2020年10月15日号
次回11月2日更新予定

トピックス

【PR】『国立美術館ガイド』でコレクションを拝見!

村田真(美術ジャーナリスト)/岡崎素子(編集者、プランナー、クリエイティブディレクター)

2020年05月15日号

日本の国立美術館6館のうち、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館の4館のコレクション、初のガイドブック『国立美術館ガイド』(独立行政法人国立美術館刊行)が2019年3月に刊行され、今春、4巻セット(ケース付き)が書籍通販サイトhontoで購入できるようになった。コロナ禍のなか、美術館に行けない美術ジャーナリスト村田真氏にブックレビューをお願いし、4冊のガイドブックの編集、デザイン、執筆の3役をこなした岡崎素子氏には編集のねらいについてインタビューした。美術のプロフェッショナルと自称アマチュア(amateurには「愛好家」という意味もある)のお二人の意見からあらためて思ったのは、国立美術館の所蔵作品展は見所満載、観なきゃ損だということ。『国立美術館ガイド』は私たちを展示室へと導いてくれる。末尾にはお二人からのおすすめアートブックも。(artscape編集部)


『国立美術館ガイド』(ケースは各館ごとに4種類。写真は東京国立近代美術館のもの)

国立美術館にもコレクションはある!?

もう1カ月以上も美術館に行っていない。おそらく5月末まで美術館は開かないだろうから2カ月は超えるはず。東日本大震災後は2週間見に行けなかったが、今回はその比ではない(そういえば最後に見た展覧会は、震災後初めて見たのと同じ、上野の森美術館の「VOCA展」だった。笑)。かれこれ40年以上も美術館に通い続けているが、こんなに長いあいだ見ない(見られない)のは初めての経験だ。

でも意外に禁断症状は現われない。たまに美術館が恋しくなることはあるが、それはルーヴル美術館だったり、ロンドンのナショナル・ギャラリーだったり、かつて骨身に染みるほど堪能したヨーロッパの美術館であって、残念ながら日本のそれではない。理由は簡単、魅力がないからだ。では美術館の魅力とはなにかといえば、コレクションに尽きる。要はどれだけ優れたコレクションを持っているかである。

5年前に東京国立近代美術館で「No Museum, No Life? ──これからの美術館事典」という興味深い企画展が開かれた。サブタイトルに「国立美術館コレクションによる展覧会」とあるように、東京国立近代美術館(以下、東近美)、京都国立近代美術館(以下、京近美)、国立西洋美術館(以下、西美)、国立国際美術館(以下、国際美)、国立新美術館(以下、新美)の5館のコレクションを通して美術館の活動を紹介する企画だった(新美はコレクションがないので展示は4館)。その図録によれば、4館のコレクションの合計は41,882点。1館平均1万点余り。庶民感覚からすればずいぶん多いが、ルーヴル美術館の38万点、メトロポリタン美術館の300万点には遠く及ばない。また、美術館の収入では、ルーヴルが308億円、MoMAが190億円に対し、日本の国立美術館は5館合計で121億円。1館平均24億円程度となり、MoMAの8分の1、ルーヴルの13分の1にすぎない。これはもはや多い少ないの問題ではなく、なにか根本的に美術館に対する考え方が違っているのではないか。

その違いのひとつが、日本では美術館はコレクション(常設展)を楽しむ場所ではなく、展覧会(企画展)を見に行くところという認識だ。ルーヴルもメトロポリタンも企画展は開くけれど、基本はコレクションの常設展示で成り立っている。最初に企画展示を行なったとされるMoMAしかり。ところが日本では、コレクションを公開するために美術館が設立されたのではなく、まず美術館という制度(ハコ)を輸入してから中身を埋めようとしたため、公募団体に会場を貸したり、新聞社主催の企画展に頼らざるをえなかった。それが常態化してしまったのが日本の美術館なのだ。

