2021年07月15日号
次回8月2日更新予定

トピックス

新型コロナ禍での行政による文化芸術支援 これまでとこれから(後編)

内田伸一(編集者、ライター)

2021年02月01日号

新型コロナ禍下の文化芸術活動に対する行政支援について、特に美術領域をめぐる状況を考える連続記事。前編では支援を届ける側・つなぐ側の声をお届けしたのに続き、後編は支援を活用したアーティスト、ギャラリスト、批評家などの声を聞き、その意義と課題を考える。


文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」を活用して制作された作品集等。なお「DOMANI・明日展2021 スペースが生まれる」(1月30日〜3月7日、国立新美術館)では、こうした制作物を展示紹介し、一部は展覧会ショップで特別販売も行なう。

はじめに──文化芸術活動の継続支援事業


まず、文化庁による「文化芸術活動の継続支援事業」(以降「継続支援事業」)の概要を振り返っておく。補助形態は以下の4種が用意された。


表1:「文化芸術活動の継続支援事業」補助形態

補助形態 補助額上限 対象
活動継続・技能向上等支援A-① 20万円 標準的な取組を行なうフリーランスを含む個人事業者向け
活動継続・技能向上等支援A-② 150万円 より積極的な取組を行なう個人事業者向け
活動継続・技能向上等支援B 150万円 小規模団体向け
共同申請 1,500万円
(10者の場合)
小規模団体・個人事業者向け(複数事業者が共同して取り組む活動が対象)

*想定された具体的な活動内容など、詳細は同事業の募集案内を参照。


申請期間は第一次募集(2020年7月10日~31日)、第二次募集(8月8日~28日)、第三次募集(9月12日~30日)に加え、これらに申請した者も補助額上限150万円との差額内で追加申請できる新規募集(11月25日~12月11日)の計4回設けられた。

本稿執筆時点で把握できた、申請件数はのべ96,280件。うち美術と写真分野からの申請は合わせて12,000件超(表2)。なお日本美術家連盟を通じて発行された事前確認番号は4,117件であった。本稿執筆時点では全体で56,277件の採択が報告されており、締切後も進む諸手続きがすべて終わった後、最終集計と共に分野別内訳も公開されると推察する。


表2:「文化芸術活動の継続支援事業」申請者数および申請件数

申請者数 *1 77,697
申請件数(のべ)*1 96,280 分野別内訳における美術と写真、各分野の件数
第1〜3次募集 :美術:5,890件、写真1,262件 *3
新規募集   :美術4,163件(2,546)、写真856件(583)*4
*( )内は新規募集における初回申請者
採択件数 *2 56,277 補助形態別内訳(分野別は本稿執筆時点では未公表)
A-① 33,242件、A-② 19,152件、B 3,577件、共同申請306件

*1, 2:それぞれ2020年12月11日、2021年1月22日の公表値(文化庁ウェブサイト
*3, 4:それぞれ2020年10月16日(第1〜3次募集)、12月25日(新規募集)の速報値(文化芸術活動の継続支援事業ウェブサイト


以降、実際に採択された美術関係者の話を聞きつつ、事例をいくつか紹介したい。

それぞれの「活動継続」──作品集の制作


蓮沼昌宏氏
Photo by Tomoya Miura Photo courtesy Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]


アーティストの蓮沼昌宏(1981年生まれ、愛知県知多市在住)は、手回し式アニメーション装置「キノーラ」による作品や、豊かな解釈可能性を湛えた絵画で知られる。2020年は1月から富山県美術館のプログラム「アーティスト@TAD」で滞在制作を行ったが、続く作品展「物語の、準備に、備える。」では会期途中でコロナ対策のため臨時休館、そのまま最終日を迎える苦い体験をした。さらに、参加予定だった「奥能登国際芸術祭2020」も翌年に延期された。

そうしたなかで取り組んだのが、自身の作品集だ。『床が傾いていて、ボールがそこをひとりでにころころ転がって、階段に落ちて跳ねて、窓の隙間から外へポーンと飛び出てしまう。蓮沼昌宏』と題した同書の制作にあたり、蓮沼は活動継続・技能向上等支援A-②に申請した。

蓮沼──作品集については、2019年7月頃からデザイナーの阿部航太さんや、テキストをお願いした林立騎さん(キュンストラーハウス・ムーゾントゥルム〔ドイツ・フランクフルト〕企画学芸員)に声をかけて考えていました。本の中でゆっくり、じっくり時間を過ごせたらいいなというのと、作品についていろいろと説明をしたいと思うようになってきたのが大きな動機です。その後なかなか進められなかったのですが、今回のことをきっかけに動き出しました。



