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キュレーターズノート

雨引の里と彫刻2011──冬のさなかに

伊藤匡(福島県立美術館)

2011年03月15日号

 筑波山の北側、雨乞い伝説で知られる雨引(あまびき)観音のふもとで、「雨引の里と彫刻」展が開かれている。この野外彫刻展は、里山の風景を見直そうと、この地域で制作する彫刻家たちが第1回展を開いたのが1996年というから、もう15年の歴史がある。以後2、3年ごとに開かれ、8回目を数える今年はサブタイトルどおり初めて冬の開催となった。

 会場は茨城県桜川市大和地区、各作品は集落内や田畑の脇、雑木林などに散在している。全行程約17キロあり、歩いてまわれば半日以上はかかるだろうし、車でも4時間程度必要だ。時間はかかるが、早春の田園地帯では白梅が満開となり、ふきのとうも地表に顔を出していて、散策も楽しい。
 42作家の作品はほとんどが立体。石彫が多いのは、この地域が石の名産地であるからか。そのほかに鉄やステンレスなどの金属、竹や木などの自然素材、セラミック、羊毛を使ったファイバー・アートもある。
 この野外彫刻展は、出品作家による自主運営で実施されている。出品作家は月一回、全員参加が原則の会議を開いて、議論を重ね準備作業を進める。会議ではまず、次の展覧会を開くか否かということから始まるのだという。各作家が自らの負担で作品を輸送・設置し、広報そのほかの準備もすべて行なっている。展示候補地のなかから作家が自作の設置場所を選ぶのではなく、作家が現地を歩いて場所を探し、土地の所有者に設置の許可を求めるという方式なのだそうで、地元の人々の協力が重要だ。また作家も、作品制作はもちろんだが、搬入・設置も自己負担だから、労力も経費もかかる。それでも参加する作家が次第に増えているというから、この野外展覧会への参加に魅力を感じているのだろう。
 作品と周囲の環境が良く合っている作品が多いのは、作家自身が設置場所を選んでいることの効果だろうか。筑波山を眺める広々とした土地に、屹立する石の直方体の毅然としたかたち。雑木林のなかに静かにたたずむ黒い鉄の板や円盤。木の枝にかけられたステンレス製の矩形の連鎖が陽光に輝いている姿など、作品と周囲の環境が一体となって鑑賞者の記憶に仕舞い込まれる。集落への分かれ道に建てられた巨大な木製の小屋。十字状に鉄板が打ち込まれた卵形の巨石など、力作、大作も多い。
 最近アートイベントが増えているせいか、掛け持ちで出品する作家も多くなり、なかには「おつきあい」と感じる「軽い」ものや同工異曲の作品を見せられることがある。また鑑賞者を過度に意識した「思いつき」や「受けねらい」とみえることもある。だが、ここでは力量の差はあっても「おつきあい」的な作品は、ほとんど見られない。その理由を、新たに出品するためには、すでに出品している作家の推薦が必要な仕組みであり、また作家同士の相互批判の精神が「いい加減なものは出せない」という緊張感に求めることができるだろう。
 お祭り的な賑わいという点では、もの足りない面もある。例えば、ルート内には食べ物屋がない。日曜日だけはボランティアによる蕎麦屋が臨時営業するが、それ以外の日は弁当持参のほうが安心だ。また地元の名物などを買って帰ろうと思っても、店が見あたらない。筑波山と里山の眺めをおみやげにして帰ることになる。商売気は、あまりない。
 現在、美術館でも画廊でも彫刻、立体の展覧会は少なくなっている。経費はかかるのに観覧者は少ないからだ。その結果、作家は作品展示の機会が減り、鑑賞者は見る機会が減っている。こうした現状のなかで、「雨引の里と彫刻」展は彫刻、立体の野外展示として作家にとっても鑑賞者にとっても貴重な存在である。


小日向千秋《風天》


村井進吾《黒体1101》


大槻孝之《重力の森》


國安孝昌《雨引く里の田守る竜神》

雨引の里と彫刻2011──冬のさなかに

会期:2011年1月15日(土)〜3月21日(月)
会場:茨城県桜川市大和地区周辺

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