世界の美術館の入場者数ランキング(『The Art Newspaper』2018年)によると、日本の美術館のトップは東京都美術館(以下、都美)の279万人(世界で19位)で、僅差で新美の272万人(世界で21位)が続き、東京国立博物館(東博)の243万人(23位)、西美の137万人(44位)、京近美の113万人(60位)という順で、東近美、国際美は100位以下。ご存じのとおり都美は公募団体展のメッカであり、都美が手狭になったため新美がつくられたという経緯がある。つまり日本ではコレクションをほとんど持たず、団体展や企画展だけの「美術館」にいちばん人が入るのだ。ちなみに東博も西美もそれなりに立派なコレクションを持っているが、入場者数を稼いでいるのは企画展にほかならない。これでは美術館に愛着など湧きようもないだろう。


『国立美術館ガイド1 東京国立近代美術館の名作』左頁:p24 萬鉄五郎《裸体美人》1912
右頁:p25 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915

前置きが長くなってしまったが、これで心置きなく『国立美術館ガイド』の紹介に入れる。本書は東近美、京近美、西美、国際美の4館のコレクションから選りすぐった「名作」を、各館ごとに70-80点ずつ紹介するシリーズ。いずれも100ページ強で、A5よりやや縦長のハンディサイズと、家で眺めるより実際に持ち運べるようにつくられている。各巻とも美術館建築の紹介から、開館時間や観覧料、バリアフリーの有無、周辺地図、館内マップまで簡潔にまとめられ、作品解説も含めてすべて日英バイリンガル(需要を考えれば中韓訳も必要か)。

作品紹介は、それぞれの美術館の特徴を反映させて構成を変えている。東近美(工芸館を含む)はまず15点の「国指定重要文化財」から始まり、「日本画」「洋画・彫刻」「工芸・デザイン」というまるで日展のようなハイアラキカルな分類。それに対して京近美は「関西ゆかりの作家たち」と、その他の「近代・現代の名作」に分け、地域性を前面に出している。西美は「オールド・マスター絵画」「世界を魅了した近代の巨匠」「近代彫刻の最高峰」と、基本的に時代順に配列し(「世界を魅了した」とか「最高峰」とかは余計?)、国際美は「現代美術の起点」「現代の海外アーティスト」「現代日本のアーティスト」「今を生きるアート」とストレートな順序。

内容もデザインもすっきりしていて好感が持てる。作品の選択もあれこれ言い出せばキリがないが(なにしろ全体の0.7%しか載っていない)、とりあえず穏当なセレクションだ。ひとつだけイチャモンをつければ、東近美に153点ある戦争記録画をなぜ1点も選ばなかったのか。コレクションではなく永久貸与だからか? でも原田直次郎《騎龍観音》も菱田春草《王昭君》も寄託作品なのにトップで載ってるぞ。戦争記録画の位置づけがビミョーなのはわかるが、だからこそこんな絵が描かれた時代もあったという史実を知らせる意義は大きいと思う。東近美の常設展では数点ずつ小出しに展示されているのでお見逃しなく。逆に、よく選んだと感心する(あきれる?)のが、国際美の最後に出てくるライアン・ガンダーの《あの最高傑作の女性版》。眉毛が太くて睫毛のない《最高傑作》の女性版。眼がクリクリ動くので、ぜひ本物を見てほしい。ただし、常設展といっても年に数回展示替えされ、いつも同じ作品が見られるとは限らないので要注意。むしろ意外なコレクションに出会えるのが常設展の醍醐味と考えたほうがいい。


『国立美術館ガイド4 国立国際美術館の名作』左頁:p90 アローラ&カルサディーラ《Lifespan》2014
右頁:p91 ライアン・ガンダー《あの最高傑作の女性版》2016


