのは、根ごと掘り出した1本の赤松の木。露わになった根は、ツリーハウスを支える木の存在をあきらかにした。また、室内の展示では、自身の家族とともに、秘密基地のようなインスタレーションを制作。布、椅子、段ボールなど身近な素材を使って遊んだ記憶があるだろう。本能的にもとめる自由さと、自分の居場所をつくろうとする本能が身体の記憶とともによみがえる。


藤浩志《龍にはじまった30年のチクショー。》
ドローイング、映像などによるインスタレーション


小山田徹《飛ぶ教室2010》
小屋、実測図、収集物


高嶺格《Free House》
[左]ツリーハウス:赤松、カラマツ、杉、その他/[右]インスタレーション:金貴月、高嶺小紋、高嶺丹烏とともに制作。布、木、写真、映像、その他

 最終日は、ダムタイプ《S/N》の上映会、3名によるアフタートークを開催。藤が学生時代に主宰していた大学内の劇団「座・カルマ」は、藤の卒業後、「ダムタイプシアター」「ダムタイプ」と変遷する。小山田は創設から2000年まで舞台美術、舞台監督として、高嶺はパフォーマーとして《S/N》《pH》《OR》に参加する。亡くなった古橋悌二をはじめとするキーパーソンであった人々とのエピソードを交えながら、90年代京都で起こったさまざまな出来事が、いかに多様な分野を繋ぎ、新しい価値を発明しようとしてきたかについて語った。
 夏の森にひととき出現したツリーハウスは、命を守り育てる棲み家であり、私たち人間が求めてやまない憧憬。私たちは個々のルーツ(根)を持つ。家族、パートナー、友人。根は複雑に関係性を持ち絡み合いながらも、そのすべてを持って1本の木を支え、自立させる。共に人や物事に対峙し、深く関わりを持つことから未来を切り開く術を探し求める彼らの姿を、そこに重ね合わせてみる。同じ地平を歩き、互いの存在や距離、差異を認め合いながらもいまを力強く生きる。それは私たちがコミュニティの在り様に求める理想形とも思える。家族を持つ親であり教育者として、そして成熟した大人のアーティストとして、場をつくり、人と繋がりながら生きる術を、これからも彼らは発明し続けるのだろう。

連鎖反応 PLATFORM2:ツナガルシクミ 藤浩志 小山田徹 高嶺格e_00010101

会場:国際芸術センター青森m_00001047
青森県青森市合子沢字山崎152番6/Tel. 017-764-5200
会期:2010年8月7日(土)〜9月5日(日)