作品集『床が傾いていて、ボールがそこをひとりでにころころ転がって、階段に落ちて跳ねて、窓の隙間から外へポーンと飛び出てしまう。蓮沼昌宏』(写真提供:蓮沼昌宏)


完成した作品集は全96ページ、シンプルながら作風にマッチした軽やかな造本に、豊富な図版と和英併記のテキスト群(蓮沼と上述の林に加え、臨床心理士の猪股剛が執筆)が収録された。500部を制作し、販売はせず美術関係者らに配布★1ウェブサイトではPDFを無料公開している。苦境を機に始まった試みながら、蓮沼は「制作が進むほど、本づくりを面白いと感じました」と手応えも語る。継続支援事業の活用を通じて感じた、今後の課題点も聞いてみた。

蓮沼──(申請や事業報告の)スケジュールがタイトで、かつなかなか融通が効かなさそうだった点でしょうか。今回のような事態で自主的な活動継続を考えるとき、普段なら展覧会主催者等から自分へ払われるフィーは見込みがたい厳しさもありました。そうしたなかで見通しを立てるうえでは、申請後、採択結果がより早く出ると助かるとも感じます。誰にとっても初めての事態なので、支援現場の混乱も想像できます。一方、同様に申請者側の混乱も想像していただき、より柔軟な対応をしてもらえるようになると尚ありがたいと思いました。

支援の迅速性や柔軟性については、今回得た生の知見を今後にも活かす視点が重要であろう。なお現在、蓮沼は神戸アートビレッジセンターで2月開幕予定の個展「ART LEAP 2020『特別的にできない、ファンタジー』」を控えている。作品集制作を通じ、自らに向き合う時間も体験した蓮沼の表現に期待したい。

展覧会の自主開催と新たな拠点整備

アーティストの中﨑透(1976年生まれ、茨城県水戸市在住)はA-②を申請・活用し、ホームタウンでの展覧会を開催した。

中﨑は「看板」をモチーフとした作品群や、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど多様な表現を行ない、アートユニットのNadegata Instant Partyや「プロジェクトFUKUSHIMA!」でも活動。各地の芸術祭やアートプロジェクトにも多数関わり、地元では「水戸のキワマリ荘」内でギャラリー「遊戯室」の運営も続ける。2020年は、参加予定だった「いちはらアート×ミックス2020」が翌年に延期、「札幌国際芸術祭2020」は中止になるなど、重要な活動機会を失った。



中﨑透氏
「コネクション・コレクション」展会場の中﨑透美術館準備室(仮)にて


そうした状況下で自ら企画・開催したのが「中﨑透 コネクション・コレクション」展だ。自身のもとに約20年の歳月とさまざまな縁を通じて集まった所持作品で構成した展覧会と、自作茶碗による野点(のだて)パフォーマンスから成る企画。2020年10月末から、土日祝日の7日間限定で開催された(後に予約制で同年末まで延長)。



中﨑透/NAKAZAKI Tohru《Connection Collection》
映像制作:山城大督


故人を含む先行世代の作家や、美大時代の陶芸サークル仲間(今や人気作家となった者もいる)の作品、さらに同時代の現代美術家による貴重な小品や、ジャンルに回収されない作品などが、中﨑との縁を通じて提示される。ある意味、自らを形づくってきたものたちを編み集めた展示は、「つくる」ことにさまざまな制限が生じた状況下で実現された点からも興味深かった。

加えて印象的だったのが、前述「水戸のキワマリ荘」とともに同展会場となった、「中﨑透美術館準備室(仮)」だ。建物は水戸駅からも車で5分ほどのひたちなか市郊外、畑が広がる風景の中にあり、古い農家の住居や倉庫、蔵を手直ししたもの。長年、自宅を倉庫がわりにしてきたものの限界がきたことなどから新スペースを探し、古い建物をそのまま引き受ける条件で破格の競売物件になっていたものを思い切って購入した。まだコロナ拡大前のことだ。



「コネクション・コレクション」展(中﨑透美術館準備室(仮)会場) [撮影:松本美枝子]


中﨑──2019年からコツコツとDIYで修繕し、まず一部を自分のスタジオ兼倉庫にしていました。オープンスタジオなども考えていたところに新型コロナ禍が来て、日々の活動にも影響が出てきたなかで、試行錯誤しながら実現したのがこの展覧会です。オープンスタジオ的な意味合いも含む展覧会に加え、感染防止もふまえた屋外パフォーマンスとして野点を組み込んだ、定員有料公演的な企画としました。まだ使えていなかった母屋などにも手を入れ、展示空間としての整備にも支援を活用しました。

