キュレーターズノート

瀬戸内国際芸術祭2010/街じゅうアート in 北九州/黒ダライ児『肉体のアナーキズム』

山口洋三(福岡市美術館)

2010年11月15日号

 瀬戸内、あいち、釜山に光州と、福岡からあまり遠くない場所でさまざまな国際美術展が開催されている。しかしヴェネツィアビエンナーレや越後妻有トリエンナーレを訪問した昨年と違い、今年はこうした展覧会にまったく関心が向かない。来年の企画のために忙殺されているせいかもしれないけれど、昨年だって、福岡市美術館30周年記念展とか、震電プロジェクトで忙殺されていたから事情は同じなのだが? かろうじて、瀬戸内国際芸術祭には滑り込んだ。

 海辺の町で生まれ育った私にとって、瀬戸内芸術祭の島嶼部や海辺の風景はさして珍しいものでもなく、むしろ、昨年の越後妻有の山間の風景のほうに興味を覚えた。しかし、なぜこうした展覧会において、美術作品、作家よりも「風景」のほうが売りになり、そして話題となるのか。直島、犬島を除けば、他の島々で見られる作品群は、たとえば古民家の部材を使ったインスタレーションとか、数カ月間かけて住民と交流した成果の作品だとか、作家が違えば作品も変わるはずだが、越後妻有で見た作品群と、さほど変わるところがない。実際、少数だけど越後妻有から「巡回」してきた作品もあった。つまり、それはひとつのフォーマットになっている。だから、こうした展覧会においては、ある風景を舞台に現代美術が展開するように見えて、じつはその逆である。「現代美術」という関数に、さまざまな風景や舞台が代入されている印象を受けた。y=f(x)のfが現代美術で、xが展覧会場。現代美術の側が変化して、風景を求めたのではなく、現代美術が風景を捕食して、生き残りを図ろうとしているようにも思える。
 もうひとつ、これも指摘するにとどめたいが、こうした展覧会の評価は、どこか「有用論」に傾いている。住民に受け入れられたとか、これだけ経済効果があったとか、そうした議論である。住民の方々との折衝、資金の調達などにさまざまな背景があり、ご苦労があっただろうことは想像するほかないが、有用論で作品や展覧会の正否を計り始めると、これは役所で美術館の評価を「集客」とか「経済効果」で計るのとさほど距離がないように感じられる。それから、なにか地域振興、文化支援の名の下に美術家たちがこぞって出品する様をみていると、最近再読した菊畑茂久馬の著作『天皇の美術』(フィルムアート社、1978)の内容を想起せずにいられないが、これは大げさすぎるか?

 話は変わって、最近気になった作家の1人が、久保田弘成である。北九州市で開催された「街じゅうアート in 北九州」の出品作家であった。褌姿で、自作の回転機械で自動車を回すパフォーマンスが、昨年、神奈川県民ホール(場違い展)でも披露されたことと思うが、今年、北九州において滞在制作を行ない、車ではなく漁船を回すことを発案。市内の鉄工所の協力のもとに実現した。作品の実演の様子は、youtubeにでているのでそちらを参照されたい。

 車や船を回す行為、これと同時に流れる演歌に特に深い結びつきがあるわけではなさそうだが、作家の出身地である長野県の御柱祭となにか関係があるかもしれない。安易な言語化を拒む、こうしたいい意味でばかばかしい作家と作品を、ちかごろすっかり見なくなってしまった。

 再び話題は変わって、もうひとつ紹介したいものが最近刊行された黒ダライ児著『肉体のアナーキズム』(grambooks、2010)である。本当は書評として書きたかったのだが、本稿執筆までに読み終わらなかったので(情けない。しかし本書を買った人のなかにはこういう人多いのでは?)、簡単に紹介して、詳細は次号としたい。
 サブタイトルにあるとおり、本書は1960年代における、直接的な身体表現(パフォーマンス)を詳細にドキュメントし、これをベースに1960年代の日本の美術動向を別の角度から照射した著作である。ゼロ次元や九州派など、前衛美術史のなかで名前だけは見聞きしたことのありそうな動向から、本書が書かれるまでごく一部にしかその存在を知られていなかった美術家まで、その視点は多岐にわたる。政治、社会と芸術がかつていかに関わったか/関わり損なったか。読了後に、この大作を論じてみたい。


黒ダライ児『肉体のアナーキズム』(grambooks、2010)

瀬戸内国際芸術祭2010

会期:2010年7月19日(月)〜10月31日(日)
会場:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島+高松

街じゅうアートin北九州2010──産芸ものがたり・後編

会期:2010年9月18日(土)〜10月31日(日)
会場:門司赤煉瓦プレイス(旧サッポロビール醸造棟、BRICK HALL)、GALLERY SOAP、 北九州市庁舎周辺、cream、小倉井筒屋、アーティックス小倉グランゲート コンセプトミュージアムほか

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