キュレーターズノート

CCAキュレーター・ミーティング2010

植松由佳(国立国際美術館)

2010年11月15日号

 毎回、この欄に書くのは各地(ときには海外も含めて)の美術館やギャラリ—スペースなどで開催される美術館やアートイベントが中心で、それは少なからず拙稿を読んでくれる読者の参考となればと考えながらテーマを選んでいることもあるのだが、今回は少々事情が異なるかもしれない。前回の寄稿以来、展覧会を見ていない訳ではない。光州ビエンナーレに釜山ビエンナーレ、ソウルで開催されたメディア・シティ・ソウルにも足を運んだし、例えば東京都写真美術館での「ラヴズ・ボディ──生と性を巡る表現」展や東京都現代美術館の「トランスフォーメーション」展、またその関連イベントとして開催されたヤン・ファーブルによるパフォーマンスなど触れたい展覧会もある。しかし今回選んだのは、展覧会ではなく学芸員という私の仕事に関することである。

 10月1日から3日、北九州にあるCCA北九州で開催された「CCAキュレーター・ミーティング2010」に参加する機会を得た。CCA北九州といえば1997年の設立以来、グローバルな視点を持つ研究機関としてユニークな活動を続けていることがよく知られている。CCA北九州の中村信夫ディレクターのコーディネーションのもと、国内の美術館に勤務する4名の学芸員が集い、キュレーターになったきっかけに始まり、私たちを取り巻く環境における今日的な問題や将来に向けての可能性を探る討議が3日間にわたって行なわれた。後日、今回のミーティングの報告集が発行される予定なので、詳細についてはこれにゆずりたいと思う。しかしながら、3日間に討議された内容ももちろん重要だが、強調したいのはこのような機会を持てたということである。
 意外に思われるかもしれないが、美術館に働く学芸員たちがこのように集まる場というのは限られている。例えば、日本の国公私立美術館による全国美術館会議という組織があり、その研究部会である業務の担当や分野への関心を同じくする学芸員が集うワーキンググループがあげられるだろう。もしくはある展覧会を巡回させるための準備段階においても、度重なる会議が開催される。こうした公の場の一方で、ほとんどのケースが個人レベルでのネットワークによる会合ではないだろうか。昨今の美術館の冬の時代と呼ばれる状況では、おのずと会話の内容は悲観的なものになりがちであることは、同業者諸兄の同意を得られるだろう。指定管理者制度の導入を嘆き、展覧会の内容よりも入館者数が求められがちな現状を憂う。情報交換の場であることも間違いないのだが、積極的な問題解決の場所になりうるのかと問われれば必ずしもそうなってはいないと答えざるを得ない。また自らの職務を省みても、日常業務に追われて、自分が実際に抱える問題や将来に向けての課題に向き合う時間を持つことは難しくなっている。かなり個人的な考えかもしれないが、同じような思いを抱く学芸員もいることだろう。こうした日々を送るなかで、北九州での3日間はしばし立ち止まる時間が与えられたかのようでもあった。


CCA外観

CCAキュレーター・ミーティング2010:Let’s talk about art

会期:2010年10月1日(金)〜3日(日)
会場:CCA北九州
福岡県北九州市八幡東区尾倉2-6-1 3F

学芸員レポート

 先日、大阪市は大阪市立近代美術館について、規模を縮小したうえで平成28年度の完成を目指すという計画案を発表した。財政難のために、当初の24,000平方メートルの延べ床面積は16,000平方メートルに、建設費も280億円から122億円に圧縮されるという。ただし総事業費は約290億円が見込まれており、建設用地の一部売却による建設費の充当を考慮しても不足すると予測されている。今後も行方を注視すべきだろう。大阪と言えば、サントリーミュージアム[天保山]も今年末の休館が決まり、大阪市がその無償譲渡を受け、美術館として存続することが決定している。老舗画廊のクローズのニュースも相次いでいるが、大阪の美術界に明るさをもたらすことを望みたい。