7月末に第一次募集で申請。複合的な企画内容のためか、数回の確認や微調整を経て、9月上旬に採択通知を得た。

中﨑──僕の場合は採択までそれなりに時間もかかりましたが、活用できる制度だと思いました。特にA-①コースは多くの人が活用しやすかったのでは。美術に関わる仕事をしていても、それだけで食べていけない人は少なくないだろうし、誰もが持続化給付金などを申請できるわけではない。その点、継続支援事業は若い人でも一定の活動実績があれば申請しやすい支援制度だったように思います。

一方で、自身の場合は採択後の苦労もあったという。

中﨑──当初、補助金決定額がA-②コース上限いっぱいの150万円であっても、個人や任意団体の場合は前払い額が最大20万円でした★2。もともと十分な準備金があったわけではないので、採択後、残る事業予算を事前調達するのにかなり苦労しました。定められた事業実施期間は守る必要がありますし、一方で、諸々進めてしまったあとに支払いが間に合わないとなれば、最悪の場合、個人事業主や零細企業だと事業をたたむ危機にもなりかねない。採択後に事業規模を縮小申請できる仕組みもありましたが、補助額が大きい場合はこうした点に気をつける必要があり、無責任に誰にでも勧められるものではないなと思いました。

一部前払いなどの支援制度の仕様は、被支援者にとっての使いやすさと、制度の有効機能(例えば不正受給の防止)とのバランスという一面もあると思われる。今回の支援は「入口」のハードルを工夫して下げてくれたのがありがたかった一方、支援の活用やその効果という「出口」に向けて起こりうる出来事について、解像度を上げていくべき部分も見えたのではないか、と中﨑は語る。それは支援する側・受ける側、双方の課題だろう。

中﨑──例えば日美連が事前確認番号の発行窓口になってくれたのは、美術に関わるフリーランスに社会的な身分証をくれたような、ありがたい動きでした。ただしそれは今回限りの仮設的なもので、今後はどう考えていくべきか。美術をめぐる諸活動が多様化したいま、広く同業者として連帯することの難しさもあるでしょう。加えて70年代の社会運動や労働組合のような活動に対し、続く時代が反発・敬遠した流れを、僕らは今なお引きずっている面もあるかもしれません。ただ、今回のコロナ禍の経験もふまえ、やはり何らかのつながりは必要だろうとも感じています。

活動記録、あるいは修練の時間への支援

今回の継続支援事業の特徴に、文化芸術活動を支える多様な職能にも広く扉を開いた点がある。KEN NAKAHASHI(東京・新宿)を運営するギャラリストの中橋健一はA-①を活用し、自ギャラリーで開催した展覧会のアーカイブ冊子を制作した。



KEN NAKAHASHI発行の展覧会アーカイブ冊子。左が森栄喜版、右が松下まり子版


中橋──森栄喜と、松下まり子の個展のアーカイブ冊子として、それぞれ100部ずつ作成しました。美術の展覧会というのは、雲のように現れては消えていくけれど、一定期間たしかに存在し、人の目に触れたものでもある。それを後世に残したいとの思いから取り組んでみたものです。普段は金銭的な制約等からなかなか作ることが難しいのですが、この継続支援事業を活用できたのはありがたい限りでした。作家たちとも話し合ったうえで、販売目的ではない資料として、関係者にお送りしています。

なお、事業活動という面からは、小規模事業者やフリーランスを含む個人事業者をも対象にした「持続化給付金制度」を活用した人々もいるだろう。例えば作品や図録等の販売がもつ営利活動的側面(それは作家やギャラリストらの生活を支えてもいる)と、それが文化芸術振興に資する側面は、単純には切り分けがたい部分もあるが★3、これも今後、行政の文化芸術支援を考えていくうえでのひとつの観点になりうるだろう。

即時的には形ある成果物にならずとも、その累積に価値がある活動は美術をめぐる世界にも多い。『美術手帖』『Tokyo Art Beat』などで批評活動やインタビューを行なう美術批評・理論の菅原伸也は、そうした営みに継続支援事業を活用したひとりである。

