2019年05月15日号
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トピックス

D-8ジャパン デザイン ミュージアム構想の道程を読む

新川徳彦(社会経済史、経営史、デザイン史)

2019年03月01日号

さまざまなデザイン分野の8つの社団法人で構成される日本デザイン団体協議会(D-8)★1 ★2は、日本における総合的なデザイン・ミュージアムの設立を目指し、2006年以来多様な活動と情報発信を行なってきた。2010年9月には「DESIGN ふたつの時代[60s vs 00s]ジャパン デザイン ミュージアム構想」展を開催★3。翌年には同展覧会の成果をまとめた同名の書籍を刊行している(DNPアートコミュニケーションズ、2011)。それから9年。D-8が構想するデザイン・ミュージアムの中核をなすことになるジャパンデザインの系譜をたどるコンテンツの展示と、デザイン関係者によるパネルディスカッションおよび講演会が開催された。本レポートでは、これらの内容について報告する。


研究発表会「戦後日本のデザインは、どのように成立し、どこに向かうのか?」展示風景
手前:「ジャパンデザインのアナトミー(解剖図)」 奥:「テーマパネル」 

「クロニクル」「アナトミー」「テーマパネル」による展示構想


JIDAデザインミュージアム in AXISで開催された展示は、来たるべき「ジャパンデザインミュージアム」の展示構成を念頭に、戦後日本のデザインを3つの切り口で見せるもの。ひとつは「ジャパンデザインのクロニクル(系譜図)」。1960年代から2000年代まで50年間のデザインを、デザイン団体別に年表形式でプロットしている。もうひとつは、1950年代から2010年代まで70年間にわたる日本デザインの流れを分析する「ジャパンデザインのアナトミー(解剖図)」。10年ごとに区切られたパネルに時代を代表するデザインの写真が配され、「住環境の変化」「東京オリンピック」「国際化」など13のテーマ・キーワードとこれらのデザインを紐付けることで、デザインがそれらをとりまく社会環境と時代の枠を超えて不可分の関係にあることを示す試みだ。3つめはつめは「テーマパネル」。「万国博と地方博」、「高度経済成長」、「ロングライフデザイン」、「プロデュース」、「技術革新」という5つのテーマでデザインを見せるもの。


「ジャパンデザインのクロニクル(系譜図)」


「ジャパンデザインのアナトミー(解剖図)」


「テーマパネル」

「クロニクル」「アナトミー」では時系列でデザインと社会環境の変化を結びつけていたが、ここでは特定のテーマ設定によりデザインの変化を見せる。「クロニクル」と「アナトミー」がデザイン・ミュージアムにおいて常設展示を構成するものとすれば、「テーマパネル」の主題は企画展に相当するものであろう。今回の展示では実物はなく、すべて写真であったが、実際のミュージアムでは実物と写真、図面等による立体的な展示構成が想定されている。

アーカイブと議論の場


この企画に合わせてAXISギャラリーではセミナー「ジャパンデザインを探る」が開催された、第1部パネルディスカッションには、暮沢剛巳、関康子、金子祐介、杉谷進ら4氏が登壇。はじめに司会を務める洪恒夫氏からこれまでのD-8ジャパンデザインミュージアム構想の活動と今回の展示企画についての報告があった。洪氏によれば、デザイン・ミュージアムとは私たちの文明、文化の地図、道標であり、私たちが生み出してきた文化資源を集め、これを再資源化する場であるとのこと。2010年ミキモトホールでの展覧会を経て、今回はジャパン デザイン ミュージアムの「ドリームプラン」を示すことになったとの経緯が説明された。

『世界のデザイン・ミュージアム』(大和書房、2014)の著書もある暮沢剛巳氏からは、世界で最も古いデザイン・ミュージアムであるロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館を初めとする各国のデザイン・ミュージアムで、何がどのように集められ、どのように研究され、どのように展示されているのか、概要が報告された。

関康子氏は自身が理事を務める建築思考プラットフォーム(PLAT)が行なっている日本のデザイン・アーカイヴの実態調査の実績報告。戦後第一世代の建築家、デザイナーが亡くなり、資料が散逸する恐れがあるなか、作品や資料のアーカイブ化を行なっている関係者へのヒアリング、仕事場訪問ワークショップ、そしてアーカイブ化方法の調査などの実践的な取り組みが紹介された。


セミナー風景

金子祐介氏からはハーバード大学に収蔵された丹下健三資料の事例を中心に、デザイン・ミュージアムが調査、収集、記録すべき事柄がプロダクトだけではなくその周辺──例えば政治や経済──にも及ぶべきことが指摘された。

杉谷進氏からは2016年にロンドン・テムズ川河畔からサウスケンジントンに移転したデザイン・ミュージアムが紹介された。以前の施設では限られたスペースのために企画展のみが開催される施設であったが、移転により充実した常設展示が加わったこと、またこの常設展示ではユーザー、メーカー、デザイナーの3者に焦点が当てられており、デザインがデザイナーのみによって生み出されるものではなく、社会や経済活動と密接な関わりがあることが展示によって明示されていること、また研究のためのライブラリーが設置されていることなどが報告された。

各氏の報告後の質疑では、近年のグッドデザイン賞受賞作に見られるように、モノのデザインからコトのデザインへのシフトをミュージアムでどのように見せることができるかなどの質問が出た。将来設立されるであろうデザイン・ミュージアムはこうした疑問のディスカッションの場にもなる、との洪氏のコメントは興味深い。デザイン・ミュージアムは日本のデザインに欠けていると言われる批評の場としても機能しうると言うことなのだ。