この4冊を眺めてあらためて感じるのは、やはりいかんともしがたいコレクションの薄さと、にもかかわらず、意外と捨てたもんではないという背反する思いだ。たとえばルーベンスは西美に小品が2点あるのみで、大作が数十点単位でコレクションされている西洋の美術館と比べ、あまりに貧弱と言わざるをえない。と思っていたが、弟子が大半を描いた大作より、親族の肖像や下絵などの小品のほうが画家自身の筆づかいが伝わり、むしろ愛おしく感じるようになった。このガイドブックを見ても、あらためて珠玉の2点であることが確認できる。ついでにいうと、その次のページのヤーコプ・ヨルダーンス(に帰属)《ソドムを去るロトとその家族(ルーベンスの構図に基づく)》は、もともとルーベンス作として購入したのに、調査の結果ヨルダーンス帰属となった作品。美術館にとっては名誉なことではないけれど、そんな「いわく」も付け加えればもう少し親近感が湧くのではないか。


『国立美術館ガイド3 国立西洋美術館の名作』左頁:p30 ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子ども》c.1612-13
右頁:p31 ペーテル・パウル・ルーベンス《豊穣》c.1630


さて、その西美では、いつになるかわからないけれど「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」が公開を控えている。もし公開されたらぜひ常設コレクションにも足を運んで見比べてほしい。やっぱり足元にも及ばないと嘆くか、いやなかなかタメ張ってるじゃないかと見直すか。

(村田真)

アートファンの目線でつくったガイドブック

──はじめに、このガイドブックはどのようなきっかけでつくられたか、お聞きしたいと思います。

岡崎素子(以下、岡崎)──独立行政法人国立美術館が、国立美術館6館のなかでコレクションをもつ4館のガイドを兼ねたハンディな所蔵品の本をつくるということになったんです。日英バイリンガルで、作品紹介の執筆は、各美術館の学芸員の監修のもと編集側で行なうというものでした。私はもともと美術が好きだったので、学芸員や美術史家のようなプロではない、アマチュアの「アートファンの目線」でつくるガイドブックを提案させていただき、その企画を採択していただいたんです。

──どんな読者層を想定されていますか?

岡崎──まずバイリンガルということで、日本を訪れる外国人観光客を想定しました。外国の美術館ではバイリンガルのガイドブックってよく見かけますよね。でも、日本ではあまり見かけません。そういうものが欲しいと思ったのです。外国人観光客が書店でこの本を手にとって、行ってみてお休みだったらがっかりしますよね。なので、すぐにホームページで利用案内を調べられるように、QRコードを入れました。
日本人の読者としては、美術館は好きで企画展はたまに行くけれど常設展は見ないという方が多いですよね。企画展はすごく混んでいても、常設展はゆったりしていて、ワンコインで見られるんですよ。すごく見応えのあるコレクションがあるのに、知らないのはもったいないと思いました。そういう方に美術館を再発見していただきたい。また、いままで美術館にあまり縁がなかった方もこの本を見て、実物を見てみたいと思っていただけたら。
あと、高齢の読者の方が「もう美術館に行くことはないかもしれないけれど、毎晩2-3ページずつ見るのよ」って言ってくださったのが嬉しかったです。



『国立美術館ガイド2 京都国立近代美術館の名作』p9 来館案内


──この本は美術館のミュージアムショップでも売られているんですよね。修学旅行生や旅行で訪れた人が、家族へのおみやげや自分の思い出のために買う素敵なギフトにもなりますね。

岡崎──そうなんです。外国人が買ってくれる美しいブックレットが作りたかったですね。デザインも少し日本的なカラーリングにしています。作品の色味の再現には大変こだわり、ほぼすべての作品の実物と色校をあわせています。本機校正も3回くらい出していますね。

──収録した作品のセレクションはどのように行なわれたのですか?

岡崎──掲載作品の原案はすべて私がつくりました。西美以外は、各館独自の、コレクションを一元的に俯瞰できるものが私の手元にはなかったので、選ぶのに苦労しました。もちろんコレクションの目玉としてこれは外せないというのもありますが、私のようなアマチュアでも興味を惹かれるような、という視点を大事にしながら、各館の構成ストーリーを考えました。たとえば東近美はコレクションの質量的にも圧倒的な感じを出したかったし、京近美は地域性や伝統工芸を重視している点を強調しました。西美は松方コレクションがもとにはなっていますが、中世から現代までが時系列的に網羅されていること、国際美は現代アートですので、さまざまなフォーマットの作品があることをお伝えしたいと思いました。



『国立美術館ガイド2 京都国立近代美術館の名作』左:p54 北大路魯山人《色絵金彩椿文鉢》1955 右:p55 富本憲吉《色絵金彩羊歯模様大飾壺》1960


──各館の学芸員の方のご意見はどのくらい入っていますか?