菅原──「現代美術と社会との関わりについてのリサーチと、リサーチ環境の確立」との事業名で、第一次募集にA-①で申請し、主にリサーチテーマに関する書籍購入や、リサーチ環境確立のためのタブレット購入などに対する補助を受けました。申請項目は「技芸の研鑽のための自主稽古」「技能向上を目的としたリサーチ」を選び、さらに自由入力欄で「リサーチ環境の確立」としました。申請した活動費の3分の1は自己負担となる点★4、また補助金の半額は前払いされるものの、残る半額はまず自分で用意してから精算する点では、申請者の金銭的負担も大きい。そうした改善すべきと思える点はあるものの、この支援制度はコロナ禍における苦境の軽減や新しい試みへの後押しという点において、一定の評価は与えられると考えます。

充実した公的支援を求める際につねに突きつけられるのは「文化芸術はそのような支援に値するか」との問いであり、それはより広く「我々はどのような社会を望むのか」にも関わる。新型コロナが日本で初めて確認される直前の2020年初頭、菅原が東京でインタビューしたハンス・ウルリッヒ・オブリストは、以下の言葉を残している。


特にいまの人類が抱えている大きな課題……社会における不平等や絶滅の危機も含めてさまざまな課題に向き合うためには、このように分野を超えた相互作用から生まれてくる学びがすごく必要だと思います★5


今回、文化芸術の諸領域がそれぞれ公的支援を求めて声を挙げ、連帯もみせたが、美術はそこで「分野を超えた相互作用」を生み出せただろうか。また、支援する側が対象を理解尊重し、支援を受ける側もその意味を社会との関わりのなかで考えながら活動していく。そうした「相互作用から生まれる学び」は、いかに育めるだろうか。

これからの文化芸術支援──支援する側・受ける側の生態系を考える

最後に取材したのは、アーティストの川久保ジョイである。スペインのトレドで18歳まで育ち、筑波大学人間学類で学んだ後、金融トレーダーとして働いた経験も持つ。写真や映像を主な表現手法に、哲学的な問いを内包する作品制作を続けている。



川久保ジョイ氏


川久保は現在ロンドン在住であり、したがって今回の継続支援事業の対象者ではなかった★6。それでも取材をお願いしたのは、海外での行政による文化芸術支援状況を聞いてみたかったことが理由のひとつだった。

2020年12月4日、川久保も登壇した文化庁アートプラットフォーム事業の連続ウェビナー「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー〈第4回〉『コロナ以降』の美術とは? アーティストの視点から見る表現・支援の課題」★7のあと、話を伺った。

ウェビナーで彼は、コロナ下における英国の補助金・助成金を紹介した。免税措置などを受けている小規模事業者(スタジオを持つアーティストらも対象になる)への一時給付金「Small Business Grant Fund」などに加え、文化芸術活動に携わる個人への助成金としては、アーツ・カウンシル・イングランドの「Developing your Creative Practice」が、コロナ禍を受けて予算を従来の約5倍(約25億円)に増額したことなどに言及。同制度は新たな調査開発(制作)を対象とするが、成果発表や領収書等の提出は義務付けられていない。支援金は活動の基本維持費等にも利用可能なため、生活費のための副職などに労力を奪われず、創作等に時間を投資できる。短期的な成果主義ではないこうした支援が、日本でも増えてほしいというのが彼の意見だった。

川久保──関連して僕は、文化芸術に関わるフリーランス等の人々にも、特に緊急時には人としての生活そのものを支えるセーフティネット的な動きがあってよいのではと考えます。きちんと納税して社会の一員の「義務」を果たし続けてきた者が、支援を受ける「権利」をもつとの考え方はもちろん理解できます。ただ、近年はとかく義務の部分ばかりが先行条件として求められるように思えることも多いように感じるのです。やむを得ない事情で窮地に陥ったようなケースまで、すべて個の責任に帰すべきなのかという疑問があります。

彼のこうした問題意識は、2020年7月、美術関係者有志によるart for allの一員として「美術への緊急対策要請書」公開と賛同署名を募った活動ともつながっている★8。取材を申し込んだもうひとつの理由は、このart for allの向かう先について聞いてみたいからだった。同業者団体のような組織化・法人化はされていないが、アーティストらの活動・労働・雇用条件の改善、ハラスメントの防止のための環境整備、美術の社会的価値、評価の為のキャンペーン、文化政策への参画に向けた活動を目指しているという。

美術分野から行政や社会に声を届け、ともに考えていくうえでは、やはり何らかの恒常的な連帯が必要だろう。それは、ワンイシューごとに離合集散するのではない、一定数以上の顔の見える市民集団としての存在感や社会的信用をもち、交渉や協力のための窓口をつねに開いておくことにもつながる。ただ、戦後まもなく設立された日本美術家連盟のような組織をいま立ち上げるのは、簡単ではないのも事実だ。