第2部、喜多俊之氏の講演会では、韓国・東大門デザインプラザ、ミラノ・トリエンナーレデザイン美術館の紹介や、自身が関わったプロジェクトからデザイン・ミュージアムのあり方が語られた。とくに、喜多氏のイタリアでの経験から、企業経営者がデザインにとって重要な役割を果たしてきたこと、人々の暮らしかたがデザインに大きく影響してきたとの指摘は、デザイン・ミュージアムが単にデザイナーが生み出したモノを見せるだけの場ではあり得ないこと、デザインの背景を読み解くことができる展示の必要性を示唆している。

デザイン・ミュージアム、実現への課題


近年日本の美術館では建築やデザインに関わる企画展がたびたび開催され、多数の観衆を集めている。このことからもデザイン・ミュージアムに一定の需要があることは間違いないだろう。しかしながら、特定分野のデザイン資料を収集する企業ミュージアムや大学ミュージアムは存在するものの、日本には多様なデザインを包括的に収集し常設展示するミュージアムは未だに存在しない。一方で日本にデザイン・ミュージアムが必要であることは、デザインに関わる人々の間で共通の認識であり、これまでにさまざまな提言がなされてきた★4。デザイン関係者のみならず一般の人々の注目も集めたものとしては、2012年に三宅一生氏らによって立ち上げられた「国立デザイン美術館をつくる会」がある。デザイン関係者が登壇し2回にわたって開催されたシンポジウムでは、デザイン・ミュージアムのありかたが討論されたばかりでなく、実現のためのプロセスも示された★5



「国立デザイン美術館をつくろう!」のチラシ

この構想を踏まえ、2014年には21_21 DESIGN SIGHTにおいて、「日本のデザイン・ミュージアム実現にむけて展」が開催されている。このとき筆者は「これまでバラバラに行なわれてきた議論がようやくひとつのかたちに近づいてきたように思われる」と書いた★6が、残念ながらこれ以降この構想については進展を聞かない。



「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」のポスター

デザインの実務に携わる人々ばかりではなく、デザイン史研究者の間でもデザイン・ミュージアムの必要性についてはたびたび議論されている。直近では2018年8月、意匠学会第60回大会で「デザインミュージアムの可能性」と題するシンポジウムが開催されている。しかしながら、管見の限りであるが、これまでのシンポジウムや提言の多くは過去の議論を下敷きとせず、同じ問題──デザイン・ミュージアムの必要性、他国のデザイン・ミュージアムの事例紹介、日本のデザイン・ミュージアムのありかた等々──が繰り返し繰り返し論じられているように見えて残念に思う。また、デザイン団体、デザイン関係者によるデザイン・ミュージアム構想と、美術館学芸員やデザイン史家によってなされてきた議論、デザイン史観とのリンクが稀薄な点も気になる。★7

このように一進一退を続ける構想において、D-8が展覧会やトーク、ワークショップを積み重ねてきた結果として、今回の展示とディスカッションが単なる議論に留まらず、ジャパンデザインミュージアムの具体的なイメージ像とコンテンツを示した点、なかでも総合的なデザイン・ミュージアムの役割として常設展示を重視している点は大いに評価されるのではないだろうか。とはいううものの、わが国のデザイン・ミュージアム実現のための最大の課題──建設と運営のための資金をどのように確保するのか──については、いまだ具体的なプランが示されることはなく、その道のりは遠いと言わざるを得ない。


『DESIGN ふたつの時代[60s vs 00s]ジャパン デザイン ミュージアム構想』書影


★1──デザイン分野の8つの社団法人:一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA)、公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)、公益社団法人日本クラフトデザイン協会(JCDA)、公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID)、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)、公益社団法人日本ジュエリーデザイナー協会(JJDA)、公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)、公益社団法人日本サインデザイン協会(SDA)の8団体。
★2──D-8のこれまでの活動については公式ウェブサイトhttp://www.jagda.or.jp/d-8/を参照のこと。
★3──2010年9月17日〜9月28日、銀座・ミキモトホールにて開催。
★4──2007年までに行なわれた日本のデザイン・ミュージアム構想については、森山明子氏の論文「デザイン行政とデザイン・ミュージアム」に詳しい。(『デザイン学研究特集号』Vol. 14, No. 3, 2007、29〜38頁、日本デザイン学会https://doi.org/10.11247/jssds.14.3_29
★5──「『国立デザイン美術館をつくろう!』第1回パブリック・シンポジウム」レビューhttp://artscape.jp/report/review/10064722_1735.html(artscape 2012年12月01日号)
★6──「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」レビューhttp://artscape.jp/report/review/10095688_1735.html(artscape 2014年02月01日号)
★7──このような議論と場の乖離は、デザイン行政は経済産業省、博物館行政は文部科学省の管轄下にあるため、ともしばしば指摘されるところだ。

研究発表会「戦後日本のデザインは、どのように成立し、どこに向かうのか?
─ジャパン デザインとは何かを探るワークショップの経過と成果の公開の場として」

会期:2019年1月25日(金)〜2月10日(日)
会場:JIDAデザインミュージアム in AXIS
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
主催:日本デザイン団体協議会(D-8)
監修:暮沢剛巳(東京工科大学教授)
オブザーバー:金子祐介(城西国際大学助教)、関康子・涌井彰子(NPO法人建築思考プラットフォーム)


セミナー「ジャパンデザインを探る」

日時:2019年1月29日(火)
会場:AXISギャラリー
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
主催:日本デザイン団体協議会(D-8)
内容:第1部 パネルディスカッション
・パネリスト/暮沢剛巳、金子祐介、関康子、杉谷進(D-8 JDM委員、SDA会員)
・ナビゲーター/洪恒夫(D-8 JDM委員長、DSA会員)
第2部 喜多俊之氏講演会
・講師/喜多俊之


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