岡崎──「アートファンの目線」というコンセプトをご理解・尊重してくださったうえで、作品のラインナップや紹介文の内容に、プロとして適切なアドバイスやリクエストをしてくださいました。紹介文は美術になじみのない方にも入りやすいように、専門用語や難しい言葉はできるだけ平易な日本語にするように努力しました。わかる人にはわかる、というのではなく、みんなに開かれた美術館ガイドにしたかったんです。

──作品紹介には、主観的な印象や感想が入っているのも新鮮でした。たとえば、「ひとくせもふたくせもある美人画です。グロテスクと紙一重の艶っぽさ」(『京都国立近代美術館の名作』甲斐庄楠音《横櫛》)とか。

岡崎──読者に同じ目線で共感していただけるように、と思いました。たった200字なので、詳しい人には物足りない。でも、集中して一気に読める量なんですね。

──artscape読者へのトリビア的なネタはありますか?

岡崎──全巻に収録されている作家が一人だけいます。さあ、誰でしょう? ぜひ、探してみてください。


★──国立西洋美術館のホームページでは、掲載画像も豊富な所蔵作品を検索閲覧するシステムが公開されているhttp://collection.nmwa.go.jp/artizeweb/。また、国立美術館4館の収蔵作品を検索できる「独立行政法人国立美術館 所蔵作品総合目録検索システム」http://search.artmuseums.go.jp/がある。

(2020年5月7日ネットでインタビュー)

村田真さんのおすすめアートブック

図録『美術館の夢』(兵庫県立美術館、2002)

もう20年近く前だが、兵庫県立美術館の開館記念展の図録。このころ美術館で「美術館」をテーマとする企画展が増えたのは、独立行政法人化や指定管理者制度が騒がれたからでもある。昨年、国立西洋美術館の開館60周年記念として開かれた『松方コレクション展』の図録も充実。

山本浩貴『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中公新書、2019)

著者は海外を渡り歩く30代前半の研究者。にもかかわらず、1960年代以降の内外の現代美術の動きを、まるで見てきたかのように的確に描き出す。むしろ日本にいないからこそバイアスがかからず、バランスのとれた筆致が可能になったのかも。

大谷省吾・河田明久・木下直之・林洋子『いかに戦争は描かれたか BankART school』(BankART1929、2017)

戦争画に関しては戦後70年の2015年に多くの展覧会が開かれ、関連書籍も出たが、ここでは手前味噌ながら、BankARTスクールで開いた講座をまとめた本を紹介したい。第2次大戦の戦争記録画だけでなく、明治以降の戦争画やモニュメント、スペクタクルまで幅広く収録している。

岡崎素子さんのおすすめアートブック

図録『ハマスホイとデンマーク絵画』(読売新聞社、2020)

ここ数年、その魅力が見直されていてじわじわときている作家です。いつまでも、ずーっと観ていたくなる。説明は不要。観ればきっと誰もが、その不思議な魅力にはまるはずです。

『国立美術館ガイド1〜4セット』

編集・デザイン・執筆:岡崎素子
イラスト:岸潤一
監修:東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館
翻訳:アルバート・マーリク
定価:5,280円(税込)*hontoで購入の場合は送料無料


本品はケースが下記の4種類ある。各美術館のミュージアムショップでは1冊でも販売している。
東京国立近代美術館版ケースセット hontoウェブサイト
京都国立近代美術館版ケースセット hontoウェブサイト
国立西洋美術館版ケースセット hontoウェブサイト
国立国際美術館版ケースセット hontoウェブサイト

トピックス /relation/e_00031057.json l 10161941
  • 【PR】『国立美術館ガイド』でコレクションを拝見!

文字の大きさ