川久保──僕もイギリスではArtists' Union England(AUE、英国芸術家組合)に加入しており、6,000円程の年会費で雇用保険や法律相談サービスを受けられるなどの利点があります。art for allが今後、ユニオン的なかたちを目指すべきかどうかは、内部でも議論中です。活動原資のためにも高額でない会費を募る会員制にしてはという意見と、会費徴収が広がりの障壁になるのではとの意見があり、僕は今のところ後者寄りです。ただ、art for allは社会実験のような性質もあるので、多様な選択肢を議論し、試行しながら可能性を探っていけたらと思います。

art for allは現在、不定期のオンラインイヴェント「アーティストのための実践講座」も始め、「アーティストの『お金』事情」、「ハラスメントについて一緒に考える」といったテーマで、アンケート等も交えつつ知見や課題を共有する試みにも取り組んでいる。

筆者は、今後の文化芸術支援をめぐって有効な役割を果たせる美術の同業者団体が誕生可能なら、それは「美術関連の仕事に携わる者」くらいの最大公約数的つながりが理想で、かつ法人化が必要ではと考える。あるいはまず小さな集合体がいくつもあり、それらがつながり合ってより大規模な集合体をなすかたちが有効だろうか。明確な答えはまだ見えない。

重要なのは、美術の重要な価値観のひとつであろう多様性を尊重しつつ、必要な場面では「私たち」として社会と対話できる環境づくりではないか。そして、こればかりは支援を待つのではなく、自分たちでつくるしかない。新型コロナは多くの混乱と喪失を生み、それは今も続いている。しかしそこから生まれたものも確かにあることは、今回の取材からも実感できた。私たちはいつか「このときの苦境を発端として、今日のような文化芸術支援の生態系が発展したのだ」と語れるようになるだろうか★9


★1──その後「DOMANI・明日展2021」(主催:文化庁、国立新美術館)にて継続支援事業の活用事例として展示され、同展ショップでは販売も実現。なお蓮沼は今回の支援を、ICT(情報通信技術)を生かした短編アニメーション作品制作にも一部活用した。
★2──第一次〜三次募集においては、個人及び任意団体に対する前払いは20万円が上限とされた。その後「新規事業」募集において、この前払い金額は補助金交付決定額の50%を上限とする旨の変更がなされた。
★3──日本美術家連盟が申請検討者に向けた参考資料として公開した採択事例(同連盟によるアンケートを元にしたもの)をみると、作品販売等につながる活動でも採用されたケースがある。例えば、オンライン販売を可能にするウェブサイトの整備や、絵画教室の再開に際した展覧会における、絵葉書やカレンダーの製作販売などだが、これらの場合も、活動継続に力点を置いていることが重視されたように見受けられる。
★4──補助の基本的な考え方は、申請の軸となる取り組みにかかる経費の3分の2、または4分の3(対象経費の6分の1以上をICTの活用による集団練習などに充てる場合)相当額とされる。併せて新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインに即した取り組みを行なう場合は、その経費も支援額に加わる。これらが、本文で示した各コースの上限額内で支給される。
★5──「ハンス・ウルリッヒ・オブリスト インタビュー:美術館、そしてキュレーターの役割について」(『Tokyo Art Beat』、2020年1月22日)
★6──支援対象者は国内で活動する文化芸術関係者。外国籍でも日本で活動する人々なら支援を申請できるようにした。他方、川久保は英国に納税する在住者を対象にした助成や支援を活用しており、国籍や在住地による支援資格の切り分けのあり方も、議論されうる点であろう。
★7──登壇者は川久保のほか、向井山朋子(ピアニスト/アーティスト)、若林朋子(プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授)と、モデレーターの大舘奈津子(芸術公社/一色事務所/日本現代アート委員会 委員)。その様子は以下でレポートされている。
「アーティストが語る支援と課題:レポート『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」(『Tokyo Art Beat』、2020年12月9日)
★8──art for allは「美術への緊急対策要請書」を公開して賛同署名を募り、集まった署名(呼びかけ人・賛同者合計4,710名)を2020年7月7日に政府各所へ郵送した。以降は継続支援事業の申請方法ガイドの公開、同事業に関するアンケートの実施と公開も行なっている。
★9──なお文化庁は令和2年度第3次補正予算で実施する「コロナ禍における文化芸術活動支援」において、文化芸術に関わる団体や施設への支援を軸にした3事業に計370億円の予算を計上。これらも今後の進展が注目される。

  • 新型コロナ禍での行政による文化芸術支援 これまでとこれから(後編)

文字の大きさ